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記事『映画版「Little Women」二作においての二つの謎』

【アメリカ文学の講義でのレポート】
 後期の授業のテーマの中から、自分で何か一つ選び、タイトルをつけてレポートを提出。何か謎を解明するようなテーマに。
 1200字程度。

 2020年、期待の監督グレタ・ガーウィグがルイーザ・メイ・オルコットが1868年に発表した小説『Little Women』を映画化して話題作となった。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の映画の原題は原作のまま『Little Women』であったのだが、邦題には昔から『若草物語」という言葉が使われており、今回もしかりであった。

 何故『Little Women』を『若草物語』と訳したのだろう。直訳的表現としては初めてこの小説が刊行された時のタイトル「小婦人」というものもあるというのに、日本人になじみがあるのは「若草物語」である。初めて映画として公開されたとき、何故映画の日本語監修を手掛けた吉屋信子氏はこのようなタイトルにしたのだろうか。 

 『若草』という言葉はデジタル大辞泉によると以下のような意味を持つようだ。 

1 春になって新しく生えてきた草。《季 春》「―や水の滴る蜆籠(しじみかご)/漱石」 
2 年の若い女性をたとえていう語。 
「うら若み寝よげに見ゆる―をひとの結ばむことをしぞ思ふ」〈伊勢・四九〉 
3 襲(かさね)の色目の名。表は薄青、裏は濃い青。 

 2のようにあることから、『年の若い女性の物語』と言いたかったのだと推察される。若い草木が勢いよく、元気に生い茂っていくことに主人公の躍動を重ねたのではないか。また、日本において「春が来た」といえば恋愛の展開が続くだろう。決して『若草物語』は恋愛至上主義な物語ではない。しかし、女性に課せられた結婚の宿命を担ったり、背負わないことを選択しようとするなど、やはり結婚という恋愛沙汰に縛られた話である。だからこそ、新しい時代を描こうとするオルコットの思いもまとめた邦題なのであろう。 

 このような思いが込められた『Little Women』は何度も映像化されている。その中で、1994年版と2020年版を比べて鑑賞すると構成以外にもいろいろな変更点があった。1994年版のほうがより「女性を虐げる時代観に対する抵抗」や「女性に選挙権を与えるか否かの論争」、「コルセット着用の道徳意識」などを主人公ジョーの母が顕著に訴えていた。 

 何故、2020年版ではそこが省かれたのだろう。現代人にはもうそういったコルセットなどの時代観が馴染みのないものとなっているからではないだろうか。だからこそ、そういったものは除いて、いまだに価値観として共通点がある「女性は結婚こそが幸せだ」という考えに対抗することに重きを置いて描いたからではないか。ガーウィグは、アーティストとしての女性、女性が経済力を持つことという原作の伝えたかった部分を大事にしたという。女性にも意思があり、その強い意志を行使してもいいのだというところが2020年版では重要とされていたのだろう。 

 また、1994年版での演出に強い意図を感じたシーンがある。ベスの夭折後、幼少期から長く連れ添った使用人であるハンナがベスが愛用していたベッドやピアノに赤い薔薇の花びらをちぎって散らした。この行動がそれなりの長さで撮られていたのだが、これにはどのような意味があるのだろう。 

 まず、思いつくのが花言葉だ。英語での薔薇の花言葉は以下のようなものがあるようだ。【1】 

「I love you(あなたを愛してます)」「love(愛情)」「beauty(美)」「passion(情熱)」「romance(ロマンス)」 

 確かに、ベスは美しく、家族から愛されていた。けれど、それだけではしっくりこない。弔う場面での赤い薔薇にはどういう意味があるのだろう。 

 彼らが信仰していたのは、キリスト教である。キリスト教の中で、薔薇という象徴が何を表すのか、ということから推察する。習慣として、薔薇の花は本質的に人を弔う花とされ、死者の名誉に敬意を表すために飾られてきたようだ。 

 古代ローマでは、薔薇は「ウェヌス〔ヴィーナス〕の花」として知られウェヌス〔ヴィーナス〕に仕える聖娼たちのしるしであった[Rose(バラ) (kyoto-inet.or.jp)]。そこから、聖母マリアのイメージが伴い「神の愛・赦し・殉教・勝利・慈悲」などといったものの象徴である。その中でも白い薔薇ならば、「純潔」という意味を持ったようだ。 

 そこで思い出すのが、薔薇のシーンの続きにうつされる人形たちだ。ベスは幼くして病気を患い、恋愛などをすることもなく家の中で過ごしていた。また、2020年版ではベスが人形にご飯をあげているシーンもある。このことから、ベスは実に純な童心を持った清い存在だったのではないかと推察される。その表現としての人形に対して、大人の女性になることが叶わなかったベスへのはなむけとして赤い薔薇を選んでささげたのだろう。 

 小さな演出の中に思想や宗教観が感じることが出来る。最大の疑問だった「舞踏会の会場で階段から何らかのフルーツを落とす子供たち」の演出は私の勉強不足のため、解明することが出来なかった。あんなことをしたらドレスが汚れてしまうのではないか、という疑問は今後の課題として調べていきたい。 

(参考資料) 

【1】バラの花言葉(色による意味の違いや西洋の花言葉も) | e恋愛名言集 (rennai-meigen.com) (2021年/01/31) 

期待の新人監督は、なぜ19世紀の小説「若草物語」を映画化したのか | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) (2021年/01/31) 

Rose(バラ) (kyoto-inet.or.jp) (2021年/01/31) 

薔薇で弔う – 花以想の記 (hanaimo.com) (2021年/01/31) 

バラはキリスト教の花となる | 産地直送|バラの販売、薔薇の通販|フラワーギフト|信州のバラ園・静花園 (seika-en.jp) (2021年/01/31) 

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