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ヴィンテージの地平線

text by 武漢

0.頭語

前回、第3回添削杯へ寄稿した「ヴィンテージ概論」は、多くの反響をいただけて大変嬉しく、身に余る光栄だった。

幸いにも、この度の第6回添削杯に寄せて、続編を執筆する機会を頂けることになった。あれから1年半を経て様変わりしたヴィンテージの概況を述べてみたい。



1.激震のヴィンテージ

1993年のマジック創生以来、営々と蓄積されてきた20000枚以上のカードの中でも、選りすぐりの精鋭たちが火花を散らすフォーマットがヴィンテージだ。新エキスパンションが追加された場合でも、既存のカードとの競争に打ち勝ってヴィンテージで使われるのは良くて2~3枚であり、メタゲームの激変などはそうそう起こらない環境だ。

しかし、ここ3年ほどは、こうした従来の常識を覆すほど強力なエキスパンションの参入が相次いでいる。その軌跡を簡潔に追いかけてみよう。

ここ3年の重要エキスパンション&カード



1.1.第3回添削杯までの推移

2019年5月の灯争大戦から見ていこう。これは近年稀に見る高パワーレベルのエキスパンションであり、中でも《ボーラスの城塞/Bolas’s Citadel》は《修繕/Tinker》を核とするコンボデッキを猛烈に加速させた。

間もなく、モダンホライゾンがピッチスペルを多数追加した。多くのデッキタイプが恩恵を被ったが、《活性の力/Force of Vigor》を手に入れたBazaar of Baghdadデッキの強化ぶりは飛躍的だった。

続くテーロス還魂記に収録された《タッサの神託者/Thassa's Oracle》はDoomsdayを以前と別物といえるほどに強化し、《死の国からの脱出/Underworld Breach》は新たなアーキタイプBreachを創始した。

この後、2020年半ばにはイコリアの頼りになりすぎる相棒、《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》がヴィンテージを荒らし尽くすのだが、ほどなく禁止指定及び相棒ルール改定により沈静化した。

こうして2019年4月~2020年初頭までの短期間にヴィンテージは劇的な変化を遂げた。隆盛するコンボ及びBazaarデッキが環境を著しく高速化させ、アグロ~コントロールはこれに追随するために、新たに獲得した、より低コストで即時性の高いカードで武装した。例えば次のような要領だ。

継続アドバンテージより即戦力の時代

以上、第3回添削杯、つまり「ヴィンテージ概論」時点までの推移を追った。



1.2.第3回添削杯~現在

2020年11月から2022年5月現在まで、9エキスパンションが追加された。ヴィンテージへの影響について言えば、モダンホライゾン2が群を抜いて重要で、程度の差こそあれヴィンテージ級のカードが20枚以上も新録された驚異的なエキスパンションである。

どのようなカードが、どのデッキで使われたかについては「3.ヴィンテージデッキタイプ紹介」で詳しく述べる。ただ、《ウルザの物語/Urza's Saga(以下、サーガ)はパワーレベル、影響力とも桁違いなため、先に「2.サーガ大解剖」の節を立てて分析することとしたい。



2.サーガ大解剖

ウルザの生涯を叙述するが如き1枚


2.1.性能分析

改めてサーガ単体での性能を吟味し、そのパワーレベルがどの程度のものか考えてみよう。


・2.1.1.カードタイプ

土地でありながら英雄譚エンチャントでもある異色の1枚だ。

これらのカードタイプを対象とする《不毛の大地/Wasteland》や《活性の力/Force of Vigor》の的になってしまうのは勿論、土地タイプの上書きにも弱いという脆さがある。一方で、土地であることで打ち消されず、「土地でないパーマネントを・・・」タイプの除去を回避できる(《虹色の終焉/Prismatic Ending》等)。

また、英雄譚ゆえセットした2ターン後には自壊してしまう点が、マナ基盤としては弱点となるはずだが、ことヴィンテージに限っては全く弱点として機能しない。(「2.1.3.第III章」にて説明)。


・2.1.2.第II章

サーガの中核を成す能力。サーガ単体でも、2回起動できればトークン2体+第III章のサーチで3/3が2体。これにSoloMoxenをはじめとするアーティファクトが加われば4/4、5/5・・・と際限なく強化されていき、特化したデッキなら2桁サイズに達することさえある。

最早コストパフォーマンス云々を論じる段階ですらなく、土地1枚から盤面を制圧するフィニッシャーが現れると理解した方が早い。これは、特にコンボデッキにおいて追加の勝利手段ともなり、多角的な攻撃を可能にする。

ブロッカーとしても大半のクリーチャーを退けるサイズであり、アグロデッキに対してはトークンをカウンターで守り抜くことで事実上勝利手段を奪うような使い方もできる。


・2.1.3.第III章

定番サーチ先リスト

上のリストを見てもらえれば分かるとおり、サーチ先は非常に多彩、しかもいずれも一線級であり、デッキを歪めることなく自然に組み込めるアーティファクト揃いだ。

注目して欲しいのはSoloMoxenが含まれていることで、サーガが自壊することによるマナ基盤の減を補填する使い方が、ヴィンテージにおける強さを保証している。

その上でコンボパーツを揃える攻めのサーチ、相手のプランを挫く守りのサーチと完備されている。中でも、《多用途の鍵/Manifold Key》はコンボ2種の他、トークンと組み合わせてブロッカーを突破する用途があり、カード名に恥じない多用途ぶりだ。

このように、サーガはそれ自体がパワーカードなだけに留まらず、ヴィンテージというフォーマットとの相性が抜群であると総括できる。



2.2.環境への影響

これを執筆している2022年5月現在、ヴィンテージでは50%のデッキがサーガを3~4枚採用しており、モダン・レガシーの採用率20%程度と比較しても異常な占有率だ。

その影響の大きさは、前回の添削杯でも如実に示されたとおりだ。総勢73名で102枚のサーガを使い倒した本大会、次の評は尤もであろう。

添削杯Vol.5は、まさに《ウルザの物語/Urza's Saga》のための大会といっても差し支えないだろう。

添削杯Vol.5 観戦記事 決勝戦 もみー vs 月見 ~主人公は唯一人~

解説役であったじんしん氏からも、サーガに関して非常に鋭い論考が寄せられている。



2.3.アーキタイプ再分類

さて、これほど高い占有率となったのは、多くのデッキタイプが定番枠として採用したことが要因だ。では、具体的にどのようなデッキタイプで使われているのか詳しく見てみよう。

ヴィンテージ概論」では、土地の視点からアーキタイプを3分類し、それぞれの下位分類としてデッキタイプを紹介していく形式をとった。

その上で、ヴィンテージ環境を土地で分類した3大アーキタイプとして「青(島)」「Workshop」「Bazaar」がある、と整理したい。

ヴィンテージ概論
3大土地の勇姿

そこで今回は、この分類にサーガを加えてみる。といっても、4つ目のアーキタイプとして「サーガ」が誕生したわけではない。それはむしろ、3大アーキタイプの各デッキタイプを「使う側=サーガ側」「倒す側=アンチ側」に二分する補助線として挿入される。

3大アーキタイプとサーガ

※補足:これはサーガを投入しているかどうかの区分であって、サーガ側のデッキタイプであっても、サーガへの対策(同型対策)を盛り込んでいるのは勿論である。

性質上当然のことではあるが、アーティファクトを多用するデッキタイプほどサーガ側に回る。具体的には次の5デッキタイプだ。

  • 青>アーティファクトコンボ:Tinker・逆説・Breach

  • Workshop:MUD・Stax

サーガ投入による影響としては、《Time Vault+多用途の鍵/Manifold Key》の再評価が挙げられる。この無限ターンコンボパッケージは、パーツ単体での弱さが懸念されて漸減傾向にあったが、「2.1.3.第III章」で述べたように、多機能の鍵とサーガとの相性が注目され、再び脚光を浴びるようになった。また従来のセオリーを破り、Workshopアーキタイプが採用するケースも出てきた。

お手軽無限ターン


一方、アンチ側を選択したデッキタイプの分布は次のようになっている。

  • 青>クロックパーミッション:Izzet・墓荒らし

  • Bazaar:Dredge・HollowVine・HogaakVine

  • 青>非アーティファクトコンボ:Doomsday

前2グループの5デッキタイプは全くバラバラではあるものの、クリーチャーの攻撃を勝利手段とする点では共通しているので、サーガが生成する屈強なトークンを何らかの形で乗り越える必要がある。そのため、土地破壊(《露天鉱床/Strip Mine》《不毛の大地/Wasteland》)にプラスして、トークン対策となるカードを搭載するケースが多いようだ。

どれだけ強くとも土地は土地



2.4.対策

では、サーガへの対策をより詳しく見てみよう。

まず直接的な対策カードとしては次のようになる。

代表的な対策カード

やはり、最も明快な対策となるのは土地破壊だ。これはサーガ側から見ても、その採用率の高さ、ノーコストで出て打ち消しも効かない対処の難しさから、最も警戒すべき相手となる。

よりサーガに特化した対策には土地タイプ上書きがある。ルール上の説明は省略するが、サーガがテキストを上書きされた場合、即座に墓地に置かれる。先出し・後出しともOKで、後続もシャットアウトできると、非常に頼れる対策となる。中でも《高山の月/Alpine Moon》は相手側にのみ作用するため、同型対策としても頻繁に見られる。

他に特筆すべき対策カードは、エンチャントからアーティファクトを出すサーガの構造に刺さるピッチ除去、《活性の力/Force of Vigor》だろう。特にBazaarアーキタイプ目線では第II章のトークン・第III章のアーティファクト(墓地対策)とも厄介極まりないため、土地破壊か活性の力でサーガを処理できるかが死活問題となる。

しかし、より俯瞰的な意味での対策もある。即ち、個々のカード単位の対策ではなく、デッキとしての動きでサーガに勝つというアプローチだ。これに該当するのはIzzet・Doomsday・Dredge(《銀打ちのグール/Silversmote Ghoul》型)がある。ごく簡潔に描写すれば、Izzetは飛行でサーガトークンを乗り越え、Doomsday・Dredgeはサーガの隙を突く速度で一気に勝利するプランを持つ。



3.ヴィンテージデッキタイプ紹介

3大アーキタイプ・12デッキタイプ再掲
3大アーキタイプの一言説明(支配率は2022年5月現在)

本節では3大アーキタイプ・12デッキタイプを紹介していく。それぞれ、デッキタイプの概要をまとめた後、「ヴィンテージ概論」時点から追加されたカードについて考察する段取りとする。

ただ、サーガを投入したことによる影響については、同じ説明の繰り返しを避けるため、「2.1.性能分析」で述べた内容は共通事項として省略し、各デッキタイプに特有の事項を触れる形とさせていただきたい。



3.1.Tinker<青・サーガ側>

ジョイラの他にはテゼレットも使えるらしい


・3.1.1.概要

青を中心に各色のパワーカードをタッチしたコンボ・コントロールデッキで、現在の最大勢力の座にある。

主な勝利手段は次の3つ。

  • 修繕→ボーラスの城塞、鋼の風のスフィンクス/Sphinx of the Steel Wind

  • Vault-Key

  • サーガトークン

これらを、豊富なドロー・サーチで確保し、カウンターのバックアップのもと通すことが基本戦略だ。

マナ基盤としてはSoloMoxen及びサーガがフル投入されており、一連の挙動を高速化させるとともに、いずれもアーティファクト関連である勝利手段を支援する役割も果たす。


・3.1.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

ウルザの物語/Urza's Saga

このデッキタイプは、《ボーラスの城塞/Bolas's Citadel及びサーガにより復活したVault Controlといえる。ヴィンテージでは、2010年代中盤にかけてキャントリップを重視するクロックパーミッションが進化していき、2016年以降はその完成形たるMentorデッキがコントロールの役割をも担うようになっていた。

しかし、ボーラスの城塞が登場すると、修繕をデッキの核に据え、ドロー・サーチ・カウンターで全力サポートする戦略が再評価される。そしてサーガによるデッキパワーの底上げで、復活は揺るぎないものとなった。


船殻破り/Hullbreacher

採用率的にもデッキ構造的にも重要な新戦力だ。ドロー阻止が青系デッキタイプ全般に刺さる性能なのは勿論のこと、《Wheel of Fortune》や《Timetwister》と組み合わせれば追加のコンボとなる(自分7ドロー+宝物7個生成、相手手札は0になる)。

3マナはクロックパーミッション勢にはやや重いコストだが、このデッキではSoloMoxenをフル装備しているため、さほどの苦ではない。


敏捷なこそ泥、ラガバン/Ragavan, Nimble Pilferer

この猿の強さは既に語り尽くされているだろうが、オールラウンダーとしての強さであって、コンボにはそれほど寄与しない1枚でもある。Tinkerはコンボ一辺倒ではないコントロールであるため、こうしたパワーカードも雑食的に取り入れることができる


虹色の終焉/Prismatic Ending
冥途灯りの行進/March of Otherworldly Light

万能除去枠。前者のほうがマナ効率は良いが、後者はサーガを除去できる。



3.2.逆説<青・サーガ側>

逆説的なことに、呪文を唱えると手札とマナが増える


・3.2.1.概要

基本は「ヴィンテージ概論」の頃と変わりない。それを再掲しよう。

《逆説的な結果/Paradoxical Outcome》でアーティファクトを戻すことで、莫大なドローとマナを生産するチェイン・コンボデッキである。Moxをはじめとするヴィンテージ特有のマナ・アーティファクトが15枚前後積まれ、スペル部分のほとんどがドローとサーチに充てられている。
 「ボム」と呼ばれる、1枚でゲームを決定付けるカードが多いのも特色である。逆説的な結果もその1つだが、筆頭はお手軽1ターンキルコンボの《修繕/Tinker》→《ボーラスの城塞/Bolas's Citadel》だろう。

ヴィンテージ概論

Tinkerデッキとは主な勝利手段も共通しており、そのバリエーションと言って間違いではない。しかし、逆説の方は本質的にチェイン・コンボデッキであり、プレイ感はかなり異なる。

逆説に合わせたチューンとして《オパールのモックス/Mox Opal》を起用し、アーティファクトをさらに増量したことで、速度とサーガトークンのサイズを一段回引き上げた。その反面、コンボに直接貢献しないカードを入れ難く妨害を跳ね除けにくい面がある。

「3.7.Doomsday」と並ぶ高速コンボであり、環境の速度を定義するデッキの1つ。


・3.2.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

ウルザの物語/Urza's Saga

逆説でバウンスしたMoxからマナを再生産するチェイン・コンボの視点から、とりわけ重視すべきアーティファクトが3つある。

  • Mox Sapphire:青マナ供給

  • Mana Crypt:2マナ供給

  • 師範の占い独楽/Sensei's Divining Top:タップに対応して逆説で2ドロー

これらを状況に応じて提供してくれる第III章は特に強力となる。


激しい叱責/Dress Down

これ1枚でカバーしてくれる範囲はかなり広い。ざっと挙げただけでも

  • サーガトークン(即死)

  • 《タッサの神託者/Thassa's Oracle》

  • 《溜め込み屋のアウフ/Collector Ouphe》

  • 《トレストの使者、レオヴォルド/Leovold, Emissary of Trest》

  • 《船殻破り/Hullbreacher》

と、窮地を凌いだり厄介なヘイト・クリーチャーを1ターン黙らせたりと活躍してくれる。また、キャントリップゆえ完全に腐ることはなく、逆説のバウンス対象を水増しする使い方もでき、妨害対策とチェインを兼ねる1枚でもある。

問題は、自分のサーガトークンも巻き込んでしまう点だろう。そこで叱責を投入する代わりにサーガを不採用とした叱責型POも少数見られる。


撤廃/Repeal

ギルドパクト産の元々使われていた古典的カードではあるが、このところ採用枚数が増加し、非黒の逆説では4枚フル投入の場合もある。サーガトークンを巡る駆け引きをスマートに解決してくれるカードでありつつ、自分のMoxを戻して0マナキャントリップの運用も可能であるため、叱責と同様、妨害対策兼チェインのポジションを担える。



3.3.Breach<青・サーガ側>

令和のヨーグモスの意思

※ 本項では《死の国からの脱出/Underworld Breach》カード自体を「ブリーチ」、それを主軸としたデッキを「Breach」と呼ぶ


・3.3.1.概要

ブリーチ+Black Lotus+思考停止/Brain Freezeのライブラリアウトコンボを搭載したコントロールデッキ

コンボの具体的な手順は次の通り。

1.死の国からの脱出を設置
2.《思考停止/Brain Freeze》を自分に向けてキャスト
3.思考停止で落ちたカードを脱出コストにBlack Lotusをキャスト
4.《Black Lotus》のマナから思考停止を自分に向けてキャスト
5.2~4を複数回行った後、相手に思考停止でライブラリアウトさせる

ヴィンテージ概論

ブリーチコンボで枠を取ることもあり、Vault-Keyパッケージを外している場合が多い。このため速度やサーガトークンのサイズではPO・Tinkerに劣る。それと引き換えに、赤のメタ力を最大限に引き出している点がBreachの持ち味だ。

青、アーティファクト、サーガへの回答を持つ赤

さらに新戦力のクリーチャーを登用して、クロックパーミッション的な戦略を取ることもある。個々のカードの紹介は次目に譲るが、青デッキタイプの中では「ヴィンテージ概論」時点から最も多くのカードを採り入れた部類だろう。


・3.3.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

ウルザの物語/Urza's Saga

上記のとおり、そのポテンシャルを最大限に引き出しているとは言えないものの、コンボパーツのうち《Black Lotusをサーチできるのが偉い。また土地・エンチャントが墓地に落ちるため、《ドラゴンの怒りの媒介者/Dragon's Rage Channeler》とも好相性。


夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den

「ヴィンテージ概論」時点では禁止されていた相棒クリーチャー
イコリア直後約1ヶ月にわたって繰り広げられたルールス時代、最後に立ったのはBreachだった。下記の要領で、実質的に思考停止1枚コンボを実現できたからだ。

  1. 十分ストームを稼いだ思考停止を打つ

  2. Black Lotusとブリーチがめくれる

  3. 相棒ルールスを召喚

  4. ルールスの能力でブリーチを墓地から詠唱

  5. 上記コンボに持ち込んで勝ち

相棒ルールが弱体化され、3マナ追加要求は厳しいとはいえ、ルールスが釈放されたことで上記の動きも再び可能となったことから、彼女を相棒に据えるLurrus Breachが一定数存在している。その場合、修繕・城塞パッケージと引き換えになるため、コントロール志向が強くなる。


ドラゴンの怒りの媒介者/Dragon's Rage Channeler

諜報が非常に強力。これがいれば勝手にドローの質が改善&墓地が溜まっていく上にブリーチ設置後の脱出コストが実質-1枚されるので、ブリーチが俄然使いやすくなる。
本体も、昂揚すれば飛行でサーガトークンを乗り越えるクロックとなる。


再鍛の刃、ラエリア

単体で非常に優秀だし、追放による強化についても探査ドロー、ブリーチ、《表現の反復/Expressive Iteration》とそこそこ手段があるため、ルールスを相棒雇用しない場合はこっちを1~2枚採用する型が多い。



3.4.Oath<青・中立>

Type1時代から現役20年の古豪


・3.4.1.概要

禁忌の果樹園/Forbidden Orchard産のトークンを押し付け、ドルイドの誓い/Oath of Druidsを誘発させて巨大クリーチャーを出すコンボを中核とするデッキタイプである。

デッキコンセプトとも合致しながら、単独でも勝ちにいける理想的PW、《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns》の登場後は、コントロールとしての性格が強まった

ここで紹介する中でも長い歴史を持つデッキタイプの1つだが、高速化したヴィンテージ環境では、オースの設置から誘発、誘発から勝利、とタイムラグが入るのが辛い。また支配率は減少傾向にあるようだ。ただ、主にBazaarアーキタイプの構造の変化に伴って、蔓延していた《墓掘りの檻/Grafdigger's Cage》が減少する等の追い風もある。

さて、今回のサーガを軸にした分類では唯一、サーガ側・アンチ側の中間に位置付けたデッキタイプとなった。サーガを使う側に回るデッキも、《破滅的な行為/Pernicious Deed》や《魔力流出/Energy Flux》といった全体除去を採用して対策を徹底するデッキも確認できたためだ。

とはいえ、現時点ではアンチ側の方が優勢の様子だ。その理由は次目をお読みいただきたい。


・3.4.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

○《ウルザの物語/Urza's Saga

サーガ側Oathを見てみると、Tinkerにオースパッケージを組み入れたに近いデッキリストとなっているが、全体的に不協和音を起こしているのが否めない。

  • サーガとオース…相手にオースを使わせてしまう

  • サーガと果樹園…サーガトークンをブロックされる

  • サーガとデッキ…アーティファクトがあまり多くなく、サイズが伸び悩む

  • 城塞と巨大クリーチャー…めくれると痛い

といった具合。多少のディスシナジーを乗り越えてでも採用するほどサーガが強い、という言い方もできるかもしれないが・・・


○《セラの使者/Serra's Emissary

類稀な防御性能を備える。OathはWorkshopアーキタイプやBazaarアーキタイプに対して極めて決定的なクリーチャーを手に入れた(アーティファクトやクリーチャー指定で詰み)。

非伝説ゆえカラカス/Karakasを受け付けないのが、定番枠の《グリセルブランド/Griselbrand》等より優れる点だろう。7マナトリプルシンボルのため、《Black Lotus》を引ければ素出しも無理ではない。


○《残虐の執政官/Archon of Cruelty

グリセルブランドのドロー力やエムラクールのスタッツといった特化型クリーチャーに比べると、残虐の執政官の性能はパンチ力で劣るのも確かだ。だが、状況を問わず確実に役立ってくれる能力であり、ETB+2回攻撃で21点飛ぶので決定力も水準以上。

セラの使者同様、非伝説でカラカスの心配もない。果樹園トークンを生け贄の盾にされてしまう場合があるのだけ残念。


破滅的な行為/Pernicious Deed

上述のように、アンチ側Oathの切り札。本体、トークン、III章のサーチ先と、サーガにまつわる全てをタイミング問わず一掃できる破壊力は圧巻の一言。

3マナが若干重いものの、色・カードタイプからしてカウンターにも強い。


耐え抜くもの、母聖樹/Boseiju, Who Endures

カウンターすら許さず、ヴィンテージの主だった脅威を打ち払ってくれる夢のような土地

  • Tinker先(城塞、スフィンクス)…スフィンクスのプロテクションを貫通

  • Vault-Key

  • サーガ

  • Workshopアーキタイプの全て…コスト増加を無視

  • 《Bazaar of Baghdad》

Oathをはじめとする緑デッキなら無条件で1~2枚採用して差し支えない汎用性を誇る。流石にクリーチャーまでは破壊してくれないが、そこはOathなのだから問題ない。



3.5.Izzet<青・アンチ側>

凸凹コンビ?


・3.5.1.概要

UR基調のフェアデッキは「ヴィンテージ概論」時点でもJeskaiとして存在していた。

しかし、Jeskaiが《戦慄衆の秘儀術師/Dreadhorde Arcanist》を主力とするコントロールデッキだったのに対し、今回紹介するIzzetはモダンホライゾン2のパワーをふんだんに用いた典型的なクロックパーミッションとして構築されており、デッキとしての出発点にかなりの違いがある。

《敏捷なこそ泥、ラガバン/Ragavan, Nimble Pilferer》を先鋒としてプレッシャーを与え、中盤を表現の反復で組み立て、最終的には《濁浪の執政/Murktide Regent》で勝利する。この動きはレガシーのIzzet Ragavanそのものであり、そのヴィンテージ版と言ったほうが近いだろう。

明確なゲームプランを押し付ける側に回りつつ、環境の軸となっているサーガへの対策も土地破壊及び特大飛行クリーチャーの執政により抜かりない。
かつUR2色に絞ることによって、「3.3.Breach」の項で述べた赤のメタ力を最大限に引き出すと、非常に完成度の高いデッキである。

赤のメタ力再掲

Javier Dominguez氏により、専らIzzetについて書かれた攻略記事が晴れる屋に掲載されているので一読をおすすめする。

弱点を挙げるとすれば、墓地対策のレパートリーに欠ける点だろうか。アーティファクト・エンチャントに頼るしかなく、墓地対策内蔵のクリーチャーが居ないため、《活性の力/Force of Vigor》にどうしても弱くなってしまう。


・3.5.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

上記のように、デッキの成立自体がモダンホライゾン2以降であるため、本目は省略する。



3.6.墓荒らし<青・アンチ側>

猿なんぞには負けん!


・3.6.1.概要

死儀礼のシャーマン/Deathrite Shamanを起点としたヘイトアグロデッキで、拘束力の高いクリーチャーと除去の組み合わせでゲームを制圧する。

墓荒らしは2019年に長足の進歩を遂げた。モダンホライゾンから《溜め込み屋のアウフ/Collector Ouphe》《活性の力/Force of Vigor》がボードコントロール力を劇的に高め、エルドレインの王権出身の《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thie of Crowns》がデッキパワーを一段と引き上げた。

アグロデッキの雄として「1.1.第3回添削杯までの推移」で紹介したコンボデッキ勢とも互角に渡り合い、第3回添削杯でもダントツの最大勢力となり、TOP8にも2名を送り込む快挙を果たした。

それから1年半を見ると、残念ながら他のデッキほどの革新的な進化には恵まれていないようで支配率も漸減傾向にあり、今後の復調に期待したい。

サーガ対策には大量の除去を用意し、特に重厚な迎撃体制を敷いている。列挙してみると、下記のように除去枠は10枚にも達する。

  • 1x《露天鉱床/Strip Mine》

  • 4x《不毛の大地/Wasteland》

  • 3x《暗殺者の戦利品/Assassin's Trophy》

  • 1x《活性の力/Force of Vigor》

  • 1x《耐え抜くもの、母聖樹/Boseiju, Who Endures》

これらに加えて、メインから《魔力流出/Energy Flux》まで取る場合もある。
ただ、こうした徹底ぶりがデッキを歪ませていることも否めない。


・3.6.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

忍耐/Endurance

墓地対策として対Breach・Bazaarアーキタイプ戦で活躍するのは勿論、ライブラリーを修復することでDoomsdayのタッサの神託者/Thassa's Oracleを狙い撃つプレイも可能。墓荒らしは死儀礼のおかげで墓地対策を得意とする反面、カウンターの枚数を抑えていることからDoomsdayとのマッチアップを苦手としていた。ここが改善された意義は、殊の外大きい。

上記のような勝敗を分かつシーンにおいて、非青・クリーチャーと大変カウンターに強いカードがピッチスペルで駆けつけてくれるのも大変頼もしい。


辺境地の罠外し/Outland Liberator

第1面だけでも往年の良クリーチャー、《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》相当であり、第2面ともなれば攻撃するだけで毎ターン置物を割れるようになる。サーガを巡る攻防でイニシアチブを取れるだけでなく、1マナ立たせておくだけでVault-Keyやボーラスの城塞も脅威ではない(もっとも、スフィンクスには無力)。

採用率を見ると定番枠とまでは言えないが、なかなかに優秀なクリーチャーだけに紹介させていただいた次第。


耐え抜くもの、母聖樹/Boseiju, Who Endures

3.4.Oath」の項で紹介済。



3.7.Doomsday<青・アンチ側>

寿司職人大暴れ


・3.7.1.概要

ヴィンテージ概論」から再掲させていただく。

ライブラリーを空にし、《タッサの神託者/Thassa's Oracle》のCIPで勝利するコンボ。
 空にする手段は2つある。1つはライブラリーを指定した5枚だけにしてしまう悪魔の呪文《最後の審判/Doomsday》。これは選ぶ5枚のうちに神託者を含めれば良いので、実質1枚コンボ。もう1つは《Demonic Consultation》で適当なカード名を指定してライブラリーを全部吹き飛ばす方法である(この場合は神託者が手札に来ている必要があるので、2枚コンボ)。

ヴィンテージ概論

主催者・添削氏の執筆された、Doomsdayデッキの草創期からタッサ登場までの歴史、そして5枚積み込みの具体例を指南した良著があるので、是非ともご一読をおすすめする。

状況に応じて積み込み方は色々。基本的なPileの1つを引用した

「ヴィンテージ概論」からの変化は乏しい。アーティファクトを3枚程度しか採用しておらず、無色マナの用途にも乏しいため、サーガは採用できないが、といってサーガ対策を積み込むわけでもない。

一見、サーガを巡るメタゲームの進歩に取り残されているかにも思える立ち位置だ。しかし、支配率はそれほど下降しておらず、トップメタの地位に変わりはない。

その理由としては、元々完成度が頭一つ高いデッキだったことも挙げられるが、「2.4.対策」で軽く触れたように、その速度自体が一種のサーガ対策になっている面もあると見ている。サーガから無色1マナしか出せない点を衝き、相手のマナ基盤が揃わないうちにコンボを仕掛けることでカウンター等妨害の手数を1つ減らせるという戦い方だ。


・3.7.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

濁浪の執政/Murktide Regent

アグレッシブ・サイドボーディング要員。サイド後からは対戦相手が除去を外してくるのを見越して投入する。あとは2/8/8飛行を10枚以上のカウンターで守ればめでたく勝利だ。



3.8.MUD<Workshop・サーガ側>

ヴィンテージ初の制限クリーチャー


・3.8.1.概要

デッキ全てをアーティファクトで固めることで、《Mishra’s Workshop》のポテンシャルを100%引き出したデッキ。そのマナ生産力を土台に《抵抗の宝球/Sphere of Resistance》といった妨害と、クリーチャーとを展開する。

ヴィンテージ概論

MUDと次の「3.9.Stax」が属するWorkshopアーキタイプを簡潔に定義すると上のとおりで、コスト増加&土地破壊によるマナ否定戦略を採用したアーキタイプとなる。この戦略は、1ターンに大量の呪文をプレイするコンボやマナを持たないBazaarアーキタイプに対して特に有効であり、それらのデッキタイプに対する抑止力となるところにWorkshopアーキタイプのメタゲーム上の存在意義がある。

両デッキともアーティファクト単であることから、サーガ側に回り、その巨大トークンを新たな武器とする。

MUD(Ravager Shop、Aggro Shopとも)はクリーチャーを主、ロックを従とし、アグロに舵を切ったデッキタイプ。クリーチャーが殴り切るまでに相手の抵抗やコンボの完成を遅らせるための手段としてロックを加える、生粋のテンポデッキだ。

採用クリーチャーの評価基準としては、サーガの氾濫を受けてか単独のサイズが重視されつつあるようだ。

「ヴィンテージ概論」では《電結の荒廃者/Arcbound Ravager》をデッキ全体の司令塔と呼び高評価したところだが、基本サイズが懸念され、最近では採用率が減少している。代わって、《イラクサ嚢胞/Nettlecyst》といったカードが台頭してきた。

長きにわたって一線級で戦い続けつつ新陳代謝も盛んなデッキだが、やはり《アメジストのとげ/Thorn of Amethyst》制限、そして《活性の力/Force of Vigorによる痛手から立ち直れていない。サーガにしても活性の力に弱い点は共通であり、支配率は減少傾向にある


・3.8.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

ウルザの物語/Urza's Saga

II章で出すトークンのサイズは高目で安定するし、マナ否定を仕掛けることで生じる、お互い身動きの取れないターンに物語を起動する動きも非常に強い。

一方、III章のサーチ先は若干レパートリーに欠ける。その中で、特筆すべきは次のジンジャーブルート/Gingerbruteだろう


○《ジンジャーブルート/Gingerbrute

サーガIII章のサーチ用。速攻により即座にクロックを追加できる。また荒廃者がいるなら、次の要領により戦場のアーティファクト1つを1点火力に変換できる

  1. 荒廃者の能力でアーティファクトを生け贄にし、+1/+1カウンターに変換

  2. 荒廃者自身を生け贄とし、接合でジンジャーに+1/+1カウンターを移す

  3. ジンジャーの回避能力を起動して突撃

ただ、素引きすると弱い&荒廃者が居ないと単なる1/1に過ぎないところに難がある。そのため、現在のMUDのクリーチャー布陣は、次の2派に分かれているようだ。

  • 荒廃者型-荒廃者x2~4、バリスタx4、ジンジャーx1

  • 非荒廃者型-荒廃者x0、バリスタx2、ジンジャーx0、高サイズ生物


イラクサ嚢胞/Nettlecyst

サーガトークン相当の生体武器。上記のとおり、サイズ重視の採用。現在、クリーチャー間の攻防では《虚ろな者/Hollow Oneの4/4がひとつの指標となるが、嚢胞は比較的容易にこれを超えられる。


継ぎ接ぎ自動機械/Patchwork Automaton

自己強化能力は、トップ勝負でこそ弱いものの、概ねサーガトークンや上のイラクサと同等のサイズと捉えられる。その上、護法はマナ否定と相性が良く、MUD待望の活性耐性としても機能する



3.9.Stax<Workshop・サーガ側>

モダンホライゾン2直後はトップメタだったが・・・


・3.9.1.概要

MUDとは対照的に、クリーチャーは最精鋭に絞り、ロックを主としたデッキタイプ。Staxの歴史も長いが、土地を駆使するタイプが主流となっている。

アーティファクト・ロックと土地、2テーマを結ぶのは、デッキ名ともなった土地サーチを持つアーティファクト・クリーチャー、《不屈の巡礼者、ゴロス/Golos, Tireless Pilgrim》及び土地を再利用するアーティファクト、《世界のるつぼ/Crucible of Worlds》だ。

そうした背景から、サーガをサーチするも良し、相手のサーガを割る土地破壊をサーチするも良しと、サーガを最も巧みに操れるデッキである。

「ヴィンテージ概論」にて作成したサーチ先一覧を見直すと、様々な妨害能力を持つ土地が揃っている一方で欠けていた、攻めに向かう土地の枠にサーガが綺麗にフィットしたことがわかる。

事実、モダンホライゾン2後、まず覇権を手にしたのはGolos Staxだった

現在もデッキパワーは健在だが、他デッキもサーガ環境で進化していき、特に2021年12月頃からWorkshopアーキタイプ内の主流がMUDに移行したことで、現在では勢力を大きく落としたというのが実情だ。


・3.9.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

ウルザの物語/Urza's Saga

ゴロスでサーチでき、さらに世界のるつぼ/Crucible of Worldsで再利用可能

II章のトークンもMUD同様にかなりのサイズとなる上、III章のサーチ先としても、《真髄の針/Pithing Needle》や墓地対策アーティファクト等、MUDより選択肢豊富。

このように、デッキ構造との相性が極めて良く、ヴィンテージで最もサーガを使いこなすデッキタイプと言える。


Time Vault
多用途の鍵/Manifold Key

サーガから鍵をサーチできるため、Vault-Keyパッケージを採用するGolos Staxも見られるようになった。

ただ、《無のロッド/Null Rod》とは相性が悪い。



3.10.Dredge<Bazaar・アンチ側>

3番目に制限されたクリーチャー

※本項以降、アーキタイプはBazaarと、《Bazaar of Baghdad》カードはバザーと表記する。


3.10.1.概要

今回、Bazaarを大きく3デッキタイプに分けた。うち最初に紹介するDredgeが最も墓地にフォーカスしている。

そのデッキメカニズムを図解した。マナを一切使うことなく、バザーと発掘のシナジーにより大量に墓地を肥やす。勝利手段は、図中に☆を付したカード群で、自動蘇生クリーチャー等がそれにあたる。

Dredgeのデッキメカニズム

ここで、Dredgeの簡単な歴史を振り返っておこう。

当初は《戦慄の復活/Dread Return》をフィニッシャーとするコンボデッキだったDredgeだが、《秘蔵の縫合体/Prized Amalgam》《虚ろな者/Hollow One》の登場によりコンボを成立させなくても十分な攻撃力を確保できるようになると、相手側の墓地対策やコンボを1~2回打ち消して殴り切るクロックパーミッションに軸足が移っていく。この方針は、《活性の力/Force of Vigorで完全なマナレス化が達成されたことで完成した「ヴィンテージ概論」はこの辺りとなる。

しかし、完全なマナレス化の代償として、《The Tabernacle at Pendrell Valeが最強のドレッジ対策となってしまう。そこでドレッジは、Tabernacleの上からでも勝つために、速攻を持つ《イチョリッド/Ichorid》とドレイン誘発の《這い寄る恐怖/Creeping Chill》に着目した。単発ダメージを重ねて20点を削り取る、言わばバーンの発想だ。

現在主流となっているSilversmote Dredgeも、以上のような経緯の延長線上にある(詳しくは次目でパーツ単位で取り上げる)。

さてサーガを補助線とした分類では、Bazaarの3デッキタイプはいずれもアンチ側に属する。

上記事にもあるとおり、サーガのIII章による墓地対策サーチはDredge側からしても大変な脅威であった。そこでドレッジ側は、《活性の力/Force of Vigor》と土地破壊をメインサイドに確保することはもちろん、墓地対策をサーチされる3ターン目までに布陣を整えるために、Silversmote Dredgeを構築した。

まさしく「2.4.対策」で述べた、デッキコンセプトレベルの対策といえる。


・3.10.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

銀打ちのグール/Silversmote Ghoul

上述のSilversmote Dredgeのキーカード。這い寄る恐怖の3点ドレインにより蘇生条件を満たし、さらに自分自身が秘蔵の縫合体の蘇生トリガーとなる。
Silversmote Dredgeについては、製作者sapuri氏により、極めて明快な語り口で現状分析からデッキ構築に至るまでの解説がなされているので、是非ご覧いただきたい。


悲嘆/Grief
《暴露/Unmask》のクリーチャー版で、次のような差異から、概ねその上位互換。

  • +:対ノンクリーチャーカウンター(《狼狽の嵐/Flusterstorm》等)耐性

  • +:《黄泉からの橋/Bridge from Below》に反応する

  • +:《イチョリッド/Ichorid》のコストに充てられる

  • -:自分を対象に打つことができない


有毒の蘇生/Noxious Revival

登場以来細々と採用されていたカードだが、ここにきて評価が上昇している。主な使い道を列挙すると、次のようになる。

  • 自分の必要なカード(破壊されたバザー等)を戻し、次のドローで引く

  • 相手の不要牌を戻し、次のドローを実質スキップさせる

  • 手札から捨てていた這い寄る恐怖を戻し、発掘する ←New!

  • 相手の土地やカウンターを戻し、ボーラスの城塞を止める ←New



3.11.HollowVine<Bazaar・アンチ側>

この速攻がたまらない


3.11.1.概要

《活性の力/Force of Vigor》以降に成立したデッキタイプ。

これもデッキメカニズム図解をもとに見ていく。バザーの3ディスカードで《復讐蔦/Vengevine》を捨てつつ、ルートワラ2種をマッドネス召喚し、さらに手札から《虚ろな者/Hollow One》を0マナ召喚することで蔦を蘇生させる。こうして1ターン目から4点以上のクロックを繰り出し、15枚搭載したピッチスペルで支援し完走させる、異形のクロックパーミッションだ。

このように初動に全力を注ぎつつ、《ゴブリンの太守スクイー/Squee, Goblin Nabob》と《死の達人/Master of Death》の自動リターン生物により、バザーを毎ターン起動しても手札を維持できると、継戦能力にも抜かりない

HollowVineのデッキメカニズム

Dredgeの図解と見比べてみると、2デッキタイプの差異に気づく。Dredgeはバザーの起動を起点とし、様々な能力が連鎖的に誘発していくのに対して、HollowVineはバザーの起動に全てが集約されている

このことから、HollowVineはライブラリーのトップ10枚ほどが十分に強力なものだった場合、1ターン目のバザー起動で戦場に高打点を、手札にピッチスペル2セットを揃え、事実上ゲームを終える場合さえある。

また、Dredgeは虚ろな者以外すべてのダメージ源が墓地を経由するのに対して、HollowVineの場合、実は墓地依存のダメージ源は復讐蔦のみで、仮に墓地を封じられても、虚ろな者とルートワラ総勢12枚は支障ない。

非常に完成度の高いデッキだが、4/5以上のクリーチャーが弱点となる。カウンターに多くのスロットを割いているため、Dredgeほどクリーチャーが横並びせず、壁を前に攻めあぐねる状況に追い込まれがちだからだ。

このサイズを満たす強者を例示する。

  • タルモゴイフ(標準サイズ2/4/5)

  • サーガトークン(カウンター不能、2×3/3~)

  • 修繕→鋼の風のスフィンクス(3/6/6絆魂警戒、活性プロテクション)

こうしたことから、II章に入る前にサーガを阻止することを至上命題とし、活性4枚+土地破壊5枚と厳戒態勢を取る。


・3.11.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

猛火のルートワラ/Blazing Rootwalla

《メムナイト/Memnite》から差し替わった、ルートワラ族の新人。メムナイトも0マナで召喚できて復讐蔦のトリガーになってくれたが、彼を手札から唱えるために、ピッチスペルを代わりに捨てざるを得ないケースがあった。

猛火のルートワラは3枚ディスカードに含めることができるため、純強化となった。


死の達人/Master of Death

スクイーと同等の手札リターンを持つ。《むかしむかし/Once Upon a Time》や《予見のスフィンクス/Sphinx of Foresight》といった初動サポートタイプの枠から差し替わったようだ。

スフィンクスやむかしむかしも面白いカードだが、初手になければピッチコストにしかならないのでは性能のムラが激しくなってしまう。HollowVineのようにメカニズムがしっかりしたデッキでは、状況を問わず一定の役割を果たしてくれるカードの方が望ましい。

また、青いためピッチコストに充てられる


激情/Fury

スクイー及び猛火のルートワラをコストとする火力ピッチスペル
従来、HollowVineは《徴用/Commandeer》まで採用してカウンターを重装備していたが、これを激情に差し替えたことで、穴となっていたクリーチャーに容易に手が届くようになった



3.12.HogaakVine<Bazaar・アンチ側>

モダンを荒らし尽くしたアバターがヴィンテージに見参


・3.12.1.概要

Bazaarアーキタイプに属するデッキタイプだが、バザーや土地破壊の他、通常の土地を10枚ほど採用し、マナを使う点が、既にみた「3.10.Dredge」「3.11.HollowVine」らマナレスタイプと決定的に異なる。

その戦略は、《復讐蔦/Vengevine+ルートワラ+虚ろな者/Hollow Oneのパッケージを基本としつつ、《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》《縫い師への供給者/Stitcher's Supplier》といった墓地にまつわる小型クリーチャーをマナから召喚し、それらを召集要因として、甦る死滅都市、ホガーク/Hogaak, Arisen Necropolisを降臨させる

このホガークに繋げるまでの過程で、復讐蔦がトリガーしてくれるケースも多々あり、爆発力はDredgeにも引けを取らない

「ヴィンテージ概論」では、このデッキについて、HollowVineの派生のような扱いで次のように述べた。

こうした動向の延長線上にあるのかは分からないが、2020年5月頃からはさらにマナを加えたHogaakVineというタイプが登場した。バザー→ルートワラ+虚ろな者→復習蔦の基本ムーヴはそのままだが、ピッチスペルの大部分をカットし、《縫い師への供給者/Stitcher's Supplier》と《甦る死滅都市、ホガーク/Hogaak, Arisen Necropolis》のパッケージを加えたものとなっている。

ヴィンテージ概論

しかし、今回の執筆に向けてHogaakVineの経緯を辿ってみたところ、戦略に共通点はあるものの、HollowVineとは異なるルーツを持つデッキタイプであることが明らかになったので、今回それを詳述してみたい。

虚ろな者は登場後ほどなくして復讐蔦との好相性で知られるようになり、ヴィンテージにおいても、HollowVineの成立前からサバイバルがこのギミックを組み込んでいた。ホガークも、登場直後からサバイバルで試用されたものの、それほどの成果はなく次第に下火となっていった。

転機が訪れたのは第1回添削杯であり、Hom氏が供給者サバイバルを持ち込んで準優勝を果たした

これをベースに、noprops氏がサバイバル解雇をはじめとするチューンを施したのが、今日のHogaakVineの原型である。このデッキタイプは今日では10%弱の支配率を持つTier1群の一員となっており、添削杯がヴィンテージの進歩に貢献したことを示す生き証人といえるだろう。

さてデッキの特徴を見ると、多くの戦略を内包し、特定のカードやアクションに偏らないことで、明確な弱点を持たないことが最大の長所といえる。

Bazaarとマナの二本立て構造自体により、Bazaarや墓地を封じられても《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》やルートワラ、《恐血鬼/Bloodghost》といったクリーチャーを通常召喚していって戦うことができる。また、上記マナレス2デッキタイプにとってのキラーカード《The Tabernacle at Pendrell Vale》に対しても、強い耐性を発揮する。

切り札となるホガークにしても、上のHom氏記事にもあるとおり、優先権ルールの関係から意外なほど墓地対策に強い。

むしろ、活性に加えて1~2マナ圏から《溜め込み屋のアウフ/Collector Ouphe》や《耐え抜くもの、母聖樹/Boseiju, Who Endures》といったカードを採用したことにより、黒緑ならではのボードコントロール力を発揮することができる。

サーガに対してはアンチ側となるが、ホガークの8/8は流石に越え難いこともあって、HollowVineほど相性が悪いわけではない。むしろ、カウンターを搭載していないこともあって、Doomsdayのように手札内で完結してしまうタイプのコンボを苦手としている


・3.12.2.「ヴィンテージ概論」以降のカード

猛火のルートワラ/Blazing Rootwalla

前項で紹介したとおりHollowVineでは確定枠となったが、HogaakVineではそこまでの地位を得られてはいない。色の関係上、Hogaakの召集や活性のピッチコストとして使えないためだ。

とはいえ、能力起動による打点3点は侮れない。赤をタッチし、猛火のルートワラに加えサイドに赤の対策を忍ばせるタイプのHogaakVineも出てきている。

よもや3度目の掲載があろうとは


耐え抜くもの、母聖樹/Boseiju, Who Endures

「3.4.Oath」の項で言及済だが、HogaakVineにおいては《鋼の風のスフィンクス/Sphinx of the Steel Windを割れる点が素晴らしい。スフィンクスを攻略する手段が無かったHogaakVineにとって、修繕=敗北の運命を変えてくれる救世主のような1枚だ。

土地を切り詰めているこのデッキでは、土地としてアンタップインで緑マナを出せる点も嬉しい。



4.結語/謝辞

以上、サーガを筆頭とするヴィンテージの変革を振り返るとともに、今日代表的な12デッキを通観した。

この記事が少しでもヴィンテージの環境理解、またその魅力の発信に貢献できれば何よりです。

最後になりますが、
じんしんさん
添削さん
sapuriさん
Homさん
nopropsさん
文中で素晴らしい記事を紹介させていただきました。
誠にありがとうございました。