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添削杯Vol.5 観戦記事 決勝戦 もみー vs 月見 ~主人公は唯一人~

text by いちごピザ

最古のフォーマットのひとつであるヴィンテージは、懐かしさと憧れと、そしてプレイヤーの理想を具現化する強力無比なカードの集合体といえる。パワー9のみならず、《ヨーグモスの意志/Yawgmoth's Will》や《修繕/Tinker》も文字通り壊れたカードであるのだ。

しかし、その空間を支配しているのは決して停滞の二文字ではない。ヴィンテージもほかの構築フォーマットと同様に、常に進化し続けている。それを証明するかのように、今年も新たな息吹が注ぎ込まれている。

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『モダンホライズン2』に収録された1枚の英雄譚-土地は、ヴィンテージへ新たな1ページを紡ぎ、環境に多大な影響を与えた。どのデッキも《ウルザの物語/Urza's Saga》を有効活用しようと躍起になり、果ては自分だけが《ウルザの物語/Urza's Saga》を使いまわせるラムナプボンドを生み出すに至った。添削杯Vol.5は、まさに《ウルザの物語/Urza's Saga》のための大会といっても差し支えないだろう。


決勝戦まで自身の物語を紡いできたのは、もみー月見の2人。もみーはDPSを手に終わることのない《Time Vault》の一助として採用し、対する月見は対戦相手の物語を封殺すべくラムナプボンドを持ち込んでいる。

果たして、エンディングロールまで辿り着けるのは、どちらのプレイヤーか。


Game1

先手の月見がドローゴーでターンを終えると、もみーはのっけからアクセル全開でスタートする。禁断ともいえる《Mox》3枚重ねからの《強迫/Duress》。これを《精神的つまづき/Mental Misstep》ではじかれると、続けて《Ancestral Recall》と波状攻撃を仕掛けていく。

しかし、月見は動じずに《狼狽の嵐/Flusterstorm》で応じると、自身のターンでキャスト《Time Walk》。能動的なアクションこそないものの、マナ差を埋めることに成功する。

わずか1~2マナで行われているのは、解決すれば勝負を決めかねないほど強力なスペルばかり。このスペルの応酬こそヴィンテージの醍醐味であり、見ているだけでも自然と気分は高揚してくるというものだ。

話を対戦まで戻すと、もみーは二の矢まで対処されてしまったかたちとなる。しかし、この2枚が囮だとしたら。《Ancestral Recall》すらも相手のカウンターを引き出すためにプレイされたとしたら、どうだろうか。

もみーは月見の手札が3枚であることを確認すると、《悪魔の教示者/Demonic Tutor》。プレイグランドへ送られた《Black Lotus》は即クラックされ、3つの黒マナを生み出す。黒黒黒?3マナ?それは真夏を代表する1枚に他ならない

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過ぎ去ったはずのネクロの夏が再び訪れてしまったようだ。三度目の正直で《ネクロポーテンス/Necropotence》が通ると、即ペイ7ライフ。新鮮な7枚のカードを手に入れる。

ここまで順調に1対1交換を繰り返してきた月見の戦略は、極悪なエンチャントによって瓦解しかけている。何とか《ウルザの物語/Urza's Saga》をセットするも手札の差はいかんともしがたい。

もみーは《ネクロポーテンス/Necropotence》の強さをまざまざと見せつけ、マナを並べつつペイ5ライフ。果たして、逆転の芽はあるのだろうか?

ネクロによる絶望的な状況に追い込まれても月見は決して諦めず、か細い勝利への道を進んでいく。デッキは応えるように《神秘の聖域/Mystic Sanctuary》を届け、《Time Walk》をライブラリトップへと積み込む。

度重なるネクロの使用によりもみーのライフ残る8。ターンが返り、《Time Walk》さえ解決できれば、《ウルザの物語/Urza's Saga》の2回起動とサーチにより、ピッタリと削りきれるのだ。


しかし。それは月見が望んだ物語であり、勝利への飽くなき執念が見せる理想に過ぎなかった。

そして。もみーは、自身の手で現実世界へと物語を紡ぎだす


《思考囲い/Thoughtseize》で《意志の力/Force of Will》を落とすと、月見の手に残るは土地のみとなる。《Time Walk》から《ウルザの物語/Urza's Saga》を置き、ペイ4ライフ。

新たなターンに入ると《願い爪のタリスマン/Wishclaw Talisman》を起動し、《暗黒の儀式/Dark Ritual》を唱える。《Time Vault》、続けて《多用途の鍵/Manifold Key》。

無限ターンのパーツが揃うと、第一章が唐突に終わりを告げた。

もみー 1-0 月見


Game2

静かにターンを返す月見とは対照的に、もみーは序盤から激しく動いていく。《Mox Sapphire》から《防御の光網/Defense Grid》とゲーム1を彷彿とさせるロケットスタートを演出してみせたのだ。月見は「考えます」と一言おくもこのターン中には勝負はつかないと読み、結局のところスルー。

返すターンに《溜め込み屋のアウフ/Collector Ouphe》でマナファクトを封じ込める。これにはもみーも参ったとばかりに力なく《多用途の鍵/Manifold Key》を置くのみ。

静寂の中、《溜め込み屋のアウフ/Collector Ouphe》が2点クロックを刻みだす。ゲームを掌握しつつある月見だが、欲を言えばもう1枚土地が引きたいところではあった。

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というのも《防御の光網/Defense Grid》下ではピッチスペルであっても3マナ余分にかかってしまう。手札に眠る《活性の力/Force of Vigor》と《意志の力/Force of Will》を使用するには、あと1マナ必要なのだ。それさえあればすぐにでももみーの防御網を突破し、このゲームを月見の物語として上書きできる。


しかし、この一瞬の隙をもみーは見逃さなかった。《致命的な一押し/Fatal Push》によって休載されていた物語は再び動きだす。

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プレイ《Time Vault》。

もみーの手によって《多用途の鍵/Manifold Key》に役割が与えられると、物語は再びエンディングを迎えるのだった。

もみー 2-0 月見


《ウルザの物語/Urza's Saga》より始まり《ウルザの物語/Urza's Saga》により終わった添削杯を制したのは、DPSを使用したもみーであった。

黒を主体として青のカウンターを用いず、さらにアーティファクトを多用するコンボデッキであるため、《夏の帳/Veil of Summer》や《活性の力/Force of Vigor》の環境下では逆風とも思える選択肢に違いない。

それでもなお、もみーは《Time Vault》と《ウルザの物語/Urza's Saga》に勝機を見出し、見事添削杯優勝まで辿り着いてみせた。

もみー「《ウルザの物語/Urza's Saga》も出たし、手元にあった《Time Vault》を使いたかった」

そう語るもみーの言葉はマジックの持つ根源的な楽しみ方そのものであり、《多用途の鍵/Manifold Key》をサーチできる物語はヴィンテージの奥深さそのものにほかならない。《ウルザの物語/Urza's Saga》はまさに、もみーのための1枚であった。

構築された《ウルザの物語/Urza's Saga》入りDPSはまさにもみーの物語の一部となり、見事、添削杯を制したのだった。


添削杯Vol.5優勝はDPSを使用したもみー!おめでとう!!