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ヴィンテージ概論

text by 武漢 / edit by ふみ

いくつかの制限はあれど基本的にこれまでに刷られたあらゆるカードを使用することができるヴィンテージは「非常に難しい」イメージを持たれている環境です。一度入り込んだものはそこから抜け出すことができないぐらいに魅力に溢れた環境ではありますが、その第一歩を踏み出すのはある程度の勇気と知識が必要であることは否定することはできません。

添削杯を楽しんでいただくことに向けて、このイメージをいかに崩していくか考えた結果、ヴィンテージ環境解説記事を多数投稿されている武漢氏に「先般行われたEternal Weekendの結果を受けた環境解説の文章を作成いただけないか」と、依頼したところ快諾をいただきました。

武漢氏のノートページ

送られた文章は私たちの想像をはるかに超えた大作となっています。これを読めば皆様もヴィンテージ通と宣言してもよいとすら思います。改めて武漢氏にこの場を借りて御礼申し上げます。

さぁ余計な前口上はこのあたりとしましょう。それでは以下より武漢氏による「ヴィンテージ概論」をお楽しみください。


1 ヴィンテージは病的で健全なフォーマット

1.1 ヴィンテージのイメージ

 「ヴィンテージは魔境」とはよく聞く言葉だ。この形容は半分当たっていて半分外れている。
 Power9に象徴される超強力なマナ加速やドローは、ヴィンテージ最大の特徴だ。これらを総動員したコンボデッキは、他のフォーマットでは到底なし得ない速度と安定性を実現する。
 Power9を全て搭載し、莫大なドローとマナを生産して相手を圧倒する「逆説」は、最もヴィンテージらしいヴィンテージデッキだろう。一方で、「ドレッジ」はマジックの根幹であるマナを一切使わず、墓地のみを利用して戦うデッキであり、トップメタの一角を占める。
 こうした異次元のデッキが割拠し、しのぎを削り合う様は、まさに魔境と呼ぶに相応しい。

 だが、これはヴィンテージの一面だけを切り取った観察だ。ヴィンテージには、ごく普通のマジックをするデッキも存在する。クリーチャーを展開し、脅威を退けつつ20点を削るデッキだ。これらのfairデッキは、右のようなunfairデッキに対する抑止力としても機能し、メタゲームに循環を生み出してもいる。
 今般のEternal Weekendのメタゲーム・ブレイクダウンを参照すれば、メタゲームの健全性は一目瞭然だろう。

 ヴィンテージは、アグロ・コントロール・コンボといったアーキタイプ全てが共存し、突出したデッキタイプも無い、健全で競技的な一面もあるのだ。

1.2 脅威と対策の拮抗

 では、ヴィンテージのfairは、いかにしてunfairに打ち克っているのだろうか? その鍵は、unfairの弱点を鋭く突くことにある。
 unfairは、その速度や安定性を一層高めるために、デッキ全体を一定の方向性に特化させる傾向がある。

 例えば、上述の逆説は、デッキ名の由来でもある《逆説的な結果/Paradoxical Outcome》を確実に引き、またその威力を最大化するために、青のドローサポートを大量に投入し、土地を削ってMoxらマナ・アーティファクトを大量に採用している。そこで、青対策の《紅蓮破/Pyroblast》で初動を牽制し、《溜め込み屋のアウフ/Collector Ouphe》といったアーティファクトを対策するカードを置いてやれば、逆説をマナスクリューに追い込める。
 ドレッジは墓地利用に特化したデッキであるため、あらゆる墓地対策が有効だ。さらに、マナを用いない点に着目する対策法もある。《The Tabernacle at Pendrell Vale》を置くことで、相手のクリーチャーは1ターンと耐えられず自壊する。

 このように、ヴィンテージで用いられる対策カードは、驚異的なコストパフォーマンスを発揮したり、単独で相手デッキ全体を機能不全に陥らせたりするほどのポテンシャルを持っており、その力量は脅威側のカードにも引けを取らない。むしろ、脅威と対策のバランスが非常に高いレベルで釣り合っていることから生じる、緊張感に満ちた駆け引きこそ、ヴィンテージの魅力だろう。


2 土地がアーキタイプを決める

2.1 制限カードは主役ではない

 ヴィンテージと聞いたとき、Power9をはじめとした強力な制限カードを連想する方も多いと思う。これらのカードをプレイできること自体がヴィンテージの特色であることは間違いない。
 しかし、制限カードはフォーマットの華ではあるが、デッキ単位で見ると、これを主役(キーカード)に据えるデッキは意外に少ない。これには2つの理由がある。

 まず1つは、制限カードの多くがユーティリティ的存在であることだ。《Ancestral Recall》やMoxの強さは、コストパフォーマンスに長けているといった意味合いであり、引き当てても勝利に直結するものとは言えない。それに、大多数のデッキに無条件で入ってしまうということは、裏を返せばその有無ではデッキタイプの差はつかないとも捉えられる。
 もう1つは、キーカードがデッキに1枚だけではコンセプトを担うのに不安定だからだ。そのため、非制限の強力なカードがデッキを組むにあたっての出発点となることが多い。

2.2 ヴィンテージを定義する3つの土地

 より詳しく、デッキの主役を担うカードたちについて見ていこう。

 まず最も大きな括りとして、土地が挙げられる。他のフォーマットでは、(《暗黒の深部/Dark Depths》等のコンボパーツを除けば)基本的に土地はマナを出して呪文を唱えるためのカードであり、重要ではあってもデッキの主役とは言えない。しかしヴィンテージでは、デッキの主役を務める、つまり、その土地を最大限活用することを出発点としたデッキが生まれるほどの強烈な効果を持った土地が存在する。
 アーティファクト限定である代わりに3マナを生産する《Mishra’s Workshop》と、マナ生産力を一切持たず、ドロー/ディスカード能力を持つ《Bazaar of Baghdad》の2枚である。
 もちろん、こうした特定の土地に依存しないデッキも多く存在する。そして、それらのデッキを色で分類したとき、圧倒的なシェアを誇るのは青である。そこで、このデッキ群を代表する土地として《島/Island》を選ぶことにしよう。
 その上で、ヴィンテージ環境を土地で分類した3大アーキタイプとして「青(島)」「Workshop」「Bazaar」がある、と整理したい。

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2.3 ヴィンテージデッキ10選

 アーキタイプを大枠として、それぞれの中に属する各デッキを紹介していこう。今回は、ヴィンテージで代表的なデッキ10個を取り上げる。

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3 青

 ヴィンテージの2/3ほど(65%)を占めるアーキタイプである。それだけにデッキの幅もアグロ、コントロールといったfairデッキから純然たるコンボデッキまで広い。
 上述したとおり土地に主眼を置いたデッキではないものの、それは土地が弱いことを意味しない。むしろフェッチランド+デュアルランドは最小限のスロットで安定した多色化を実現する最高峰のマナベースであり、各色の選りすぐられた強力カードを採用することを可能としている。
 そのため、他2アーキタイプが構築に強い束縛を課されるのに対し、青はマジック25年が輩出してきたカード全てにアクセスすることができる。これは特に、サイドボードを構築するに当たって重要なメリットである。

では以下の6デッキを紹介していこう。

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3.1 逆説

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 《逆説的な結果/Paradoxical Outcome》でアーティファクトを戻すことで、莫大なドローとマナを生産するチェイン・コンボデッキである。Moxをはじめとするヴィンテージ特有のマナ・アーティファクトが15枚前後積まれ、スペル部分のほとんどがドローとサーチに充てられている。
 「ボム」と呼ばれる、1枚でゲームを決定付けるカードが多いのも特色である。逆説的な結果もその1つだが、筆頭はお手軽1ターンキルコンボの《修繕/Tinker》→《ボーラスの城塞/Bolas's Citadel》だろう。
 速度・爆発力・安定性とコンボデッキが求める素養いずれにも優れるばかりでなく、消耗戦からのトップデック合戦でもボムの多さから有利に立てると、デッキパワーはヴィンテージ界隈でも随一である。

 しかし、こうした強力さは、そのまま弱点にも繋がる。逆説の持つ、「青」「アーティファクト」「コンボ」といった属性はいずれもヴィンテージで対策すべき仮想敵の筆頭であり、サイドボードには勿論、メインから対策が積まれることも当然となっている。1.2.でヴィンテージの持つ対策の強さを話したが、逆説はまさに対策される側というわけだ。一方で、逆説への対策に向けて、逆説側が用意する対抗手段の枚数は限られており、脆い一面を持ったデッキと言える。

3.2 Doomsday

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 ライブラリーを空にし、《タッサの神託者/Thassa's Oracle》のCIPで勝利するコンボ。
 空にする手段は2つある。1つはライブラリーを指定した5枚だけにしてしまう悪魔の呪文《最後の審判/Doomsday》。これは選ぶ5枚のうちに神託者を含めれば良いので、実質1枚コンボ。もう1つは《Demonic Consultation》で適当なカード名を指定してライブラリーを全部吹き飛ばす方法である(この場合は神託者が手札に来ている必要があるので、2枚コンボ)。
 逆説が青のコンボとするなら、Doomsdayは黒のコンボ力を前面に出したデッキといえる。フル投入された《暗黒の儀式/Dark Ritual》によって速度は逆説と肩を並べるし、コンボ始動の条件も緩いため、安定性も互角である。ただ、DoomsdayのコストBBBの負荷が大きいため、青黒2色が限界で3色目をタッチしづらいきらいがあり、デッキパワーに一定の限界を与えている。

 妨害への耐性については一長一短である。Doomsdayは逆説より妨害されにくいが、されると刺さり方が痛い。先程、逆説への対策として「青」「アーティファクト」「コンボ」を挙げたが、いずれもDoomsdayにはそれほど有効でないのである。通すべきコンボパーツがいずれも黒であることから《紅蓮破/Pyroblast》はそれほど恐れなくても良いし、アーティファクトに至ってはデッキに3枚しか入っていない。《精神壊しの罠/Mindbreak Trap》や《抵抗の宝球/Sphere of Resistance》等、呪文のキャスト回数を狭めるコンボ対策については、全く影響なしとはいかないものの、チェイン・コンボである逆説に比べれば、コンボ始動から勝利までの手数は格段に少ない。
 しかし、何しろコンボ始動時にライブラリーを全てベットしている関係上、神託者がカウンターされてしまったら潔くサレンダーするしかない。これは《逆説的な結果/Paradoxical Outcome》を消されても、ぐっと我慢してトップデックからの捲土重来を期すことのできた逆説との大きな違いである。

3.3 Breach

※ 本項では「《死の国からの脱出/Underworld Breach》」カード自体を「脱出」、それを主軸としたデッキを「Breach」と呼ぶ

脱出

《死の国からの脱出/Underworld Breach》コンボの手順は次のとおりである。

1.死の国からの脱出を設置
2.《思考停止/Brain Freeze》を自分に向けてキャスト
3.思考停止で落ちたカードを脱出コストにBlack Lotusをキャスト
4.《Black Lotus》のマナから思考停止を自分に向けてキャスト
5.2~4を複数回行った後、相手に思考停止でライブラリアウトさせる

 コンボ自体はUR2色で実現できるが、サーチャー用の黒や除去・《僧院の導師/Monastery Mentor》を擁する白をタッチし、4色で組むことが多い。
 これを見ると、コンボパーツが脱出・思考停止・Lotusの3枚(うち1枚は制限)と、既に見た2デッキのコンボよりいくぶん高難度である。そこで、Breachはこれらのデッキとはいくぶん異なるアプローチを取る。
 逆説やDoomsdayは、主軸となるコンボを定め、デッキの残り部分はそれをサポートするドローやマナ加速、カウンター等に費やしている。いわばデッキ全体がひとつの大きなコンボといっても過言ではない。
 一方、Breachはコントロールとして振る舞うことを選んだ。プレインズウォーカーや除去を多く採用することで長期戦に耐える構成とし、その過程でコンボパーツが揃えば機が熟したとしてコンボを始動させる手法だ。考えてみると、これは脱出のカード特性を考慮した、実に理にかなった戦略である。
 Breachが逆説などの真似をして、デッキ全体をコンボに傾けたとしても、安定してコンボパーツ3枚を揃えるのは至難である。逆に、長期戦志向でいけば自然に墓地が肥やされていき、脱出の威力もターンを追うごとに高まっていく。また脱出それ自体が《ヨーグモスの意思/Yawgmoth’s Will》の再来と言われるほどのパワーカードであることを考えれば、アドバンテージ装置として使うことでコントロールを一層高めたり、場合によっては相手のカウンターを引きずり出す囮として使うことも考えられるだろう。

 弱点はやはり墓地対策……と言いたくなるが、常在型置物ならともかく呪文や起動型置物だと、優先権の関係で微妙に対策しきれないケースもある。脱出が赤のエンチャントと非常に打ち消しづらい呪文であることも踏まえて、妨害耐性ははっきり強いコンボデッキと言えよう。

3.4 ジェスカイ

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 手札・盤面双方の支配を目指すコントロールである。豊富なドロー・カウンター・除去に加え、《戦慄衆の秘儀術師/Dreadhorde Arcanist》の持つ墓地再キャスト能力によりアドバンテージを取る。中盤以降は《神秘の聖域/Mystic Sanctuary》と《噴出/Gush》のミニコンボも加わるため、継続的なアドバンテージ能力において、他デッキの追随を許さないものがある。
 色の構成はBreachに似たところがあり、必須となるURに加えて《剣を鍬に/Swords to Plowshares》や《僧院の導師/Monastery Mentor》のために白をタッチした形が存在する。
 やはり赤が擁する対策の強さは魅力的であり、メインから採用された《紅蓮破/Pyroblast》や《破壊放題/Shattering Spree》(秘儀術師で墓地キャストした場合も複製ができる)、そして単体除去により、青・Workshopの2アーキタイプに対して強く出ることができる。また、メタの動向を踏まえて、こうした1マナ呪文枠の比率を柔軟に変えられる。例えばWorkshopが多くなれば紅蓮破を減らして破壊放題を増やせばよい。今後Bazaarがあまりに多くなるようなら、《外科的摘出/Surgical Extraction》などを採用するのも検討していいだろう。
 Bazaarに対しては、メインの勝ち目は無いに等しいが、サイドボードで《封じ込める僧侶/Containment Priest》をはじめ軸をずらした対策を8~9枚取っており、マッチ単位での相性は決して悪いものではない。
 コントロールが重視する項目としては、アドバンテージ力、対応力、メタ順応力といったものが挙げられると思うが、ジェスカイはその全てに長けるデッキと言える。

 弱点があるとすれば、決定力の弱さだろう。対応力こそ非常に高いものの、僧院の導師や《覆いを割く者、ナーセット/Narset, Parter of Veils》あたりを除いてボムと呼べるカードに乏しい。秘儀術師もアドバンテージ力と引き換えにパワー1と貧弱であり、コントロールを確立してもそこから勝利までの道程が長いために、トップデックを続けた相手に捲られてしまうケースもままある。

3.5 墓荒らし

死儀礼

 妨害重視のアグロである。《死儀礼のシャーマン》を起点とし、各種のパーマネントを展開する。

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 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》などに顕著なように、墓荒らしはジェスカイと比べてアドバンテージ追求の点で大きく劣る。反面、常在型で隙のない妨害に非常に長けており、打点も高いので相手に対処・反撃の猶予を与えないプレイが可能だ。
 さてパーマネントを概観すると、3大アーキタイプのうち青とWorkshopへの対策は入念である反面Bazaar対策を欠いているように見える。実際のところ、Bazaar戦はサイド後が本番というのは墓荒らしも変わらないのだが、《暗殺者の戦利品/Assassin's Trophy》と《露天鉱床/Strip Mine》+《不毛の大地/Wasteland》による土地破壊9枚体制を取り、墓地に落ちたクリーチャーも死儀礼で潰していけるとあって、ある程度メインで戦える余地がある。

 ヴィンテージでunfairデッキに渡り合うアグロの姿を見せてくれるデッキであるが、対策中心に組み立てたデッキであるのに、赤が入っていないため《紅蓮破/Pyroblast》にアクセスできない、《定業/Preordain》が無いため、引きムラに陥りやすい、といった部分にいささか矛盾を感じる。

3.6 Oath

※ 本項では「ドルイドの誓い/Oath of Druids」カード自体を「オース」、それを主軸としたデッキを「Oath」と呼ぶ

ドルイド

 オースと《禁忌の果樹園/Forbidden Orchard》のコンボを搭載したデッキである。

 巨大クリーチャーとは具体的に誰のことか、その顔ぶれを紹介しよう。

《グリセルブランド/Griselbrand》 - 7ドロー
《パルン、ニヴ=ミゼット/Niv-Mizzet, Parun》 - アドバンテージ&盤面制圧
《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》 – 15/15滅殺

 見ての通り、1匹でゲームを終わらせるに足る怪物だらけであり、さらにオースの誘発過程で墓地に落ちた《ドラゴンの息/Dragon Breath》をつけて速攻で殴ることも可能だ。
 このように、オースコンボは無制限2枚の組み合わせで、高い決定力を誇る。

 だが、欠点も決して無視できるものではない。Oathに常に付き纏うのは手札事故の危険だ。オースで召喚したいクリーチャーをドローしてしまうなどは日常茶飯事、オースが引けないまま果樹園ばかり重ね引きしてしまい、湧いたトークンに祟り殺されるケースさえある。そして、こういう問題を解決する上で一番頼りになる《渦まく知識/Brainstorm》は制限である。
 この欠点は、Oathのデッキ構成が内包する矛盾によるものだろう。コンボを主軸としながらも、それに特化するのではなく、コントロールとして振る舞いながら機を見てコンボを仕掛けるという流れは、上のBreachデッキに通じるものがある。しかし、長期戦になるほどクリーチャーの素引き率が高まり、果樹園トークンのダメージが蓄積してくるのは避けられない。

 しかしながら、Oath界の第一人者である冬宮氏が証明したとおり、Oathはエルドレインの王権にて、《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns》を得て、これらの問題に対し、大きな改善がなされた。
 オーコの鹿生成能力は、オースを引けていない場合は果樹園トークンから身を守りつつ別ルートの勝ち手段を提供してくれるし、オースを引いている場合は逆に相手のMoxを鹿にすることで果樹園と同様の役割を果たしてくれると、何をやらせても優秀である。また、このように軸の異なる戦略が同居したこと自体により、一方を囮にして他方を通すといったプランも可能となり、オースはこのトリックスターを得て生まれ変わったと言っても過言ではないだろう。

 最後に、他のコンボとのハイブリッドにも積極的である一面に触れておきたい。Oathのコンボパーツのうち、果樹園は土地枠として考えればスロットを費やさないので、他のコンボと同居しやすいのである。
 具体的な例としては、Breachとハイブリッドさせ、オースで《太陽のタイタン/Sun Titan》を呼んで《死の国からの脱出/Underworld Breach》を掘り起こすデッキが存在する。また他のデッキタイプがクリーチャーデッキ対策としてサイドにオース一式を仕込み、アグレッシブサイドボーディングを行うケースも多い。


4 Workshop

 デッキ全てをアーティファクトで固めることで、《Mishra’s Workshop》のポテンシャルを100%引き出したデッキ。そのマナ生産力を土台に《抵抗の宝球/Sphere of Resistance》といった妨害と、クリーチャーとを展開する。
 当然ながらアーティファクト対策が天敵であり、青の繰り出す《ハーキルの召還術/Hurkyl’s Recall》、Bazaarから飛び出してくる《活性の力/Force of Vigor》等で一方的なリセットを強いられることは覚悟しなければならない。
 かつて隆盛を誇っていたアーキタイプであったが、この5年ほどは《アメジストのとげ/Thorn of Amethyst》制限や、活性の力収録といった逆境にあり、2020年11月現在での環境占有率は10%前後となる。
 妨害とクリーチャーいずれを重視するかで、Workshopという大枠の中でのデッキタイプの違いに繋がってくる。現在、主に見られるのは次の2デッキタイプだ。

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4.1 Golos Stax

ゴロス

 クリーチャー数10枚強くらいに留まるのに対し、妨害アーティファクトとして15枚以上を擁するコントロールデッキである。
 アメジスト制限後も、《魔術遠眼鏡/Sorcerous Spyglass》(フェッチランドを指定すればマナ拘束になりうる)や《王神の立像/God-Pharaoh's Statue》《無のロッド/Null Rod》まで採用することでその穴を埋めようと試みている。《世界のるつぼ/Crucible of Worlds》+《不毛の大地/Wasteland》のロックも勿論完備されている。

 このGolos Staxはさらに、《不屈の巡礼者、ゴロス/Golos, Tireless Pilgrim》とサーチ先の土地を搭載し、対応力を高めている点が特色である。
 ゴロスのサーチ先となる土地とその用途を一覧にしてみよう。

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 こうしてみると対応力の高さが窺い知れる。ゴロスの登場により、こういった尖った土地を1枚入れるだけで相手デッキに合わせて引っ張ってこれるようになって、スロットの節約及びメインからの対策が可能になった。
 妨害アーティファクト+土地の連携により、相手を完全なロックに陥らせることがゲームプランである。

4.2 Ravager Shops

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 こちらは対照的に、クリーチャーを25枚~30枚近く投入したアグロである。妨害アーティファクトは7枚程度に留めており、完全なロックの成立はもともと計画していない。Golos Staxがロックを完成させ、クリーチャーで殴り切るデッキだとすれば、Ravager Shopsは、大量のクリーチャーを布陣し、相手の抵抗を遅らせるために妨害アーティファクトを置く、といった発想だ。
 ここでデッキ全体の司令塔となるのが《電結の荒廃者/Arcbond Ravager》であり、クリーチャーたちは荒廃者の管理する+1/+1カウンターを介して縦横無尽の動きが可能となる。
 その中でも特に好相性なのは《歩行バリスタ/Walking Ballista》で、これと荒廃者が並んでいれば、戦場にあるアーティファクトを全て荒廃者に捧げて+1/+1に変換して相手を殴り、最終的には自分自身をも生贄に捧げることで、接合から+1/+1カウンターをバリスタに渡すことができる。これは早い話がアーティファクトが全部2点火力(戦闘ダメージ+1、バリスタのダメージ+1)に変換されたも同然の挙動であり、リーサルが一気に近づく。
 《検査官鋳造所の検査官/Foundry Inspector》からの大量展開力も魅力であり、ハマれば単体除去の1枚、2枚程度無視して相手を削り切るコンボチックな動きも可能なデッキだ。しかしながら、《アメジストのとげ/Thorn of Amethyst》は初手で相手を束縛しながら、自分のクリーチャー展開には影響を与えないと、このデッキにとって最高の相性を持ったカードであったため、その制限後は穴を埋めきれず苦戦している印象が強い。


5 Bazaar

※ 本項では《Bazaar of Baghdad》カード自体を「バザー」、それを主軸としたアーキタイプを「Bazaar」と呼ぶ

 バザーによるドロー&ディスカードを駆使するデッキ。占有率は20%~25%と増加傾向にある。新デッキタイプの研究も積極的であり、現在のヴィンテージでも活気のある界隈だろう。
 墓地による無限のリソースを構えているため、1試合目が圧倒的有利であることは周知の事実である。行動の大部分が呪文詠唱を介さず、逆にこちら側がピッチのカウンター/除去を構えることができる関係上、特に青に対しては圧倒的に有利な一方、Workshopのコスト増加はやや苦手としている。

 問題はサイド後で、今やあらゆるデッキがBazaarを最大限に危険視して大量のサイドボードを送り込んでくるため、2試合目以降の展開は全く異なるものとなる。しかし、これも裏を返せば、サイド後も相手がサイドボードから仕入れてきた対策カードを無効化すれば勝つのはBazaar側ということだ。したがって、Bazaarのサイドボードは、同系対策と墓地対策対策に尽くされている。

 続いて、このアーキタイプの創生、また変遷において重要であったカード3枚を説明しよう。
 1枚目は《血清の粉末/Serum Powder》だ。とにかく初手にBazaarが来ないと始まらないデッキであるため、粉末の存在(そしてロンドンマリガンへのルール変更)はBazaarの安定性に大変寄与している。その影響を計算してみると下表のとおりであり、粉末の有無によってゲームスタート時の平均手札枚数が0.6枚変わる。また5枚以上でゲームを開始できる確率は78%から90%に高まる。
 もし粉末が無かったとしてもBazaarを構築することは可能だろうが、安定性が大きく損なわれ、到底今のようにTierクラスのデッキとはならなかったに違いない。

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http://www.themanadrain.com/topic/2752/dredge-the-london-mulligan-and-the-continued-use-of-serum-powder

 2枚目は《虚ろな者/Hollow One》。バザーで3枚捨てることで、手札から0マナで召喚することのできる4/4は、従来Bazaarに有効であった墓地対策全てを無視して現れる。これはBazaarにとってクロックパーミッション的な戦略を取り入れる契機となり、また虚ろな者の登場がやがてBazzar内のドレッジとHollowVineへの分岐にも繋がった。

 最後に3枚目が《活性の力/Force of Vigor》だ。Bazaarの経緯については、拙稿「ドレッジ史」をご覧いただければと思う。2007年の未来予知リリース時点で既にマナを一切使わないマナレスドレッジが完成していたが、実際には墓地対策への対策等の理由から、メイン・サイド75枚の中には《自然の要求/Nature's Claim》や《蒸気の連鎖/Chain of Vapor》といった万能パーマネント対策及び必要なマナを確保するのが常例であった。
 しかし、2019年のモダンホライゾンに収録された活性の力によって、マナを要さずして墓地対策パーマネントを除去できるようになったことで、ドレッジは名実とともにマナレス化を達成したのである。これはドレッジ12年の歴史でも一大転機だ。

5.1 ドレッジ

墓トロール

 デッキ名どおり《ゴルガリの墓トロール/Golgari Grave-Troll》をはじめとした発掘持ちのカードにより、バザーによる墓地肥やしを最大化するデッキである。最初のバザー起動で発掘持ちを捨て、次以降の起動で2ドローをそれぞれ発掘に置換と動けば、墓地は瞬く間に10枚単位で積み上がる。あとは、手札からは《虚ろな者/Hollow One》、墓地からは《ナルコメーバ/Narcomoeba》や《イチョリッド/Ichorid》といったマナ不要のクリーチャーを展開し、相手の致命的な挙動は《意志の力/Force of Will》等のピッチスペルで弾いて削り切る。

 サイドボードは、カードタイプ別の除去が中心となっている。

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 この中でも重要なのは《露天鉱床/Strip Mine》《不毛の大地/Wasteland》だろう。完全マナレスとなった代償として《The Tabernacle at Pendrell Vale》が刺さるようになったため、その除去手段が必要となったこと、そして同系対策ではバザーを割るのが最も有効であることが、その理由だ。

5.2 HollowVine

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 ドレッジとは似て非なるアプローチを持つデッキである。バザーの持つ、捨てるという行為にフォーカスしたのがHollowVine、といえば近いだろうか。
 HollowVineの理想的な動きは次のようなものだ。まず1ターン目にバザーの起動で《復讐蔦/Vengevine》を捨てつつ《日を浴びるルートワラ/Basking Rootwalla》をマッドネス召喚、さらに0マナになった《虚ろな者/Hollow One》を召喚し、復習蔦を蘇生させる。殴って4点。2ターン目、3ターン目と4+1+4=9点で殴り、ゲームセット。
 ドレッジに比べてもクロックの出し方が必要十分な数字に抑えられており、それで浮いたスロットを安定化と相手を妨害するピッチスペルに充当している。

 まず安定化に向けては《むかしむかし/Once Upon a Time》だけでなく《予見のスフィンクス/Sphinx of Foresight》までも起用し、偏りのない初手を現出する。
 ピッチスペルには《意志の力/Force of Will》《活性の力/Force of Vigor》ばかりか《誤った指図/Misdirection》《否定の力/Force of Negation》、果ては《徴用/Commandeer》まで投入し、3ターンまでの動きを徹底してカウンターする。
 《黄泉からの橋/Bridge from Below》によりオーバーキルなまでのクロックを生成するなど、時としてコンボ的な動きを取ることもあったドレッジと比べれば、HollowVineは必要十分量のクロックをカウンターで支援する、クロックパーミッションの原則に忠実な動きであり、計算し尽くされたデッキとの印象が強い。

 この差がマッチアップでどう現れてくるかというと、ドレッジに対してはコンボがスピード勝ちするケースもあったが、HollowVineに対しては、相当に初手が良くないと厳しい。一方、ドレッジ相手に4/5の《タルモゴイフ/Tarmogoyf》を出したところでトークンに圧殺されるのがオチだが、HollowVine相手だとピタッと止まってしまったりもする(この点で《黄金牙、タシグル/Tasigur, the Golden Fang》が地味に再評価されてたりもする)。

 さてHollowVineも《The Tabernacle at Pendrell Vale》の影響を受けて進化を遂げたデッキだ。コストを支払えるように《ガイアの揺籃の地/Gaea's Cradle》を起用し、その豊富なマナをTabernacleの支払いにしか充てないのは勿体ないとばかり、《石とぐろの海蛇/Stonecoil Serpent》等のクリーチャーを起用しだした。そして、終いにはHollowVine側がTabernacleをサイドに積むまでになった。一度はBazaarから廃止されたマナが、奇妙な形で復帰したのである。

 こうした動向の延長線上にあるのかは分からないが、2020年5月頃からはさらにマナを加えたHogaakVineというタイプが登場した。バザー→ルートワラ+虚ろな者→復習蔦の基本ムーヴはそのままだが、ピッチスペルの大部分をカットし、《縫い師への供給者/Stitcher's Supplier》と《甦る死滅都市、ホガーク/Hogaak, Arisen Necropolis》のパッケージを加えたものとなっている。このHogaakVineには《溜め込み屋のアウフ/Collector Ouphe》等も普通に入ってきており、もはやBazaarアーキタイプ内の1デッキタイプと見るよりもBazaarにより加速力をつけた墓荒らしと見る方が適切かもしれない。
 未だ開発途上でありながら、記事の冒頭に挙げたEternal Weekendメタゲーム・ブレイクダウンではトップの勝率(53.1%)を誇り、今後の進化が非常に楽しみなデッキタイプでもある。


6 最後に

 やや急ぎ足なものではあったが、今日のヴィンテージを占める各デッキについて紹介させていただいた。
 この記事が添削杯に臨まれる皆さんにとって、少しでも環境把握の役に立ったなら望外の喜びだ。