見出し画像

ショートショート37 「恋・愛(AI)」

20XX年、兼ねてから社会問題になっていた少子高齢化はいよいよ深刻を極めた。

若者がとにかく恋愛をしない。”草食”という言葉は死滅した。今や、かつて草食と呼ばれた人種の方がマジョリティなのだ。

政府は、対応に頭を悩ませ、幾度とない閣議を経て、AIの力を借りてこの問題の解決に乗り出すこととなった。

生殖能力を認められた国民一人ひとりに、恋愛端末「愛ポッド」が支給され、中央に配置されたマザーAIの判断で、本人に意欲がなくても、趣味・嗜好・性格等の情報から総合的に、ベストパートナーを選定し、告白などの過程も代行してくれる、本人は寝ているだけでカップルを生み出してくれる起死回生の策だった。

各端末からの情報は、マザーAIに集積され、発信される情報・下される判断は、どんどんブラッシュアップされ、進化していく、というシステムである。

恋愛を機械に任せていいのか? と倫理的な観点からの反対意見もあったが、もはや国民の2人に1人が高齢者となった今の時代に、議論の余地はなかった。

そして端末の支給がはじまった。施策は奏功した。自ら駆け引きする意欲はなくとも、AIの指示に従っていれば、パートナーを得られるのだ。それも、最適な。

恋愛のプロセスは面倒と感じても、人恋しさまで失ったわけではなかった若者達は端末の指示に従い、こぞって、つがいとなっていった。


❇︎


施策がスタートして1年が経った。しかし、出生率は一向に回復しなかった。当初の感触に手応えを感じ、安心しきっていた政府は、慌てて調査を始める。


市井には、以前にもまして恋愛への興味を失った人々が溢れていた。

曰く、

端末が「悩むのは、時間の無駄」とばかりに、出会った瞬間に告白メールを送りつけ、送られた方が戸惑っているのを察知して、端末がNOの返事をする。

カップルになった男女も、ちょっとケンカをすれば、すぐさま関係解消の通知を端末が送りあい、破局に至る。

大小の違いはあれど、端末が恋愛成就を阻害する事態が多発しているらしい。


これはマザーAIの故障に違いない。

政府から、AIの開発者に原因を究明するよう要請がなされた。


❇︎


1ヶ月間調査が行われた後、検査結果が出たと開発者が官邸に報告にやってきた。

閣僚が固唾を飲んで見守る中、開発者は報告書を読み上げる。

「AIに異常も欠陥もありません。」

場がどよめき、声を荒げるものもある中、開発者はそれを制しながら続ける。

「むしろ効率を追求するという点で、優秀すぎたのです。

そもそも恋愛のような非合理なことはやめることが最適解だ、と判断したようで…。」



もはや、その場の誰にも、問題の解決方法は浮かばなかった。


サポートいただいたお金は、取材費/資料購入費など作品クオリティアップの目的にのみ使用し、使途は全てレポート記事でご報告致します!