ショートショート61 「❇︎ (アスタリスク) 最終話」

※これは2018年の筆者いぼ痔治療実体験を掌編小説に再編したものです。品性に欠ける表現 / 痛々しい描写もございますので、苦手な方はご遠慮ください。

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手術から1ヶ月以上の時が経ち、私は、ほぼほぼノーマルな成人男性としての生活を取り戻した。

違うところといえば、そう。

パンツに生理用ナプキンが挟まれていることくらいだ。

みんな違って、みんないい。

人類の多様性に貢献していると考えれば、この程度どうってことは…ないのだ。


❇︎


術後の傷口から漏れる血液/組織液を受け止めるべく、長らく退院の際に指導された方法で、ガーゼと脱脂綿のセットを自作していた。

まず脱脂綿をお尻の溝を隠せるくらいの大きさに切り出しガーゼでくるむ。

次にその半分の大きさのガーゼを切り出し、くるむ。

さらに、その半分の大きさの…くるむ。

それらを組み合わせて、痔後処理のガーゼセットが完成する。

控えめに言って、面倒臭い。


私は、生きるためにガーゼセットを作成しているのか、ガーゼセットを作るために生きているのか、分からなくなってくる。

最近は血液の量も、組織液の量も減っている。

これならば、ナプキンでいけるんじゃないか!


私は、トランクス派という表向きの理由をつけて、一度は敬遠したナプキン装着に挑むことにした。

職場最寄りのマツモトキヨシに駆け込み、ナプキンを吟味する。

ふふ、誰もまさか、ここにいる男が自分用にナプキンを探しているなんて思わないだろう。

謎の優越感に浸りながら「肌おもい」という見るからに優しさ溢れる商品を手に取りレジに向かった。


❇︎


オフィスのトイレに篭り、ナプキンをオープンする。

この光景を見られ、密告された場合、私は言い訳ができないな、などと自嘲しながら、ナプキンの機能性に身惚れた。

なるほど、ズレないように貼り付けられるようになっているのか。

これを、ここに貼り付けて…こう。


新世界だ。


ガーゼのゴワゴワした感覚とは違う、一生付き合っていくことを前提としたソフトな肌触り。

今、この商品から溢れる思いやりに、私の下半身は包まれている。

女性用のアイテムを身につけた私は、なぜか男らしさ二割増し(当社比)で、揚々と席に戻った。


…蜜月は短い。お尻が痒い。痒いを通り越して、イタイ。

夏の暑さのせいで汗をかいたのだろうと思って耐えたが、

家に帰ってみてみると、ナプキンを使用したあたりが真っ赤にかぶれていた…。


「肌呪い」じゃねぇか…。


吐き捨てながらナプキンを捨てる私は、少し泣いていた、と思う。

あえなくガーゼ生活に戻った私は、余計な冒険をせず、それから1ヶ月の療養生活を過ごすのだった。


❇︎


これが、私の闘病生活の全容である。

完治までは大体3ヶ月弱。

痔の闘病生活は、日々変化の連続であり、まるで子育てのようだった。

ただ、私の場合は成長を見守るのではなく、後退した機能を取り戻すための戦いであり、そこには感動よりも絶望が多かったように思う。

もし、お尻に違和感がある人がいたら、勇気を出して病院にいって欲しい。

善は急げ、とはよく言ったもので、放置すればするほど、それは確かなフィードバックとして、私たちの日常を蝕んでくる。


この手記が、誰かの悲劇を最小化する助けとなれば本望である。

そんな願いを込めて、ここに筆を置く。


〜了〜

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