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ショートショート25 「次世代サービス」

ここは、ある山奥の廃寺。

妖怪達が一堂に会し、長であるぬらりひょんを中心に会合を開いていた。

前回のグロバリゼーション戦略は、見事に失敗し「恐怖の対象としての妖怪像」を取り戻すべく再び起死回生の策が必要となっていた。

傘化けは、とあるバラエティタレントが発した「筋トレの筋肉は役に立たない」発言に、深く傷つきお堂に引きこもってしまっている。

天狗は、モテるようになったものの、生まれてくる子どもの顔のことを考えると恋愛に積極的になれないのだと言う。

唯一の救いといえば、ろくろ首から「子どもが生まれました♡」という年賀状が届いたことくらいだろうか。

依然、現代人にとって妖怪は嘲笑の的であり、当初の目的は果たされぬままだった。

「長、それでは情報技術を活用した新サービスに乗せて恐怖を発信していくというのはいかがでしょうか。」

化け猫の提案に、長は大きく頷いた。

「それはいい。昨今の情報化の波に乗った拡散力は目を見張るものがある。妖怪もマーケティングの時代なのかも知れぬな。革新的なサービスによって、人間達に妖怪の恐怖を身に染みて思い知らせてやろうぞ。」

そこから、さらなる議論が重ねられ、

「妖怪派遣サービス ウーバー恐怖」

がスタートした。

それぞれの妖怪が持つ怪フォンに、仕事の依頼が届き、依頼元に妖怪が赴くというものだ。

サービスはとても好評だった。

コンビニでたむろする不良の撃退にガシャドクロが派遣されたり、最近帰りが遅くなりがちな子どもを、夜道ベトベトさんがつけまわしたり。

妖怪本来の”怖がられる”という価値が復興し、長も面々も大満足だった。


そして、順調だった数ヶ月が過ぎ、廃寺に満身創痍の妖怪達が集まっていた。


最初に口を開いたのは人面犬だった。

曰く、動物園からの依頼で先日死んでしまったパンダに替わる客寄せの目玉として、大変な好評を博し、連日SNSでエゴサーチをかけ「いいもの見られた!」「意外とカワイイ」と言った書き込みに気を良くしていたものの、「キモい」「早く死ねばいいのに」と言った書き込みも増えてきてしまい、もう動物園にいくのが怖くなってしまった、とのこと。

言い終わると、その場に突っ伏して泣き出してしまった。

続いて報告をしたのは、皿屋敷の幽霊 お岩。

彼女が言うには、陶器工場がお得意先となり、ベルトコンベアーを流れる皿を数えるラインの仕事に従事、絶え間なく流れてくる皿に当初は有頂天だったものの、深夜作業で延々と14時間繰り返される単調な作業にいい加減飽きてしまい、SNSに「皿1枚くらいなくたっていいじゃん。もう飽きた〜。」と書き込んだところ炎上。「妖怪の自覚あるの?」とか「自分で始めた仕事なんだから自己責任。」と言った誹謗中傷の書き込みに精神を病んでしまい、もう外を出歩くのも嫌になってしまったんだとか。

彼女が言い終わるや否や、涙声で河童が訴える。

彼は、動画投稿サイトに人目を引く動画を投稿し生計を立てている若者に呼び出され、勇んで赴いたところ、散々な目にあったのだと言う。

「これを見てくだせぇ」

と、パソコンの画面を見せると中には

「ガチの格闘家が河童と相撲を取ってみた」

と言うタイトルの動画、「まいった!」と言おうとしてるにも関わらず、河原で投げ飛ばされまくる哀れな河童の姿が映し出されていた。

長を始め、一同は無言で目を閉じ、胸の前で十字を切った。

その後も妖怪達からの被害報告は止まらない。

彼らは、異口同音にこう訴えるのだった。


「長、人間の恐ろしさは身に染みてわかりましたから、どうか、もう、こんなサービスやめにしましょう!!」


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