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【連載小説】「くじらは神話を運んでくる(仮)」 | 第4話

パラディソスと海を隔てる鉄扉が開き、半壊の潜水服を身にまとったロプトが膜を通過してくる。
壊れかけのロボットじみた見かけだが、ロプト本人は無事で、その場で地団駄を踏み、怒りを顕にする。
「お、王子!? 」
兵士二人がロプトに駆け寄ろうとするが、ロプトは身につけている壊れかけの潜水服を脱ぎ、兵士達に乱暴に投げつける。
「もっと、ましなものを作りやがれ」
ロプトの真珠の如く輝く銀色の髪が投げた勢いで靡く。
投げられた潜水服を兵士達が泡を食ってキャッチする。
兵士達を横目にロプトは大股で通り過ぎていく。
「お、王子、どちらへ?」
「地上以外のどこかだ」
ロプトの怒号が響き渡り、兵士達が耳を塞ぐ。
兵士達の様子なんてお構いなしにロプトは怒りをむき出しでその場を離れる。

人工太陽「ヘリオス」で照らされ、活気あふれた城下町。露店が並び、人々が笑顔で商いをしている。
露店には奇妙で妖怪じみた見た目の深海魚や丸々肥えた野菜、煌びやかな真珠などの宝石、様々なものが売られている。
そんな露店を見向きもせず、露店商を闊歩するロプト。
「へっ、こんな狭いところで暮らして、楽しいのかね」
笑顔の人々の顔を一人一人見ながら、吐き捨てるように声を漏らす。
露店商の明るい空気に嫌気をさし、人気のない路地へ入り、無造作に置かれている樽の上にドシッと座り込む。
ロプトは上を見上げる。
建物の隙間から覗かせるパラディソスのドーム状ガラス天井。
パラディソス内はヘリオスのお陰で明るいが、ガラスの向こうは真っ暗な海が見える。
「いつになったら、地上へ行けるんだ、クソが」
そう言うと、ガラスの向こう側に白いクジラが泳いでいるのを見える。
「ふん、お邪魔虫の次は監視かよ」
白いクジラはガラスの向こう側でパラディソスを監視するに旋回して泳いでいる。
白いクジラの目とロプトの目が時折合うように、ロプトは感じている。
「そんなに俺が好きか」
ロプトは白いクジラの泳ぎを目で追っていると、背後からみすぼらしい格好の銀髪の少女が忍び足で近づいてくる。
すると、少女は後ろから手を回し、ロプトの両目を隠す。
「アニキ、だ~れだ?」
「あほか、フレイ坊か」
ロプトは驚きもせず、呆れたようすで答える。

<続く>

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