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短編小説【ウラとオモテシリーズ】「嘘つきな69番目の欠片・オモテ編」

「トルソニーミカは絶対復活してはならぬ」
鏡には机の上に座って、足をぶらぶらとしている黒のワンピースの女の子と神妙な面持ちの黒猫が映っている。
「その話、何度目?聞き飽きた」
女の子は幼い顔立ちだが、眉間のシワを寄せると老婆と見間違う程に渋い顔で黒猫を睨みつける。
「平和ボケとしている貴様にトルソニーミカの恐ろしさを何度でも理解してもらうためだ」
黒猫は身体を正面に向けて、ブツブツと文句を垂れる。
「トルソニーって誰だっけ?白髪おじいちゃんの象を宗教的に掲げている某チキン屋のメニューにありそうなバンド名のヴォーカルの人なら知っているが」
「それはアンソニーだ」
「じゃ、服屋でよく見る、頭と脚と腕がない人形なら知ってる」
「それはトルソー」
「じゃ、じゃ、氷の上で…」
「もうええぇ、わざとやってるだろ」
黒猫は呆れて、深く溜息をつく。
「あっ、バレた?てへ」
女の子は悪戯なピエロのように舌をペロって出し、無邪気に振る舞う。
「何百年一緒におると思うんだ、貴様の思考回路はもう読める」
「ちぇ、もうちょっと付き合ってくれてもよかったのに、“1番”は相変わらずつまらねえ黒猫だな」
そう言うと女の子は後頭部に両手を持ってきて、机に寝っ転がる。
「“69番”はもっと真面目に振る舞え。剽軽すぎる」
「はいはい。てか、あたしを“69番”呼びしないのではなかったっけ?ストロベリーって呼んでよ、名前気に入ってるのに。二人きりが多いから全然呼ばれないよ」
女の子は不貞腐れているのか、口籠ってちょっと聞き取れない話し方だ。
「それはお前にトルソニーの欠片の自覚をしてもらう為だ」
対象的に黒猫の方は言葉に熱が籠もってき始めた。
「欠片の自覚ね…あたしって本当は存在しない欠片なんでしょ?なら堂々と表を闊歩したいわ」
寝っ転がりながら、机から宙ぶらりんな足のバタつきを加速させた。
「貴様の存在を知られたら、トルソニーの弟子の魔女達が全力で貴様を捕獲しに来る。向こうの手に回ってしまったら、“1番”から“68番”の欠片達を集めなくても、トルソニーミカを復活出来てしまうのだ。それは避けなければ」
「ふーん、なら、いっその事、あの世に行ってもいいかもね、あたし。この世に未練もないしね」
「嘘でもそんなことを口に出すな、貴様は復活の裏の手であるが、滅ぼしの奥の手でもあるのだからな。キュトスの魔女が見つかるまで、変な気を起こすな」
「そんな目くじらを立てるなよ、“嘘”だよ」
黒猫は鏡の中の左隣にいる女の子に目を向けていたが、左に顔を向け、誰も居ない空間に目を向け直す。

※「嘘つきな69番目の欠片・ウラ編」は上記のページに飛んでいただければと存じます。

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