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日本の持つ脳ドックというシステムのユニークさと可能性~新著『認知症を止める 「脳ドック」を活かした対策』で伝えたい想い (2)

私の書籍について話をさせて下さい。『認知症を止める 「脳ドック」を活かした対策: 異変(萎縮・血管)をつかんで事前に手を打つ』というタイトルで、三笠書房さんから本日5月11日に発売されました。筑波大学名誉教授、現メモリークリニックお茶の水理事長で、認知症医療の第一人者でもある朝田隆先生との共著です。

「番外編」の私的な連動企画として、書籍には書ききれなった内容についてnoteに綴ります。

第一弾では、「認知症は生活習慣病」であるからこそ「脳の健康は自分の手
で管理できるんだ」という気構えで、自分の脳に責任を持ち、能動的に管理しよう、というメッセージをお伝えしました。研究で得た最先端の知識と開発してきた技術を皆様に伝える、ということが本書の執筆の動機でした。

第二弾では、対策について述べます。「人生100年時代」に大切な脳の健康管理の対策のひとつとして、日本の持つ脳ドックというシステムのユニークさと可能性をお伝えします。

1. ほかの病気の対策は確立

認知症は生活習慣病」とお伝えしましたが、より身近な生活習慣病と言えばメタボが思いつきます。その対策として体重管理が大切なのはもちろんのこと、年に1回の健康診断ではコレステロール、血糖、血圧といった指標を数値をもって知り、経年の推移を見て、必要に応じて減量、食事管理、運動などを通して改善を図ります。糖尿病などの生活習慣病も同様の対策があります。

また、心臓、肺、肝臓、腎臓といった「肝心要(肝腎とも書きます)」の臓器に目を向けてみれば、上記に加えて機能検査もやります。中には肝機能や血糖値が悪く禁酒を言い渡される方もおられるかもしれません。
首から下の臓器では、健康診断における対策が確立されています。

首から下の臓器で確立している健康診断による対策

2. 脳の健康状態を見ることの難しさ

ここで、健康診断を振り返って頂きたいのですが、脳についてこのような確立された検査は健診には存在しません。

おかしいと思いませんか?いまや私たちの健康を脅かす原因の第1位は認知症です。そして認知症は、メタボや糖尿病と同じく生活習慣病です。であるのに、なぜ、私たちは脳の健康を毎年の健診で見ていないのでしょうか?健康状態を知らずに予防を試みるというのは、体重や体形を見ることなくメタボ対策をやれ、血糖を測らず糖尿病対策をやれ、と言われているようなものです。

これには理由があります。脳というのは私たちの体の中で一番大切な臓器です。であるがゆえに固く外界から守られており、その状態を観察するのがとても難しいのです。その結果、安価にその詳細がわかる方法がないのです。

谷川俊太郎さんの詩にも、固い頭蓋骨に分け入ることの難しさを示唆する一説が見られます。

この卵型の骨の器にしまってあるものは何?
傷つきやすく狂いやすいひとつの機械?
私たちはおそるおそる分解する
どこにも保証書はない
その美しいほほえみの奥にあるものは何?
見えるものと見えないものが絡み合う魂の迷路?

谷川俊太郎「脳と心」より

3. 日本特有の脳ドックは有望な対策のひとつ

これはとても難しい問題なのですが、対策として私が行きついた結論は「脳ドック」でした。世界的に見ても、日本特有の脳ドックはとても面白い立ち位置にあります。
脳ドックは、日本で1988年に誕生した健康診断であり、MRIで脳の画像を検査するシステムです。MRIを撮れば脳の状態が詳細にわかるのです。しかし、MRIは1回の撮影に数万円の費用がかかるため、健診の一部として病気でない人の脳をMRIで撮るというシステムがあるのは日本だけです(最近では中国等でも始まりつつあるようですが)。30余年の日本の脳ドックの歴史は、他国にはない膨大な量の健常人の脳画像データの蓄積をもたらしました。
健常人のデータがあるということは、それを使えば異常を知ることもできるということです。その一方で、現在の脳ドックは「重篤になりうる病気(例えば脳腫瘍や脳出血を引き起こす動脈瘤)にすでになっている、あるいはなりつつある人を早期発見する」ということに主眼が置かれており、将来の脳の疾患の予防という使われ方がされていません。
先に述べたように、予防のための健診であれば数値をもって状態を知り、経年変化を観察し、同年代の平均と比較することにより自分の健康状態を把握する、ということが必須ですが、それらは通常の脳ドックではやられていないのです。脳ドックは非常に有望な対策ですが、脳の疾患予防という観点では、現状「惜しい」状況にあると言えます
私がアメリカでの研究活動を全て辞めて、ラボも解散して日本に戻って来た理由がここにあります。私が見出した日本だからこそ実現できる「対策」とは、脳ドックで得られる画像をもとに、脳の健康状態を数値化し認知症予防に活用する、ということです。

日本の脳ドックの可能性


本記事に関連する内容は、本書の中では2章「脳ドック」で脳の状態がここまでわかる ―ブラックボックスだった脳を “見える化” する で詳しく述べています。ご参考にしていただければと思います。
次回は、「対策」の具体的な内容について、技術面も交えてお伝えする予定です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Information

書籍の情報

  • 著者‏ : ‎朝田隆、森進

  • 出版社 ‏ : ‎ 三笠書房 (2023/5/11)

  • 発売日 ‏ : ‎ 2023/5/11

  • 単行本 ‏ : ‎ 224ページ 電子書籍もあり

  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4837929419

  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4837929413

本書の目次

はじめに|あなたの「健康寿命」は「認知寿命」が決めている 森進
1章|あなたの脳の「今」と「これから」を知るために ―「健康寿命」も大事。「認知寿命」はもっと大事
2章|「脳ドック」で脳の状態がここまでわかる ―ブラックボックスだった脳を “見える化” する
3章|認知症は「迎え撃つ」時代へ ―脳を早く老化させていないか
4章|「認知症グレーゾーン」で踏みとどまるには ―チェックポイント、検査、薬
5章|脳の健康を守り続ける効果的な「セルフケア」 ―食、運動、睡眠、そして日常
おわりに|認知症は、「早期発見、早期絶望」から「早期発見、早期治療」の時代へ 朝田隆
(本書の1~3章は森進、4~5章はcが主に執筆しました)

プレスリリース

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