「イケてる奴になりたい君」と「ハブられたくないちゃん」
とあるコンタクトレンズメーカーさんからこんな依頼が来た。
「ずっとブランドとして上位の売上を保ってきたものの、最近はメインの購入層がどんどん高齢化していって、"お母さんのブランド"と思われてしまっている。このままでは売上が落ちていくのは目に見えているので、ブランドの若返りを図りたい。」
実はこういう依頼は多かったりする。
当時私は、デジタル領域で一目置かれる会社に籍を置いていたので、「デジタル=若者だよね」といった発想で、若者を顧客にしたいメーカーからよく相談が来ていた。
考えたこと
まず前提として、女子中高生(特に高校生)は、半数以上がブランドスイッチ(使用するメーカーを変えること)を経験しており、必ずしも親や医師の意見ではなく、自分から複数メーカー試して能動的にブランドを変えていることが調査によりわかった。
チャンスはある。
ではその上で、彼らにまずは試してもらうために「自分に近いブランドである」と認知・認識してもらうにはどう入り込めばいいのか?
女子中高生の生態を調べてみた。
女子中高生の生態
中高生を理解するためのキーワードは3つ。
①「ウケる」へのこだわり
②「知らない世界」への恐怖
③広告の好き嫌いが明確
である。
①「ウケる」へのこだわり
いきなりだけれど、女子中高生を理解する上で、ここが一番重要だったりする。
高校生は基本的に「家」と「学校」という社会で生きている。
バイトなどをしている人もいるが、基本は上2つがメインである。
そしてその中でも「学校」での立ち位置が、学生生活を左右する。
それが「スクールカースト」。
スクールカーストとは、現代の日本の学校空間において、生徒の間に自然発生する人気の度合いを表す序列を、カースト制度のような身分制度になぞらえた表現。(Wiki)
誰しも学生時代を思い浮かべると、「自分はクラスの中で何番目くらいか」「自分が属しているのはいけてるグループかどうか」「人気者と仲がいいか」などを気にしたことがあるのではないか。
下記は「スクールカースト」内で必要になる3つのコミュニケーション能力。
◉同調力
◉自己主張力
◉共感力
この中で最も重要視されるのが、場の空気に応じてボケたり、突っ込んだりして盛り上げながら明るい雰囲気を作る「同調力」。
SNSで常に誰かと繋がっており、 周囲からの評価をいつも気にしている彼ら。 SNSの評価で他人と比べて、自らの地位(カースト)を キープしようとしている。 そして、評価されるために「周囲の期待に応えたい」 「期待に応えられず、孤立するのが怖い」 という想いを強く持っている。
加工アプリ「snow」や「Tiktok」がなぜ彼らにウケるのか。
そこを深掘りすると「クラスでウケる」「友達の期待に応える」ことの重要性が見えてくる。
「盛り上がる話題を提供できる」「周りを笑わせられる」
そういうコミュ力が高い人が人気者になる。その話題作りのツールとしてsnowやTiktokが活用されているのだ。
こんな行動に現れている。
つまりここから逆算すると、企業からの中高生へのアプローチで提供しなくてはいけないのは、彼らがクラスの中で盛り上がることができる「ツール」であり「コンテンツ」である。
一方的な宣伝メッセージなんて求めていない。彼らが「これ使える」「これおもしろい」と友人同士で話題にできるコンテンツでないと、彼らの輪の中に入っていくことが難しい。
なぜなら、それを使って「ウケる」ことを求めているから。
新しいネタの提供者は、少しの間、話題の中心人物になれる。
②「知らない世界」への恐怖
スマホネイティブに育った女子中高生ならではの感覚がある。
今や都市部を中心に当たり前になった、「スマホでの検索」。
多くの人が活用している。
こちらは定性コメントになるが、高校一年生女子の発言である。
・初めて行く場所については必ず念入りに検索しないと気が済まない。「心配性なのですべて把握しておきたい。トイレとかランチできる場所とかコンビニの場所とか」
・場所だけでなく、初めてすることについても徹底的に検索して、口コミサイトやブログ、 Twitterなどで情報を集める
・ 「情報が足りなくて不安な時には、心配だから行かない。新しいことは別にやらなくてもいい」
つまり、「新しいこと」「事前に調べられないこと」への恐怖を感じている。基本スマホでなんでも手に入ると考えている節がある。
ただ逆に言えば、新しい世界に踏み出す、挑戦することで出会える感動もあるはず。ブランドはその背中を後押しする存在になるべきなのだ。
③広告の好き嫌いが明確
KANTAR調べによると、16歳〜19歳のZ世代は、広告に対してあまりポジティブな印象は持っていない。
一方で、新しい広告フォーマット、アプローチ方法や ブランデッドコンテンツに対しては 若い人ほど受け入れる傾向がある。
つまりここでも、広告的より、コンテンツ的なアプローチかの方が、女子中高生と親和性が高いことがわかる。
つまり、
もし女子中高生にアプローチするのであれば、
◉女子中高生が、彼らのコミュニティで「ウケる」「盛り上がれる」コンテンツを提供する
◉女子中高生が「やりたいけれど、できていないこと」の背中を押す、勇気を与えるメッセージにする
を満たすことで、「自分に近いブランドである」と認知・認識してもらうことができる。これの継続が、「お母さんのブランド」から脱する一つの手法である。
たまにいる「若者に媚びたくない」ブランド
この案件のクライアントでないが、たまにこういうことを言い出すクライアントがいる。
「私たちのブランドにも理念があり、プライドがあり、確かにターゲットに気持ちを動かせるコミュニケーションはしていきたいが、だからと言って相手にレベルを合わせるような、迎合するようなことはしたくないんです」
といったこと。
確かにそうだろう。信念をもって培ってきたブランドイメージがあれば、そのイメージからかけ離れることはやりたくない。ブランドイメージが壊れてしまうかもしれない。守りたい気持ちはわかる。
この考えに対しては2つ視点がある。一つは、
ラグジュアリーブランドならそうかもしれない。憧れていたブランドが、いきなり自分の住んでいる階まで降りてきてすり寄ってきたら、「私はペントハウスに住んでいるあなたが好きだったのになあ」となってしまう。
せっかく憧れてくれている気持ちを、わざわざ裏切る必要はない。
しかし、もし機能性を売りにしている商品・サービスであれば、むしろ伝える相手に合わせてコミュニケーションを変えていくべきである。
当時革新的だったiPhoneでさえ、今や普通である。もはや機能性は差別化にならない。ブランドの姿勢やメッセージに対して共感してもらい、ファンに応援してもらうことが、最も差別化への近道であり、売上安定化への近道である。
二つ目は、実はコアなファンほど、ブランドらしくないことに寛容であること。
以前、「外資系アイスクリーム」の広告を担当した時、普段のブランドイメージとはかけ離れたクリエイティブでコミュニケーションを図ったことがある。
Twitterなどでは「らしくない」「こうじゃない」という意見が目立った。
しかし、ブランドが運営するコミュニティに同じクリエイティブを届けたところ、「こういう一面もあるんだ」「らしくないところが、おもしろい」と好感を得られた。
実は、否定的な意見を言っている人は、そもそもファンではない。メインの購買層ではないことがある。この見極めは重要である。
また、クライアント側は「ブランドイメージを自分たちで作っている」と思っているかもしれないが、「ブランドは作られるもの」である。ブランドイメージは、受け取った側に委ねられている。コントロールできるものではない。
ここを認識していない人は意外と多い。
商品・サービス提供側からできるのは、「必死に使ってくれる人のことを考えてつくること」「その想いを伝えること」。
伝え方は色々あるけれど、本質はこれに尽きるのである。
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