【ビジネスマン必見】今、知っておくべきエストニアの国家戦略を解説します
先日のベトナムに続き、視察で北欧の一国、エストニアはタリンに行ってまいりました。
エストニアという国のコンテンツ力については別記事でまとめるとして、まずはエストニアがどんな国家戦略で「最先端の電子国家」になったのか解説していこうと思います。
政府機関やスタートアップの役員などとディスカッションしていく中で、見えてきた歴史的背景や思想の部分にも触れながら、赤裸々に綴ります。
正直、ITやデータを専門に扱う私からすると、憧憬の念を抱きながらの視察となりました。
それほど、自国の資産を良く理解し、世界の動向を敏感に感じ取り、技術で解決しようという気概が感じられる国です。
日本がエストニアのような動きができるかは国の特性なども大きく関わるのでわかりませんが、ITに関わる人にとっては知っていて損は無い内容だと思います。
では、始めていきましょう。
富国のために法人設立のUXを極限まで高めるという発想
結論から始めます。
富国を目的としたときに、エストニアが採択した方針は「法人設立UXの最適化」です。
つまり、世界中の人が、エストニアで「法人」を作りやすい状態にするということです。
この方針を採択した理由は後述しますが、実現するための具体的な施策が極めて秀逸です。そして世界への情報発信も連動することで、「電子国家エストニア」という確固たるブランディングに成功しています。
国民一人あたりのユニコーン企業が世界で一番多い国。
かの有名なSkypeもこの国で生まれている。
法人の基盤である「国のカタチ」がどのような背景から生まれたのか。次節から解説していきます。
すべては共産主義の失敗から始まった
1991年8月20日、エストニアはソ連の崩壊とともに無血で独立を実現しました。
独立してから30年くらいしか経過していない若い国になります。
このソ連の支配からの独立により、「エストニアにおいて、共産主義(=過去の政策)は失敗した」という強いマインドセットが国民に根付いています。
この経験から、「過去を完全に切り捨て、新たにエストニアという国の資本を適用し、自分たちの知恵で富国を実現する」という国全体での意思がオーソライズされました。
過去を捨てるという意思が影響して、ゼロから国を作るという壮大なミッションを導く役割を、30代を中心とした若い政党が担うことになりました。
そうです。選挙で勝ってしまったのが、30代中心の政党だったわけです。
日本では考えられないかもしれませんが、新たな国を若者に任せたいと国民が思ったのでしょう。
電子国家の実現に至ったひとつめのポイントは、国全体がリセットされ、過去に囚われず、最適な方法で富国を実現しようという国全体の意思です。
ここからエストニアは電子国家に向けた歩みを進めることになります。
日本では、シニアを中心とした保守派が先進的な取り組みには首を縦に振りませんが、国民全体にこういういった意識が根付いていたため、推進ができたということが分かります。
面積は小さく、人も資源も少ない
エストニアの国土は4.5万平方キロメートルで、日本の約9分の1ほど。
人口は131.6万人。沖縄の人口よりも少ない。
九州に沖縄県民くらいの人数の人が住んでいる国と思っていただいて結構です。
とりあえず、小さな国ということはわかっていただけたと思います。
更に1990年代は、独立直後ということで、非常に貧しい状態でした。資源も目立ったものはなさそう。
さて、この状況でエストニアの若い世代がとった方策が、IT技術を基盤とした「スマート国家」の実現です。
そうしないと、すべての国民に行政サービスを提供することができないので、政府は本気になります。
貧しい国だから、国民一人あたりの生産性をITのチカラで向上させましょうよ。ということです。
今考えれば当たり前のことかもしれませんが、コレを1990年代から構想を始めていたという。
エストニア国家の、未来を見据えるチカラには感服させられますね。
この方針を掲げてから、エストニアはほとんどの方策をITに特化させていきます。
まず初めに行ったのが、2000年のe-tax board。確定申告などの、税金制度をIT化したわけです。
国民の義務をスマートにしたわけですから、コレは便利だぞということで、国民がITのチカラを認め、さらに方策は加速していきます。
2001年には、x-roadという、簡単に言えば「国民のデータベース」を作りあげます。
※x-roadに関しては、個人情報の考え方として別記事にあげる予定です。この思想も凄まじいです。
2002年には、e-schoolも始めます。学校の先生や保護者、生徒がWEB上でコミュニケーションが取れるプラットフォームが、この時代にすでに出回っていたわけですね。
とまあ、挙げるときりがないので、ここらへんにしておきますが、ITのチカラによって国民の生産性を上げることに成功します。
ちなみに、教育でも国が主導となり、20年前からITに関する教育が盛んに行われており、その世代が現在のエストニアを引っ張っているという状況です。いやはや、教育の重要性に改めて気付かされます。
まとめますと、小さく、人口も少ない貧しい国が、行政サービスを全国民に提供するために、フラットに検討した結果がスマート国家=電子国家となったわけですね。
現在、ほとんどの行政サービスはWEB上で完結します。
さらにエストニア国家は、行政が国民に対して、制度自体をレコメンドする未来も見据えていると言います。
国民1人1人のライフステージに合わせた制度を、国民が選ばずとも最適なものが自動で付与される世界です。
面倒な行政サービスの選択という行為もなくなり、さらに生産性が上がりそうです。
国家が国民に約束した3つの約束
日本では、車を買ったり、引越したりすると、何度も紙に自分の個人情報を記載するという謎の行為が必須ですよね。
エストニアがこの無駄をいかに無くしたか。
歴史的背景は前章で述べた通りなのですが、ここで注目したいのは、政府機関の覚悟です。
エストニア政府は、3つの約束を国民にしています。これが、確固たるWEB基盤を整える際に、サービス開発における大枠の構えになっています。
Once only
政府は個人情報に変更がない限り、国民に一度しか情報を聞きません。ということです。
先程述べた通り、病院にいっても、車を買っても、国民IDをもとに全て管理しているので、IDだけ教えてくれればいいよ。ということです。
あの生産性のカケラもない、紙に何度も個人情報を記入するという行為は不要になります。
Digital by default
基本デジタルでやりますよ。ということ。つまり、ネット環境があれば、行政機関に行かずとも、行政への申請作業などは自分のPCで完結します。
Truth by design
信用に値するシステムであることを約束します。ということです。
エストニアでは自分の個人情報が誰に、いつ、どういった理由で見られたか。のログが全てWEB上で閲覧可能です。
この仕組みは、信頼の他に、自分の個人情報の責任は自らにあるという思想の定着にも役立っています。
という、3つの約束を国民にしたわけですが、この覚悟感に、憧憬の眼差しを向ける以外の選択肢が私には見当たりません。
企業経営の際の社会へのメッセージングも同じですが、何を目指そうとしていて、そのためにどんなサービスを提供するのかという、分かりやすい明示化。これは非常に重要だと感じます。
ちなみにエストニアには、国の文化として、ネット通信は権利であるという考え方があります。
一ヶ月のケータイ料金はだいたい8ユーロ。電子国家を支える一つの文化と言えますね。
この覚悟感・文化だけでも感動モノですが、エストニアはそれで止まりません。更に、富国を進めようとします。
世界中から起業家を呼び込み、国を豊かにする
国民のWEB上での行政サービス基盤はある程度整いました。これで、全国民に行政サービスを提供することができることになります。
さて、次にエストニアが考えたのが、なにが自国の優位性か、ということです。
それは、ここまで積み上げてきたWEB基盤と、EU圏に自国が属するという経済的利点です。
この掛け合わせを用いて、エストニアは「世界中から起業家を呼び込み、エストニアでの企業を増やし、法人税で富国を行う」という方針を取ります。
この強みを活かす戦術には、マーケティングの立場から見ても、舌を巻くものがありますね。
ということで、エストニアが行った施策は「e-Regidency」の発行です。
これが何かといえば、世界中どこからでも、エストニアの疑似国民IDを発行でき、すぐに法人設立ができる代物です。
そして、この起業UXが極めて秀逸なのです。WEB上だけで30分あれば、法人設立できますし、マネーという起業の際の高いハードルも、その申請ページの中でFintechなどをレコメンドし、その障壁を超える手助けにもなります。
さらに、エストニアはEU圏に属するため、EU圏のマーケット進出を狙う企業も、起業しやすいエストニアにて、海外支店として法人設立を行うという仕掛けです。
このような、起業UXの最適化とEU圏進出欲求を満たすことにより、スタートアップがどんどん生まれている。
そして、国全体でそのブランディングを世界に発信し続けている。
政府のKPIも法人設立数だそう。非常に徹底していますね。
これがエストニアの国家戦略です。
少子高齢化に向かう日本はエストニアの国家戦略に学ぶべきことが多いのではないか
今後、日本は少子高齢化により、多数のシニア世代を少数の若者が支える構造になります。
この事実は変わりません。
では、我々は何をすべきか。そのヒントはエストニアの国家戦略にあると強く思うのです。
一人ひとりの生産性をITのチカラによって、向上させ、自国の強みと掛け合わせて生産人口が少ない状態でも、国を豊かにできるスキームを生み出すこと。
これが我々に課せられたお題ではないでしょうか。
ただし、その障壁は極めて高いです。
国の思想のリセット、国民全体の総意・努力、保守派の理解、強みの発見、国のIT力向上、などなど。
課題はたくさんありそうです。
ただし、戦後、焼き野原だった日本という国が圧倒的なスピード感で先進国まで上り詰めた日本の底力を再度発揮できればできないことは無いでしょう。
その一旦を担いたいという、気持ちを思い起こさせてくれたエストニアという国に、感謝を込めて終わりたいと思います。
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