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デイヴィスの語る「積極的にSNSを活用する理由や、彼なりの恩返し、人種差別との戦い」

—— 以下、翻訳 (米国『CNN』インタビュー記事全文)

アルフォンソ・デイヴィスは、20歳ながら波乱に満ちた人生を送ってきた。

両親が内戦を逃れた難民である、このバイエルン・ミュンヘン所属の選手は、多くの選手がキャリアの中で夢見る以上の数のトロフィーをすでに手にしてきた。

しかしながら、デイヴィスの関心はピッチ上でサッカーファンを楽しませることにとどまらない。彼はTikTokでも多くのファンを獲得しているが、「見てくれた人たちを笑顔にしたい」という思いで投稿しているのだという。

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『CNN スポーツ』のアマンダ・デイヴィス記者に対して、彼は「動画やTikTokを作るなら、自分自身がコンテンツを楽しめなければならないんだ」と語る。

サッカー以外の人生

ファンは明らかに、デイヴィスの風刺的なユーモアを楽しんでいる。

昨年は、米国の人気テレビコメディ『ブルックリン・ナイン-ナイン』の警察官の整列シーンを口パクで再現してみせた動画が話題となった。彼は、アンディ・サムバーグ演じるニューヨークの警官ジェイク・ペラルタ、目撃者、そして容疑者の一人一人をバックストリート・ボーイズの『I Want It That Way』の音楽に合わせて演じたのだ。

この時の演技は技術的には難しかったものの、彼がこれまでに制作した動画の中で最も気に入っていると語る。

デイヴィスは、ロックダウンを経てTikTokのスターとなり、400万人以上のフォロワーにコンテンツを投稿しているのだ。

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「衣装を変えたり、言い直したりしたので、45分くらいかかったよ」と言う。「動画制作は楽しかったね。あの動画は、多くの良い評価をもらったんだ」。

彼は、プレーでの成績やユーモアのセンスなどに関わらず、視聴者を楽しませるコンテンツを発信していきたいと考えている。「僕を忙しくさせるね。これは、サッカー選手としてのアルフォンソ・デイヴィスだけでなく、アルフォンソ・デイヴィスという人となりを示すものでもあるんだ。」

「視聴者には、僕がサッカー以外の過ごし方もあることを分かってもらえるだろう。」

ヘイトとの戦い

しかし、デイヴィスは、ファンとつながりを与えてくれるSNSを楽しむ一方で、彼自身、スポットライトを浴びる黒人であるがゆえの恐ろしさも経験している。

2020年12月には、恋人であり、パリ・サンジェルマン所属FWのジョーディン・ウイテマとともに、同年8月にイビサ島で休暇を過ごす写真をアップしたところ、2人は人種差別的な侮辱的な発言を受けたことを明かした。

バイエルンの会長であるヘルベルト・ハイナー氏は、この時、このカップルを擁護している。

「私たちの世界には、いかなる形の排他や差別、ヘイト、暴力に居場所はない。たとえどこの出身であろうと、サッカーは私たちにホームを与えてくれるのだ」とドイツの新聞「ビルト」紙に語っている。

「サッカーには人と人とをつなぐ力がある。FCバイエルンとして、私たちは常にこれに貢献したいと考えている」と、ハイナー氏は付け加えた。

デイヴィスは、いまだヘイトコメントを受けているというが、それでも彼は臆しない。「世の中には嫌う人も多くいるし、決してみんなが愛してくれるわけではないよ」と彼は言う。「だが、僕は良い人たちに囲まれて育った。(中略)...彼らが僕の心を強くしてくれたんだ。」

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「醜いことを言う人もいるが、ただ画面の向こうでタイプしているだけだとわかっている。だから、僕には何の影響もないさ。」

ネット上での人種差別的な言動を撲滅することは、スポーツ界の運営組織がまだ手を付けられていない分野だ。

イングランドサッカー界の主要関係者がこの問題の撲滅に向けてソーシャルメディアのボイコットに参加してから、わずか数週間後に、マンチェスター・ユナイテッドのFWマーカス・ラッシュフォードは、ヨーロッパリーグ決勝のビジャレアル戦で敗れた後、人種差別的なヘイトコメントの標的となった。

「ヨーロッパリーグ決勝戦の後、マーカス・ラッシュフォードに起きたことは、見ていて痛々しいものだった」とデイヴィスは言う。「僕たちはサッカー選手であるとはいえ、同じ人間でもあるんだ。呼吸し、睡眠を取り、食事をする。他の人々と同じようにね。」

「こうしたヘイトを受ける選手は、それにうまく対処していると思う。(中略)...それでも、見ていて決して簡単なものではない。非常に難しいね。」

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「僕は小さい頃から、人は何に対しても異なる考えや、異なる意見を持っているものだと知っていた。」

「自分自身に誠実であり続ければ、そういったことに左右されることはないと思う。」

恩返し

6月に、彼は最新のデジタルトレンドに乗って、初めてNFT(非代替性トークン)のコレクションを発表した。

このデジタルコレクションの中には、米国のイラストレーター、ジャック・パーキンス氏が手掛けた3つのユニークなバーチャルアートも含まれる。それぞれのデザインを発表する前に、デイヴィスはオンライン上でフォロワーを集めてソーシャルキャンペーンを実施し、ファンがコレクションの各デザインに投票できるようにした。

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このキャンペーンで選ばれた3名の受賞者には、限定仕様のNFTが贈られるほか、1名はデイヴィスと会い、サイン入りのUEFAチャンピオンズリーグ優勝ユニフォームがもらえるという特典付きの「ゴールデンチケット」が贈られる。

世界最大級の暗号通貨取引所である『バイナンス』が、これらのNFTを保有し、NFTマーケットプレイスで取引を行う。

「今回、数々のアーティストにとって、自身の作品を披露する良い機会となった。デジタルアートは、これまでと何か違うものだと思う。(中略)...こうした取り組みに関わるのは、クールな考えだと思ったんだ。」

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デイヴィスは、デジタルアートと暗号通貨の世界に足を踏み入れたが、これには正当な理由がある。寄付金の20%は、パレスチナ人を支援する複数の慈善団体に寄付されるのだ。

「あの国の人たちのことは、気にかかっていた。現状を目の当たりにして、彼らを支援しようと即決した」。そう彼は語る。

「そこで起こるあらゆることに関して、誰もが尊重され、(中略)...尊厳を持って扱われるべきだと思う。」

世界中の避難民を支援するという活動は、彼が深く関わる問題だ。この20歳の若者は、カナダサッカー界の顔となるかもしれないが、彼の生い立ちは貧相なものだった。デイヴィスは、内戦から逃れてきたリベリア人の両親のもと、ガーナの難民キャンプで生まれた。

「難民キャンプでは、人々が僕たちを助けてくれた。僕はただ、彼らに恩返しをしたいだけなんだ」と彼は言う。「そうすべきだと思っているよ。」

カナダへの移住

デイヴィスは5歳のとき、両親とともにガーナのブドゥブラム難民キャンプを離れ、カナダのエドモントンで新たな生活を始めた。

「カナダに来て、両親はガーナにいたときの話をしてくれた。悲しいことや、大変な思い、辛かった出来事などだ。こういう話を聞いて育った僕は、家族により良い暮らしをさせてあげたいと思っているんだ。」

彼の母も父も、生活のために長時間働いた。デイヴィス自身も2人の弟たちの面倒を見ながら、マザーテレサ・カトリック・スクールに通った。彼の才能が初めて見出されたのは、その在学中だった。

その後、セント・ニコラス・サッカー・アカデミーに入り、14歳のときにはバンクーバー・ホワイトキャップスの研修プログラムに登録された。この育成制度を経て、彼は2000年代生まれの選手として初めてMLSでプレーすることになった。

翌年、デイヴィスはカナダ国籍を取得。同年に初めて代表チームに召集され、カナダの男子サッカー史上最年少選手となった。

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デイヴィスは、2017年のCONCACAFゴールドカップで大会得点王としてゴールデンブーツを獲得し、同大会で最も有望な若手選手としてヤングプレーヤー賞も受賞した。

ガーナでの生活の思い出はあまり多くはないものの、これまでを振り返ると、両親の自己犠牲が彼の野心や目的意識を焚き付けているのだという。「この物語は、僕の一部なんだ。振り返ってみると、これまでの成功は信じられないし、素晴らしいことだったね。」

「彼ら(両親)が家族の自由を手にするために、どれほど苦労したかを覚えている。僕がピッチに立つたび、それは両親のためになるはずさ。」

バイエルンで早々と成功

2018年1月の移籍市場でバイエルンに加入して以来、デイヴィスはこのクラブで驚異的な成功を収めている。

これまで3度のブンデスリーガ優勝、2020年には自身初のチャンピオンズリーグ制覇など、ハンジ・フリック監督とともに12カ月の間に6つのトロフィーを掲げてきた。

だが、彼がこのクラブに足を踏み入れたとき、彼はその先発メンバーの伝説的な顔ぶれや、民俗的なクラブの歴史に圧倒されたのだった。

ロッカールームに初めて入り、壁に貼られた新たなチームメイトたちの写真を見たときのことを、「信じられない」経験だったと語る。

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「言葉ではうまく説明できないね。(中略)...心の中では、これが本物の人間だなんてありえないと思っていた。そしてロッベンが部屋に入ってきたとき、それは漫画ではなく本物の人間だったんだ。」

「握手をして彼は自己紹介をしてくれたが、とても礼儀正しく、謙虚な人で、驚いたよ」そう付け加えた。「僕がこれまで成し遂げてきたすべては驚くべきものだった。(中略)...自分にチャンスが回ってきたとき、僕は自分に言い聞かせたんだ。『このチャンスを活かせ』とね。そして、うまく活かすことができた。」

彼は特に、元チームメイトのダビド・アラバを尊敬している。バイエルンのクラブで10年以上活躍した後、レアル・マドリードに移籍した選手だ。「ダビド・アラバに会ってとても興奮したよ。僕らが小さかった頃、地元の子供たちのほとんどにとって、彼は間違いなくお手本の選手だったからね。」

「将来に向けてワクワクしている」

元RBライプツィヒのユリアン・ナーゲルスマン監督が新シーズン、フリックの後任としてクラブの監督に就任することが決まり、デイヴィスは、新たな変化の訪れに気を引き締めている。

「僕らは彼が優れた監督であることを知っている。彼には新たなアイデア、新たなプレースタイルがあるからね」と語る。「監督の世界ではまだ若いということはわかっているが、それは問題にはならない。(中略)...彼が来れば、クラブにその知恵や知識を持ち込んでくれるだろう。」

指揮官が変わっても、デイヴィスの野心は変わらない。2022年には、チャンピオンズリーグ制覇を含め、1シーズンで6つのトロフィーを手にすることを目指しているという。

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「2022年は、チャンピオンズリーグで優勝し、1シーズンで6つのトロフィーを獲得するというのが目標だ。本当に難しいことだと思う。でも、このチームなら、再び実現できると感じているんだ。」

「僕のバイエルンでの時代は終わっていない。まだまだ何年もあるし、勝ち取るべきトロフィーもたくさんあるから、将来に向けてワクワクしているんだ。」

ゴールドカップに向けたカナダ代表チームへ合流中に左足首を負傷して以降、バイエルンは7月、デイヴィスはしばらく「チームを離脱」し、ミュンヘンでリハビリを行うことを発表した。

その後、デイヴィスは無事にトレーニングへ復帰。バイエルンのブンデスリーガ初戦は、8月13日(金)のボルシア・メンヘングラッドバッハ戦だ。

▼元記事
https://edition.cnn.com/2021/08/10/football/alphonso-davies-profile-bayern-munich-spt-intl/index.html



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