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”なんか落ち着く”の”なんか”とは何か


「大将!いつもの!」
「あいよ!」


こうした行きつけのお店を持つことは意外にも憧れだったりする。

そのお店の料理が好きな方もいれば、お店のつくりそのものが好きな方もいるだろう。はたまた、大将(マスター)に会いたくて通っている方もいるのかもしれない。


なぜ私たちは、そのお店に通ってしまうのか。


こうした”行きつけのお店”の話をすると、たいてい友人から
「そのお店のどういう所が良いの?」
と聞かれる。


お店の良さを言葉にして伝えることは非常に難しい。入った時の”いらっしゃいませ”の声、店内の香り、年季の入ったグラス、気さくなマスターetc…あげたらキリがない。


結局、すべてを総じて
「うーん、、、なんか落ち着くからかな。」と
すごく曖昧な回答をしてしまう。




――――”なんか落ち着く”って何だろう。



今日は、行きつけのお店で感じる”落ち着く”ということについて少々考えてみたい。


”落ち着く”とは何か


”落ち着く”という言葉を辞書で調べてみると、

おち つ・く [0] 【落(ち)着く】
一 ( 動カ五[四] )
①動揺が静まり,安定した状態になる。 「気持ちが-・く」 
②住居・職業・地位などが定まり安定する。  「結婚してすっかり-・く」
③決まりがつく。(議論が)結論に達する。落着する。 
④人の態度や言動が穏やかで冷静である。 「 - ・いた人」
⑤周囲のものと調和して,こちらの気分が休まる。安心して見ていられるようになる。 「 - ・いた雰囲気」 
⑥落ちて下に着く。           Weblio辞書より


という言葉が出てくる。

①によると、どうも”落ち着く”とは、動揺が静まり、安定した状態になることらしい。安定した状態に【なる】だから、私たちが”落ちつく”と感じるその直前は、もともと動揺している、気持ちが不安定な状態であった、ということだろうか。


確かに自身の経験と照らし合わせてみると、行きつけのお店(私の場合はBarです)に向かうのは、気持ちが落ち込んでいたり、疲れていたりしているような気がする。

自分では、落ち込んでいるとか、元気がないとか、そういう感覚は持っていない、いや、考える余裕がないだけなのかもしれないが、そのお店に行くと、”今日の仕事が終わった”という何とも言えない実感を得ることができる。


ただ1つ言えるのは、お店を出るときには、なんとなく気持ちが明るくなった気がするということ。


その原因は、「⑤周囲のものと調和して,こちらの気分が休まる。安心して見ていられるようになる。」 にあると思う。行きつけのお店においては、”調和して”というより、お店に”溶け込んで”って言ったほうがわかりやすいような気もするが。


いずれにしても、私たちがお店で”落ち着く”と感じるのは、

お店で”落ち着く”とは
気持ちが落ち込んでいたり、疲れていたり、動揺をしている時にお店に溶け込んで、心の安定を保つこと。

と理解できそうだ。


”なんか落ち着く”の”なんか”とは雰囲気


では私たちは”行きつけのお店”の何に溶け込んで、”落ち着く”という感覚を得られているのだろうか。すごくあいまいな言い方になってしまうが、それは、そのお店の雰囲気だと思う。しかも、ただ雰囲気が良いだけではなく、その雰囲気がずっと変わらない、ということだと思う。


そのお店が醸し出す独特の雰囲気

雰囲気について、ハード面から考えてみると、カウンターや、ソファ、照明の明るさ、色、BGM、置物など、そのお店のつくりに魅力を感じることもあるかもしれない。


しかし、そのお店のソファがたとえIKEAで購入されていても、この落ち着くという感覚は、そのお店でしか味わう事ができない。無論、そのマスターや店主のことが気に入って通っているならばなおさらである。


ここで言いたいのは、雰囲気とは、そのモノや店内のつくりそれぞれが独立している訳ではなく、それぞれが複層的に絡まり合いながら、形作っているということ。当たり前のことだけど、これは、私がこれまで述べているたまり場的な考え方で、その場でしか醸し出すことがでない。

だから、たとえ行きつけのお店がスターバックスコーヒーだとしても、特定の店舗以外では”落ち着く”ことができない。こうしたお店独特の雰囲気に溶け込むことで心が調律され”落ち着いて”いるのだと思う。


雰囲気が”変わらない”という安心感

昨今は”変化する”ということが当たり前の世の中になってきている。こうした波に私たちも乗っていて、個人レベルでの成長や変化が求められている訳だけれど、私たちがそのお店で”落ち着く”と感じることができるのは、そのお店の雰囲気が”変わらない”からだと思う。


先日、愛媛に行った際、ふらっと入ったBarがあった。

店内には薄暗く、気品漂うジャズが流れている。もはや誰のキープかわからないようなボトルがたくさん並んであって、まさしく昭和チックなお店だった。お店のロゴから察するに創業は1980年のようだ。カウンターには、60代くらいの常連さんらしき人が1人いたので、私も横に座って1人で飲むことにした。

しばらくすると、8人くらいのサラリーマンが集団で入ってきた。そうも職場の飲み会帰りらしい。その集団は結構酔っていて、店内には大きな笑い声が響いており、一気にガヤガヤとしたお店になった。


しばらく飲んでいると、隣の常連さんは居心地が悪くなってしまったのだろう、マスターに気を遣うように

「今日は違う雰囲気だから、これくらいで帰るね。」

とスマートに会計を済ませて出て行ってしまった。

変化を楽しむことができる人は、お店の客層が変わっても、店内が変わっても気にせず楽しむことができる。もっといえば、毎回違うお店に行って新しいお店を開拓する人もいると思う。これを全く否定する気はないけれど、私たちはどこか”変わらない”からこそ安心して身を委ねることができるという側面も持ちあわせていると思う。


だから、私たちが行きつけのお店で”落ち着く”と感じるのは、

行きつけのお店で”落ち着く”のはなぜか
いつ行っても変わらない店内の雰囲気に”溶け込む”ことで、自分の心を調律(リセット)することができるから。

と理解することができるかもしれない。


まとめ

今日は、落ち着く、ということについて考えてみました。

行きつけのお店で”落ち着く”のは
いつ行っても変わらない店内の雰囲気に”溶け込む”ことで、自分の心を調律(リセット)することができるから。


ということは、
お店を経営する側に立った時、一度つくりだした雰囲気さえ変えなければ、必ず常連さんは生まれる、ということになります。当然、料理をおいしくするとか、そういった企業努力は必要だけど。


世の中では、常に変化が求められていて、私も成長しなければという危機感にかられるけれど、成長の正解なんて誰もわからない。もしかしたら誤った方向に進んでいるかもしれない。そんな正しい方向に進んでいるかわからなくなった時、”今の俺って大丈夫だよな?”と、ちょっとだけ立ち止まって考える時間を与えてくれるのが、行きつけのお店で”落ち着く”ゆえんなのかな、と思う。


長くなったので、この辺で。次はBGMとか照明とかそういった所も踏まえて考えてみたい。


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