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第1期コモンズプロジェクトのまとめ

プロジェクト実施の背景

コロナ禍で浮き彫りになった自助と公助の分断を克服するには共助(コミュニティ)がHUB(仲介)・CORE(中核)になる必要があります。ただし、一つひとつのコミュニティの力は小さいですし、大きな責任を負わせてしまうと崩壊してしまいます。コミュニティ同士が緩やかに連携することで大きな力になります。

共助がHUB・COREになる時代

コミュニティは強制されるものでなく、主体的な活動体です。Will(やりたいこと)・Must(期待されていること)を原動力に活動するものの、Can(できること)が十分に伴わないケースが多いです。思いが強く、限られた人員や時間という制約下で活動するためにすべて自前で対応しようとする結果、Canが増えないのが実態です。高みを目指そうと一人で背伸びをしても、背伸びしていない状態との差は微々たるものです。誰かと協力して肩車すれば、背伸びしても届かなかった位置を遥に超える所まで辿り着きます。

このような考えから各コミュニティが持つノウハウをコモンズ(共有財)にすることで、個々のコミュニティのアウトプットを増やすと同時に、コミュニティ全体でより大きなインパクトを生み出すことを目的に1年間限定(2022年1月~2023年1月)でコモンズプロジェクトを立ち上げました。

WillやMustを叶えるためにCanを増やす


2つのプレイベント

コミュニティ運営のノウハウのコモンズ化

私が仲間と一緒に企画運営しているソーシャル系大学「こすぎの大学」では、運営を通じて培ったノウハウを2015年度から毎年公開しています。初年度は19個だったノウハウも少しずつ積み重ねた結果、2021年度には46個になりました。参加者が主体的になるために無料でなくワインコイン制にする、お互いにニックネームで呼び合うというレベルのノウハウでありながらもコミュニティ運営にあたっては重要だと捉え、今後、コミュニティを立ち上げたいと考えている人たちに少しでも貢献するためにWEBで公開しています。

2021年7月・8月にコミュニティ運営のノウハウを共有するイベントを開催し、30団体の運営者が参加しました。こすぎの大学とは異なるノウハウが集まり、コミュニティの多様性を実感しました。印象的だったのは「解決しません宣言」。困り事の解決を期待して参加する人たちに、最初に「ここでは誰も何も解決してくれませんよ」と伝えることで参加者の主体性を引き出すと共にコミュニティ運営側の負担も軽減するとのこと。このような30のノウハウが集まり、現在、WEBで公開しています。

未来に向けたコモニングとコモンズ

コモンズプロジェクトのスタートに先立ち、2021年11月、共感資本主義の実現を目指す株式会社eumoの共同代表 新井和宏氏・岩波直樹氏・武井浩三氏、NPO法人チャリティーサンタ 代表理事 清輔夏輝氏、CRファクトリー 呉哲煥氏・卜部眞規子氏、こすぎの大学 岡本克彦によるトークイベントを開催。日本社会でコミュニティやつながりが失われている中、共同性の再編が急務であり、コモンズに加えて、コモニング(合意形成)が切り口になるとの意見がありました。


コモンズプロジェクト始動

コモンズプロジェクトの年間計画

2つのプレイベントを経て2022年1月に「第1期コモンズプロジェクト」が始動しました。隔月でミーティングを兼ねた公開イベントを実施。対話を通じて参加者とコモニング(合意形成)しながらプロジェクトを進めていきました。

2022年1月 キックオフ
2022年3月 プロジェクトのビジョンと活動計画の立案
2022年5月 しくじり共有のプレイベント
2022年7月 しくじり共有大会
2022年10月 しくじり(問題)の解決策を他者目線で考える
2022年12月 しくじり(問題)と解決策を川柳やボードゲームなどで表現する
2023年1月 成果発表会

欲しいのはノウハウでなく、悩みや問題を共有できる相手

プロジェクト開始早々に前提を覆す大きな気づきがありました。コミュニティ運営のノウハウをコモンズにしてコミュニティ運営者の負担を軽減してCanを増やすことを目指していましたが、求められていたのは実利的な負担軽減に加えて心理的な負担軽減でした。悩みや問題を打ち明けられずに一人で抱え込んでしまっている方が多く、そのような状況で上から目線でノウハウを提供しても受け入れてもらえないことに気づきました。

コミュニティ運営のコモンズは2種類


コモンズプロジェクトのミッション・ビジョン・バリュー

プロジェクトを進めるにあたってミッション・ビジョン・バリューも定め、活動目的を見失いがちになりそうな時に振り返っていました。上述した悩みや問題の共有を大切にしたいという考えはビジョンの「全ての人の孤独を解消」という部分で表現しています。

VISION(目標/展望)
コミュニティ運営に関わる全ての人の孤独を解消して自コミュニティ肯定感に満ち溢れた共生社会の実現。
MISSION(使命)
コミュニティ運営の悩みや暗黙知を共有して、コミュニティに関わる全ての人の心理的安全性を確保する。
VALUES(価値観/提供価値)
コミュニティに関わる全ての人に以下の価値を提供します。
・コミュニティ運営の悩み(しくじり)を語り合って分かち合う場を提供し、心理的負担を軽減します。
・コミュニティ運営の悩み(しくじり)を共体験・追体験する機会を提供して解決策を共創します。
・コミュニティ運営の悩みや解決策を言語化・可視化して共有知にすることでコミュニティの全体価値を向上します。

しくじり共有イベント

悩みや問題を打ち明ける相手がほしいものの、それを打ち明けるには勇気が必要です。そのため、プロジェクトでは悩みや問題を親しみやすく「しくじり」と表現すると共に、しくじり共有のグランドルールを策定しました。

1)プレゼンテーション時間:10分+フィードバック:20分
2)評価:各5点、合計20点
【あるある度】同様の経験がある、【勇気度】よくぞ告白してくれた、【面倒度】こじれ度合いステキ、【感銘度】涙がこみ上げる
3)プレゼンテーション後にチャットにフィードバックを記入
感想とお礼、あるあるポイント、解決策のヒント

しくじり共有イベントのグランドルール

ポイントが2つあります。一つは、評価はしくじりを聞いた人が自分の気持ちを整理するための参考であり、しくじりの優劣をつけるものではないということ。もう一つは、悩みにはアドバイス(解決策)でなく、類似した経験や感想をフィードバックするということ。傾聴することで相手の心理的負担を緩和することを忘れないということです。

2022年5月・7月のしくじり共有イベントを通じて4名がしくじりを発表。センシティブな内容が含まれるので内容は公開できませんが、参加者からは「“胸に射抜かれた矢を花束で返す”という言葉を思い出した。しくじりを花束に変えるのがしくじり共有の本質だと感じた」「失敗や挫折は人間を成長させる。成長につながらない経験はない」「しくじりを語ることは、経験を成仏させて学びに昇華させること」「Noアクション、Noしくじり」などの感想が寄せられ、しくじり共有は過去を肯定的に受け止めて未来に向けて一歩踏み出す勇気につながることを導出しました。


コモンズプロジェクトの成果

コミュニティ運営のウェディングケーキモデルと成功の循環モデル

SDGs(Sustainable Development Goals)は17の目標で構成されます。環境が対象であると思われがちですが、17の目標を構造化したウェディングケーキモデルを見ると、環境がベースにあり、社会・経済・人も対象であることがわかります。ウェディングケーキモデルに照らし合わせることで、コミュニティ運営で大切なことを可視化・構造化できました。コミュニティ運営者の心理的安全性を確保する「しくじり共有できる環境」がベースにあり、その上で「しくじりの共有」や「解決策の共有」がされることで「自コミュニティ肯定感を抱いた持続的な活動」がされ、コミュニティがUPDATEされ続けるということです。

コミュニティ運営のウェディングケーキモデル

この構造はダニエル・キム氏が提唱する成功の循環モデルにも通じる考えであることに気づきました。起点の「関係の質」が高まることで「思考の質」「行動の質」が高まる結果、「結果の質」が向上し、さらに関係性の質が向上する。コミュニティ運営においても起点を「しくじりを共有できる環境」を構築することで「しくじりの共有」「解決策の向上」がされて「自コミュニティ肯定感を抱いた持続的な活動」がされる。その結果、コミュニティの質が高まって、さらに「しくじりを共有する環境」が良いものになっていきます。しくじりを共有できる環境がなく、しくじりを共有できないまま一人で悩みや問題を抱え続けると同様の失敗を繰り返し、コミュニティ運営のモチベーションが低下して、コミュニティっぽくない会社のような成果主義の文化が醸成されて、失敗を恐れてさらに悩みや失敗を一人で抱えてしまうという負の循環に陥ることになります。

コミュニティ運営の成功の循環モデル

コミュニティ運営のコモンズ(共有財)のツール化

1年間のプロジェクトを通じて得られたしくじり共有の方法や30の解決策(ノウハウ)などをコモンズにして、より多くの方々に利活用してもらうためにはわかりやすく楽しいツールにすることが必要だと考え、プロジェクトの成果としてスゴロク形式のボードゲーム「しくじりコモンズラボ」を作成しました。特定のマス目に止まると「語るカルタ」を引いて、コミュニティ活動を通じて「感動したこと」「(参加の)きっかけ」「(自慢したい)仲間」「しくじり体験」などを語ります。一緒にプレイする相手が語る人の気持ちに寄り添って傾聴して感想を伝えると共に感謝のコイン(ハート・涙・拍手)をギフトします。また、ゲームの勝敗は「主客融合カード」で決めます。一番ポイントを獲得した「ポイント賞」、一番ハートのコインを集めた「ハートフル賞」、手持ちのコインが一番少ない「ギフト賞」など、コミュニティへの貢献方法も多種多様であり、誰に対しても感謝の気持ちを忘れない仕掛けを盛り込みました。

しくじりコモンズラボゲーム
しくじりコモンズラボゲームで使うカード(一部)

さいごに

コミュニティは生態系です。なので、今回のプロジェクトを通じてアウトプットしコミュニティは生態系です。なので、今回のプロジェクトを通じてアウトプットしたコモンズが今後も効果的であるとは約束できません。コミュニティの進化と共に新しいコモンズをコモニングしながらUPDATEし続けていくことが必要です。第1期コモンズプロジェクトは10名の事務局メンバー、そして、イベント参加者の方々と共に完走しました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

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