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菅俊一展 ギャラリートーク 後編



こんにちは。杞憂です。

前記事に続き、菅俊一展「正しくは、想像するしかない。」盛りだくさんのギャラリートークのメモを記していきます。前記事は以下よりご覧ください。


動きの解像度

*1

コマ撮りは15fpsで作ることが殆ど。(fps=1秒間のコマ数)10fpsだとクラフト感のあるカタカタした動きになるし、30fpsだと割とぬるぬる動いて、想像する余地がなくなってしまうので15fpsがベストだと思っているし、15fpsまでならかなり鮮明に脳内再生できるようになった。(岡崎)


脳内でコマ再生できるというのは、映像を作る上でとても重要なことだと、大学時代に佐藤雅彦先生からよく言われた。15fpsが良いというのは、その少し欠けたコマの中を想像させること=脳を刺激することになっているからでは。(菅)


「想像される映像」が美しいとは?

*2


例えば、水が溢れる直前の表面張力を表現するとして。それを具象で精巧に表現して見せるより、削ぎ落として、頭の中で想像させた方がノイズがない。脳内再生に近いから、経験の中の現象を引き出す試みをしている感覚。

ただ、それを自由に想像させるのは難しいのでフックは必要。シンプルに表現しているけれど、実は誘導に関しては細かくコントロールをしている。そこが僕にとっての精密作業。(菅)

例えばミロのヴィーナスは手が欠けているけれど、鑑賞者は「美しいであろう欠けた部分の手」を勝手に想像する。美しいであろう、という願いの元の想像。一方、視線のような人間の本能に備わっている想像がある。本展では両方を引き出されていると感じる。

デザイナーは想像させるスイッチを色々なところに仕掛けていて、パッケージだったら美味しそうと思わせる、箱を開く時に特別と思わせる、など。菅さんの「想像させる試み」はデザインの根元でもあるのではないか。(岡本)


デザイン研究としての側面


デザインの研究と実際の現場でのデザインって、交わることがない。デザイン研究はデザイン業界外の人にも分かるように発表していかないと、発展していかないのではないか?そういった側面も考えつつ作品を作っている。

赤ちゃんのおもちゃメーカーに勤めていた菅。
感覚細胞は赤ちゃんと大人で変わらない。変わるのは、バイパスができてくるということ。情報と情報が繋がって、アクセスが可能になると共に、そのアクセス方法に縛られることもある。つまり固定観念も出来上がる。対象の年齢によってデザインは変わらないけど、チューニングは違ってくる。


「想像させる」という試み

*3

                  
水が溢れた様子を実際見たり、想像したとしても何も面白くないけど、それを菅さんの作品で見せられるとなんでこんなに気持ちいいんだろう。(岡崎)

脳を使っているか否か?かもしれない。「こうなるだろうな」という想像をしていることが面白い。水が溢れた様子を実際に見たとしても何も脳を使わないけれど、想像することで脳が活性化している。

だけど、それと「面倒臭い」も、表裏一体。この「想像」の行為が気持ちいいと感じるか、面倒だと感じるかはすれすれのラインで。自分の作品はずっと流しっぱなしで繰り返し見て、微調整をする。


如何に好きなことを見つけるかが鍵



探すのが大好きな三者。自分のテーマに紐付くものを、日常の中で常に探している。
服好きの人は街ですれ違う人の服を見るし、岡本さんだったら看板のグラフィックに目がいく。菅さんは人の工夫の痕跡を見てしまう。

なんでこんなところにこれを置いているんだろう?を解析・トレースするのがすごく心地よい。言葉って遅いから。見て、直感で、最後はジャンプして感じることをとても大切にしている。ただ、ロジックも用意していて。説明できないと、共感を得られないこともあるから。

自分が思いつくルートと違うルートは常に存在している。それは全く違うもの、というわけではなく、自分たちが知っているものの違う組み合わせで、そのルートは存在している。それはすごく自分にとってトレーニングになると思っている。自分の道具、武器はただ引き出しに持っているだけでなく、いろんな組み合わせがあるといい。

今はiphoneで調べればすぐ出てくるし、便利になっている世の中だから、想像する力は落ちてきているように感じる。簡単な方に人間は流れてしまう傾向にあるけれど、与えられて楽な喜びよりも少し頑張って得たものの方が何倍も価値がある。
自分で作って自分で発見した時は本当に楽しい。作り手って一番楽しいかもしれない。


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以上、豪華3者による鼎談でした。デザインに携わる身として考えさせられる内容が盛り沢山で、非常に勉強になりました。

菅さんの「想像させる」というテーマを元にした著書もとても面白いので、以下紹介させていただきます。最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


杞憂








*1 デザインあ 解散! *2 小さな展覧会 差分 *3 CLUMSY COASTER クラムジー コースターby ATYPYK アティピック より引用

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