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「もがく女の出版ヒストリー」平積みの夢を叶えるために~第1話

あらすじ
「物を書く仕事がしたい。文章を通じて悩める人に元気や勇気を与えることができたら」……。アラフォーにもなってまさかの大失恋。心の傷を追った主人公・美佐子は自分の恋の痛手を題材に恋愛物語を書き上げる。しかし出版はいばらの道。著名人や業界人ならともかく、ネームバリューのない不特定多数の人間にはハードルが高い。一体どうしたら自分の作品をこの世に送り出せるのか?どうしたら平積みが叶うのか?業界にコネも人脈もない主人公・美佐子は悩んだあげく出版社に原稿を持ち込む。夢を叶えるためにもがき続けるそんな女の出版ヒストリー。

目次
第1話:突然の別れ
第2話:人には文章にしないと伝えられないことがある」
第3話:出版社へ乗り込む
第4話:厳しい現実
第5話:厳しい現実・後編
第6話:書籍完成
第7話:著者の禁止事項
第8話:書店の事情
第9話:夢の平積み

第1話:突然の別れ

恋がこれほど人を変えるとは思わなかった。
酒でもないのにこんなに人を酔わせるものとも思わなかった。
しかし、酒なら朝になれば抜け落ちる。

が、恋は一晩寝ても抜けやしない!

相手への思いを寝て忘れることができたらどんな楽であろうか……。

恋は人を翻弄させる。嫉妬、不安、憎しみをわかせる。人を惨めにさせ、そして脆くさせる。

“恋愛”は人間のあらゆる感情を引き出すもの。

恋がこれほど自分を振り回すものとは思いもよらなかった。
それまでの常識も知識も、すべて覆すくらいの破壊力を持っていた。

いい意味でも悪い意味でも、
この恋がこの先の人生に影響を与えるものとなるなんて知るよしもなかったけれど……。

わたしはあのとき恋に夢中になった。
しかも、その恋はあっけなく終わった。

あっけなく終わったくせして、失恋の傷跡はデカかった。

その別れは一方的なものであり、理由も告げてもらえず
彼はわたしの前から姿を消したからだ。

何も手につかず、いなくなった彼のことを四六時中考え
そして、激しく後悔した。

後悔の堂々巡りする女など“大嫌い”だったはずのに
自分はその大嫌いなことを何度もやっていた。

「彼はわたしの何が気に入らなかったの?」
「あのときのあの言葉が、もしかしたらいけなかったの?」
「もっと違う言い方をすればよかったのかしら」
「あの日のことが原因なのかしら?」
「あの日ほんの少しでも会ってさえいたらこんなことにならなかったのかも」
と、タラレバを繰り返す。

好きな相手を手離すことになるのなら、恋を失うことになると予め分かっていたら違う行動をとったのに……。

わたしは自分自身を責め呪う。

こんな別れ方ははじめてだった。
それまで幾度も恋をしてきたし別れも経験してきた。
自分が相手への気持ち(もしくは自分への気持ち)が無くなってしまえば仕方のないこと。
別れ話をどちらかが切り出すことができれば
そのとき苦しい思いをしても、別れることは形の上では可能だ。

しかし今回は勝手がまるで違う。

別れたい理由は分からず、
相手の真意も分からず、
何も言われず、
恋の幕は降りたのだから……。

女というのは付き合いながら“なんとな~く感じるもの”がある。
「最近、なんか違うよな」とか、
「ホントにこの人でいいのかな」とか……。

ふたり一緒にいても虚しさを覚えるようになると別れはもうそこまで来てるものだ。

そんな“別れの予兆”があれば心構えはできる。
よほど空気が読めない人間じゃない限り、女には”別れの空気”は読めるはずだ。

しかしラブラブな状態、つまり盛り上がってる最中で
いきなり一方的に切られるというのは狐につままれるようなもの。

「いきなり姿をくらます」という相手の去り方には
誰でもうろたえるはずだ。

またこの予期しなかった出来事に
自分を自分でどうしたらいいのか?自分自身をどう扱えばいいのか?
対処不能……。自分を立て直す方法もわからない。

残ったのは消化不良の恋心。
何週間もため息をついて過ごしながら
「いや、まだキチンと別れたわけじゃない」という僅かな希望から連絡を待ってしまう。

連絡がない、連絡がつかない
それ自体が「もう終わりだよ」という彼の答えなのに
恋に溺れたバカな女は事実から目をそらしてしまう。

だって、だって、こないだまで、
あんなに仲良くやってたのに納得なんてできるわけがない。
「仕事が忙しいだけかも?」
「一応スマホはつながってるから返事する時間がないだけ」
「嫌っていたらブロックするはずだし……」と、自分の都合のいいように考える。

一緒にすごした時間、彼の愛の言葉をどこかで信じたい。
予期せぬ別れ……それを受け入れるのには時間を要する。

キチンとふってくれたら良かったのに。
「キミとはもう会わない」「キミとは遊びだった…」
なんでもよかった。
わたしにもう二度と期待させないようドン底につき落としてくれたらいいのに。

別れを告げられてしまえば、自分の気持ちがどうであれその別れを受け入れるしかない。

しかし、彼はわたしに別れを受け入れる機会を与えてくれなかった。
彼は彼の中で勝手に終わらせ、自分だけで完結させた。

彼は完全にわたしを無視した。
別れたのではなく”逃げた”のだ。

「無視する」「放置する」ことは相手を否定する一番ひどいやり方だ。

連絡してもいつでも電話は鳴るだけ。または留守番電話に切り替わる。ずるいよ、ズルすぎる。

わたしはその恋を上手に葬ることもできず
自分の思いの処理ができない。
消したいのに消えない灯火がブスブスと煙をたてていた。

一度でいいからキチンと話をしたい。最後に会って恋を終わらせたい。

このままだと彼と出会ったときにもらった名刺を頼りに相手の会社に乗り込んでいってしまいそうな怖い自分がいた。

いったい、どうしたらいい?

〈続く〉↓「第2話:人には文章にしないと伝えられないことがある」




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