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「もがく女の出版ヒストリー」平積みの夢を叶えるために~第10話

第10話:平積み効果

 わたしの書いた作品が
ついに、ついに
名だたる有名著者と同じ場所に置かれた。
 
胸が熱くなり、感極まってその平積みの前で涙をこぼす。

自分の目で平積みを確認できることは
書き手にとってこの上ない喜びだ!


わたしの本のことはすぐに書店の一階の売り場の社員さんらに広まった。

相手が返事してくれなくとも、地道に挨拶し続け
明るくふるまっていたのも功を奏したのか、
社員さんもだんだん打ち解けてくれるようになってきた。

しかも恋愛小説コーナーの担当者さんが

「積んである本の横にポップを飾ってあげるから、
自分で何か本のキャッチや宣伝を書いてきていいよ」


といってくれたのだ。

や、やったぁ~~!
わたしは早速、平積みの自分の本の脇に掲げるポップを作る。
黒のサインペンで「逃げられる女」と書き
濃いピンクのペンでその文字を縁取り
「あなたもみっともない恋をしたことありますか?」
という文言をかいた。

ハートブレイクを表すため
ハートが敗れた絵文字を周りにちらす。

自前ってとこがいいじゃん。
まさに素人っぽくて(笑)

更にその恋愛小説担当の社員さんは神田美佐子の「逃げられる女」を
平積みされてるところから2冊ほどとり
「ここにも置いちゃおう!」
と言いながら“レジの横”にも置いてくれたのだ。
 
ここは、会計に並ぶお客さんの必ず目に触れるコーナー

そう、この場所はいつもは今月の“話題作”が置かれる場所だ。


有難き幸せ
はは~~恐悦至極に存じまする~。
時代劇なら畳に頭を擦り付けているところだ。
 
一階レジの仕事をしながらわたしは”我が子が飾られている”恋愛コーナーが気になって気になって仕方ない。

あれっ、わたしの本を手に取って見てくれてる女性がいるではないの!

(お、お願い~買って。買って!)心の中で手を合わせる。

おおっ、キターーーッ!
彼女は「逃げられる女」をレジに持ってきた。
興奮マックス。

わたしは自分の本に自分でブックカバーを付けながら
そのお買い上げしてくれた方と
心の中で勝手に熱い~ハグをする。
 
……また別の人がわたしの本を手にとって中を開いている。

が、スグ本を戻した。

(見る目ないわ~この人)と心の中で責める。

しばらくしてわたしの本を元に戻したさっきの人が“別の本”をレジに持ってくる。
(・д・)チッ!

しかも林真理子先生の本じゃないか。

(ベストセラー作家さんは印税できっとセレブな生活を送ってるんだから、ちょっとはわたしに憐れんでくれてもいいのに……)と心の中で恨み節。

それをレジに持ってきた人に無意識に睨みをきかせてしまった。
いかんいかん。

今度はまた別の女性が平積みの棚からわたしの本を手に取り
中身をパラパラとめくっている。

再び表紙についてる帯を見なおしている。
(※帯のキャッチはコレだ→「大人だってみっともない恋をする」)

わたしはまた心のなかで叫ぶ。
(お願い!買って、買ってぇ~~)
レジの会計をしながらその人にテレパシーを送る

(買え!買え!買わないと後悔するぞ~~)念を込める。
 
おおおっ、願いは届いた。
レジに持ってきたぞ~。
この人とは通じるものがあるのね。

も~~なんていい人なのかしらん♡
わたしはとびきりの笑顔で「ありがとうございます!」と対応する。

心を込めて本にカバーを付けてその人に渡すとき
ウルッとしそうになる……。

(この方に幸あれ!!)
 
友達らは好奇心と冷やかし半分コ、
わたしのにわかファンとして書店に偵察しにきた。

平積みされた本の前に立ち
「これって話題の本なんだよね。面白そう!」
などとわざとらしく周りに聞こえるような声で言った。

長いこと店内をウロウロしながら
幾度かその平積みの前で似たようなことを口にし、その行為を繰り返した。

ホントにありがたいが
いかにもわざとらしい。
大根役者すぎる……。
 
それにしてもポップと平積み効果というのはすごい!
 
「書店の店員さんがすすめるこの本!」
「注目度ナンバーワン」とか
「恋に悩める女性たちへ贈る待望の一冊」とか
ポップがあるのとないのでは違う。

その本に対してのリアルな宣伝があるとお客さんは手に取る。

そして、

“場所の威力”は本当にすごい、素晴らしい!


恋愛コーナーのドデカイ棚に1,2冊程度陳列されてたら誰も見向きもしないのにレジの横や有名どころと同じ場所に堂々と平積みされてると誰もが見る。

わたしの本は信じられないことに瞬く間に売れた。


書店の店長はわたしにこういってきた。
「全部売れちゃったよ~また発注しよう!30冊でいいかい?」
 
これまた売れた場合の補充というのは書店の店長の裁量なのである。
書店の店長の権限は偉大だ(笑)
 
……そして1ヶ月後、出版社の管理課から“書店の受注状況”が送られてきた。

1冊の発注のところも多いが、3冊、5冊の書店もある。
三省堂10冊、紀伊国屋10冊、リブロ◯◯15冊、文教堂10冊、TSUTAYA〇〇店……最初の配本は一たった一冊だったのがちゃんと注文されている。有名な書店の名前が連なっている。
広島の紀伊国屋、千葉の三省堂も10冊……
この丸善名古屋支店30冊ってすごい。

完璧に平積みされるじゃないか。
 
……そして出版社から増刷の知らせが届き
図書館にも「逃げられる女」は置かれた。
◯◯区の図書館からは視覚障害者の為に録音依頼がきた。断るわけなどない!もちろん即オッケーした。

読者さんからの感想や手紙が出版社に届いたり、
アマゾンのレビューもあがるようになった。
そのひとつひとつに感激し感動した。

 
<続く> 第11話:物を書くということ~エピローグ

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