【ライブレポ】かぐわしい音、夢の夜。HAUSERソロ初来日公演
4月24日(水)。
チェリスト、HAUSER(ハウザー)さんの公演【HAUSER REBEL WITH A CELLO JAPAN TOUR 2024】(大阪)に行ってきた。
HAUSERさんは高等音楽教育を受けた正統派チェリストでありながら、クラシック領域を飛び出し、ロックやポップスも弾きこなすエンターテイナー。
チェロ界におけるクロスオーバープレイの旗手と言っていい。
チェロデュオ「2CELLOS」で注目を集めたが、解散。今回はソロとして初の日本公演だ。
*
18時。チケットを握りしめ、会場へ。紙チケットを発券したのは、記念に半券を取っておこうとの魂胆からである。
多少暴れてもいいよう、コンサバコーディネートにぺたんこパンプスという装いでキメてきた。
この時点でもうわくわくが動き出していた。
気分が高揚しすぎたため、セットリストに関するわたしの記憶はやや曖昧だ。とくに順番が。
(そのため、曲目の順序が前後していたらすみません)
18時30分すぎ。
しっとり聴かせるクラシカルな曲で始まったかと思いきや、ヒットナンバー『CARUSO』の演奏が始まったところでがらりとムードが変わった。
身をよじらせる美しい白蛇のような、起伏に富んだ旋律が、かすかな艶かしさをのせて耳に届く。興奮がだんだんと、ひたひたと心を満たしていく。
ここですでに感極まって泣きそうだったわたし(早い!)。
だって、HAUSERさんが愛おしそうに弓を動かす様子を見ていると「音楽ってやっぱりいいなあ」と思わずにはいられない。
曲の合間には、HAUSERさんのおちゃめさがちらりとのぞく英語でのトークも。外国人の方による「アリガトウ」の発音、イントネーションはなぜこんなにもわたしたちの心を掴むのか。
ラテンソングをカバーしたアルバム『ザ・プレイヤー』からノリノリなナンバーが続く。ラテンの名曲『Sway』のほか、リッキー・マーティンの『Livin' la Vida Loca』も。
そこへきて2CELLOS時代からの十八番『パイレーツ・オブ・カリビアン 彼こそが海賊』の演奏が始まると、会場のボルテージは最高潮に達した。あちこちから「ヒュー!」の声が飛ぶ。
わたしの耳にくっきりと残っているのは『Shape of My Heart』(スティング)だ。
メロウで色っぽいギターと、深みから練り上げるようなチェロの低音が絡みあうのがたまらなくよかった。
もし音に香りがあるとしたら、HAUSERさんのチェロの音色はきっとかぐわしい香りだ。
あと、忘れたくないのがあの有名なロックナンバー『Livin' on a Prayer』(ボン・ジョヴィ)。
サビへと近づくにつれて場内はさらなる熱気に包まれていき、ふだんしれっと冷めた顔で暮らしているわたしも「ウォーオ! りゔぃんおんあぷれいやー!!」と叫びながら手を振った。
このあたりから観客は総立ちに近かったと記憶している。
こんなファンキーなチェロコンサートがほかにあるだろうか。
公式Instagramの投稿をご覧あれ。ここまで盛り上がれるのが、HAUSERさんの、そしてやはりライブ演奏のいいところだ。サイコー!
バンドメンバーを信頼し、リスペクトしているのがびしばし伝わる雰囲気もまた、ファンにとってのご馳走である。もちろん、バンドメンバーお一人ひとりのソロパートはこのうえなくかっこよかった。
ほんとうにいいもの見せていただいた、と心の底から感謝が湧いてくる。
HAUSERさん、みなさん、ありがとうございました!
*
蛇足を一つ。
日本でのHAUSERさん人気がもっともっと沸騰してしかるべきだと思うわたしは、勝手に【HAUSERさんに弾いてほしい日本の名曲リスト】をつくっている。気持ち悪いのは重々承知のうえである。
まずは、NHK『映像の世紀』のメインテーマ曲だった『パリは燃えているか』(加古隆)なんてどうだろう。ドラマチックで壮大で、すごくいい感じになるはずだと確信している。
*
帰り道も興奮を引きずって……どころか、ほぼ夢見心地だった。
地下鉄の中でパイレーツ・オブ・カリビアンのテーマを口ずさみ続けるコンサバファッションの女。ホラーに近い。
おまけに、タクシーの運転手さんに「今日はハウザーさん観てきたんです」と謎の報告を入れてしまった。
優しい運転手さんは「そうですか、よかったですね」と棒読みで返してくださった。
ああ、家に帰ると現実が待ってるな……、なんて考えながら車外の景色を眺める。夜は着々と更けつつある。
明日あたり、玄関の掃除をしなくちゃ。その前に双子の娘たち(6歳)の洗濯物もたたまないと。彼女たち、すっかり夢の中だろうな……。
そっと自宅のリビングに入り、夕方から娘たちを見ていてくれた夫に感謝を伝えた。
「ただいま! 今日はありがとうね! すごく楽しかった」
「よかった、どういたしまして。そうそう、今、俺とハウザーさんの共通点について考えてたら、あったわ。見てこの髭!」
ここ数日のリモートワークのおかげで伸びた無精髭を指し、なぜか夫はとても嬉しそうである。娘たちはとんでもない寝相で熟睡中。
うん、わたしはやっぱりこの家と家族が大好きだ。
HAUSERさんの生演奏が聴けて、最高の夜だった。あわただしくも穏やかな現実があるからこそ、夢は尊い。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?