【Web小説】『令和の妖怪事情』第3話「妖怪の事情」
妖怪の事情
「おい、新宿にいる人間が目をつけられたらしい!」
「大変だ! 助けに行くぞ!」
妖怪たちがあわただしく動き出した。スネコスリや野狐のほかに見たことがない妖怪もいる。妖怪は単独行動を好むので異様な光景だ。
え? 何が起きたのかって?
知りたいのか?
仕方がないな、妖怪を代表して俺が教えてやるよ。
現在の妖怪は絶滅危惧種のようなものだ。
スネコスリは人間を驚かせたときの感情の起伏を妖力にして存在している。
俺のような妖怪はけっこういて、人間がいないと妖怪は存在を維持できない。それなのに大半の人間は妖怪を認識できなくなった。
人間は変わった。電気の登場や戦争を経験したことで生活が変わったらしい。
むかしの人間は飲み水を得るのにも苦労していた。ところが現在は家に居ながら水が飲めて、外へ稼ぎに行かず機械というものを使って生活の糧を得ている人間もいるという。
人間の生活が便利になると妖怪は急速に消えていった。
俺が眠っている間にたくさんいた仲間はいなくなり、東京のスネコスリは絶滅したことになっていた。ほかの妖怪も同様に数が減っていったという。
――そんな経緯があって「何が起きたのか」につながる。
妖怪は同族でも基本的につるまない。ところがいろんな妖怪が集まって共に行動している。一緒にいるのは共通の目的があるからだ。
妖怪がやろうとしているのは人間の保護だ。
でもすべての人間を保護するわけじゃない。妖怪を感知できる者――いわゆる霊感がある人間が対象だ。
むかしの人間は誰もが霊感をもっていたのに今は霊感がないのが標準だ。霊感がある人間は貴重で妖怪が存在するために欠かせない。そのため害を与えるモノから守らなければならないのだ。
人間は妖怪と比べるとあまり強くない。
物はすり抜けられないし食事や睡眠を必要とする不便な体をしている。それに小さなことで悩むし、他人を想って心を痛める繊細な部分がある生き物だ。
人間は日常生活に支障がでると体調を崩しやすい。不調になると妖怪が困ってしまう。人間から良質な妖力を得られなくなってしまうと妖怪も弱ってしまうからだ。
人間の生活を脅かすモノは妖怪の敵だ。すぐに対処しなければならない。
霊感がある人間を脅かしているモノは妖怪から見れば弱い。苦もなく追っ払うことはできるけど、敵はあらゆるところに存在しているから厄介だ。妖怪の敵、それは――幽霊だ。
人間は奇妙な存在だ。
幽霊はもともと人間だったはずだ。なぜ同族を怖がらせる? 同族なら助けるべきでそうでなければ、とっとと成仏するのが筋じゃないのか?
人間は妖怪を怖がっていたけど、死してなお人間を憎む幽霊のほうが俺には恐ろしい存在に思えるよ。
妖怪の世界では不干渉が原則なので通常、幽霊のことは気にしていない。だが無視できない幽霊がいて、そいつらが妖怪の敵となる。
現世に執着する幽霊の中には、存在するために認知を必要とするタイプがいる。このタイプは、人間に感知されることで霊力が補給されて存在を維持していることが多い。よって認知してもらうために、人間に対して積極的に接触を試みる。
しかし妖を感知できる人間は少ない。妖怪と同じように幽霊も霊感がある人間を求めていて、見つけると必死になって追いかけてしまう。目をつけられた人間のほうは、幽霊に対処できなくて参ってしまうことが多い。
霊感がある人間は妖怪にとって大事な存在だ。いなくなってしまわないように守らなければならない!
妖怪は日々戦っている。
令和の現在、妖怪よりも幽霊のほうが圧倒的に数が勝っているから大忙しだ。
今回は新宿にいる人間が幽霊に目をつけられたと仲間から連絡がきた。霊感がある貴重な人間が幽霊に憑かれてしまうのは困る。それを阻止するために急行しているというわけさ。
ん? 妖怪が人間のためにそこまでする必要があるのかって?
ちょっと言いにくいんだけど……
妖怪は人間を守る代わりに、たま~にちょっかいをかけて、驚いたときの感情をもらって妖力にしている。
もちろん人間は守られていることや対価を支払っていることを知らないけど――おあいこだよな?
■『令和の妖怪事情』 了 ■
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
【小説】『令和の妖怪事情』
(全3話)
第1話(2,677文字)
第2話(2,722文字)
第3話(1,784文字)【完結】
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