『ホラーが書けない』2話 リアルな物語にしたいのなら実話が一番だ【Web小説】
第2話 取材にはコミュニケーション能力が要る
「体験談を聞いてくれませんか?」
ありがたいことにホラーの体験談を提供してくれる人物が現れた!
詳しく聞きたいので直接お会いして話を伺えるか尋ねてみたところ、快諾してくれた。しかもすぐにスケジュールを調整してくれて、あれよあれよと予定が決まった。
そして今、取材の真っ最中だ。
互いに自己紹介を終え、世間話なんぞして緊張がほぐれてきたら、いよいよ本題だ。録音の許可を得て、ボイスレコーダーをスタートさせた。
「それではあなたの恐怖体験をお聞かせください」
「はい、あれは――」
⋯ ⋯ 取材中 ⋯ ⋯
話してくれた方はとても協力的で質問にもていねいに答えてくれる。細かい状況を聞き取っていき、小説を書くのに必要な情報はすべてそろった。
「ありがとうございました。とてもわかりやすいお話でした。
最初にお伝えしたように、お名前や場所など個人情報やプライバシーに関する部分はわからないように修正しますが、それ以外のところは、そのまま使わせていただく予定です。
もしかすると追加でお聞きしたいことが出てくるかもしれません。その際はご連絡します」
相手から承諾を得たらボイスレコーダーの録音を止めた。これで取材は終了だ。
帰宅後、録音しておいた会話を文字に書き起こす作業に入った。
ホラー体験を話してくれた方は会話が上手で、When・Where・Who・What・Why・Howの5W1Hがそろっていてわかりやすく、喜怒哀楽が状況に合わせて伝わってくる。すでに物語として仕上がっていて、手を加える必要がないほどのトークだ。
なんてすばらしいネタを手に入れたんだ!
――こんなことは、ほぼない。人と話す職業に就いていて会話に慣れているならともかく、会ったばかりの人に体験談をよどみなく話せる人はそうそういない。
緊張で頭が真っ白になってしまうこともあるし、話はあっちに飛んでこっちへ戻り、なにかがぬけてて、ちぐはぐになることだってある。
体験者に任せっきりだと話のイメージがつかめないので、フォローするためにあらかじめ質問事項をつくっている。またスムーズに話せるように会話をリードしていくコミュニケーション能力も必要になるんだ。
俺は自分が書くホラー小説は、聞いた話をできるだけそのままにして体験者のリアルを読者に伝えたい。どんなにささいな情報でも引き出して読者に届けたい。だから友人の体験談を聞くときは毎回苦労するんだ――。
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カクヨム
神無月そぞろ @coinxcastle
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