「四季・コギト・詩集ホームぺージ」ブログ

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「四季・コギト・詩集ホームぺージ」ブログ

新刊書店では目にする機会のない戦前抒情詩と江戸漢詩の詩人たちについて、彼らの詩集を回顧するホームページ https://shiki-cogito.net/ を20年にわたって運営してきました。旧「管理者日録」の続きをここに引越して、本宅コンテンツと併用して運用してゐます。

最近の記事

『杉原一司歌集』

 同人誌『菱』の寄贈を忝くしてをります手皮小四郎様の御縁をもって、鳥取大学の岡村知子先生より『杉原一司歌集』ならびに全集に向けての準備稿となる抜刷を頂きました。 かつて我身をゆさぶりし激情のかへりくる日は虹かかりをれ うろこ雲のびゆく夏の陽ざかりに花はま白く咲くをおそれず 薄いコップの縁に残せる指紋など忘れて夏の陽ざかりを野を 時計など持たないわれは辞典とか地図とかを読み楽しく過す 倒れたるときに掴めるすなくづに何の因縁(えにし)をもとめむとする 霧のふる夜燈が淡く近寄りて

    • 『詩と思想』2023年7月号「特集:抒情詩の学び」

       『詩と思想』2023年7月号は「抒情詩の学び」とのことで、『四季』に集った伝統派の抒情詩が特集されました。趣旨は「四季派詩人を中心に、今抒情詩をどう学ぶか」。  「学び」とあるやうに、この度は戦後詩史のかなたに水没した「四季派抒情詩の大陸棚」の詩情を、書き手意識から探るべく、令和の実作詩人たちからの考察と感想とが集められてをり、拙サイトからもデータ引用して頂いたやうで感謝です。  最初に掲げられたのは、「四季派抒情詩に学ぶ」ために集まった詩人四者による座談。  謙虚すぎるタ

      • 前田英樹著『保田與重郎の文学』

        【紹介文】 前田英樹著『保田與重郎の文学』2023.4 新潮社788ページ    全37章の浩瀚な書物ですが、晩年の萬葉集評釈を導入部として、第1章から9章までは順次、時代を遡りながら書かれてゐます。  敗戦を前に書き遺された「鳥見のひかり」等の文章を保田與重郎が到達した境地を示したものとして、それ以前の、大伴家持、後鳥羽院、芭蕉に関する著作群を通じて探られた「隠者文人の系譜」、そして江戸後期の国学者たちが『万葉集』『古事記』『延喜式祝詞』において“恢弘”した「皇国観」、これ

        • 小網恵子詩集『不可解な帽子』

          このたび刊行された小網恵子氏の詩集『不可解な帽子』を拝読しました。 前詩集『野のひかり』より7年余。踏襲されたのは清楚な装釘だけでなく、純度を一層増したやうにも感じられる、若々しい抒情詩のもたらす読後感。 巻頭の「春」から続けざまに「水の道」「下山」「バスを待つ」、下って「苺ジャム」の各詩篇の調べに惹かれました。   水の道   山から流れ出て いくつもの橋の下を通り この町にやってきた かつての宿場町は道の中央に水路が走る さわさわと音立てる水に寄り 幼子が二人屈みこんで

          『伊東静雄 ──戦時下の抒情を考える』

           青木由弥子氏の新刊『伊東静雄―戦時下の抒情』を読了しました。【サイト版レビューはこちら。】  伊東静雄──。語り尽されたかのようにみえる詩人ですが、それ故に、これまで多くの研究者が悩んできた難解な詩について、これまでの研究文献を博渉した結果を勘案し、省略・屈折の部分を避けることなく解釈がなされてゐます。  平成以降の研究書は大学の先生方による分析がかった難解な業績論文が多く、敬遠して手にする機会もなかったのですが、久々に大好きな詩人と正対できました。なにより嬉しいのは「知

          『伊東静雄 ──戦時下の抒情を考える』

          『棟方志功 装画本の世界 ──山本コレクションを中心に』

           2013年の「高志の国文学館(富山県)」企画展の図録から十年。このたび現時点で可能な限りの集成といふべき、棟方志功の挿画本の総カタログ『棟方志功 装画本の世界 ──山本コレクションを中心に』が刊行されました。  A4サイズ、296pオールカラーといふ充実の内容を編著されたのは、前回図録『「世界のムナカタ」を育んだ文学と民藝(79p)』と同じく、棟方志功本のコレクターとして知られる「山本コレクション」のあるじ富山考古学会会長の山本正敏氏。私にとっては、懐かしき「稀覯本の世界」

          『棟方志功 装画本の世界 ──山本コレクションを中心に』

          香川児童文化研究會発行『こどもの國』

          田中克己旧蔵書から、四国丸亀の戦後雑誌『こどもの國』を紹介する。 現在ネット上にて、 プランゲ文庫に 5号(1947年6月)-16号(1949年6月) (欠:12,13号) 大阪府立中央図書館国際児童文学館に 4号(1947年5月) の所蔵が確認される。 田中克己が寄稿した創刊号、3号は、地元図書館にも未所蔵の貴重資料であると思はれ、全画像を公開することとした。 『こどもの國』香川児童文化研究會 1号(1946年11月) 『こどもの國』香川児童文化研究會 3号(1947年3

          香川児童文化研究會発行『こどもの國』

          田中克己『瀛涯日記』・薬師寺衞『受胎告知』

           先週、田中克己先生の阿佐谷の実家に、母堂を亡くされた令息を弔問しました。路地の佇まひに懐かしさやまず、案内された書庫には、自著を始め雑誌『四季』等の資料が昔のまま遺されてをりました。お言葉に甘えて段ボール2箱分、戦後の収録雑誌を中心に借用してきましたが、これらを逐次スキャンして「著作総目録」ほかにリンクし、ネット上でみられるようにしてゆく予定です。 【2023.03.12現在公開中】 『興南新聞』『骨』『萩原朔太郎研究會會報』『バルカノン』『くれない』『不二』ほか  な

          田中克己『瀛涯日記』・薬師寺衞『受胎告知』

          2022年 回顧

           令孫の篤い顕彰の意志に打たれてこの数年、津軽抒情詩の雄将一戸謙三(1899-1979)の紹介に断続的に勤しんで参りましたが、今年はその総括として弘前市立郷土文学館で催された特別展にて、決定版となる図録に詩人の詩史的遍歴について執筆させて頂きました。そしてコロナ禍にも拘らず御地への御招待にふたたび与り、藤田晴央先生との記念対談。帰途には念願の宮沢賢治墓参も叶ひ、まことに思ひ出深い夏休みとなりました。その後、詩人の豪華木版刷の稀覯詩集『椿の宮』の第1番本を入手したのも、御縁がな

          『感泣亭秋報』17号

           今年も詩人小山正孝の顕彰を主目的に、令息の正見氏が主宰編集する年報雑誌『感泣亭秋報』の寄贈に与りました。  編集後記(感泣亭アーカイヴス便り)のなかで正見氏は、「大筋で言えば、正孝の顕彰はやり終えたと感じている」と記してをられます。今後は未定ですが、正見氏のサロン「感泣亭」を抒情詩の牙城と恃みとする近現代詩の愛好者・研究者は多く、詩誌『四季』周辺にあった詩人達の研究にもひろく開放されたこれまで17年間の蓄積は、八戸の詩誌『朔(1971-2015年179号にて終刊)』とともに

          一戸謙三『連詩集 椿の宮』

           この数年、御遺族の熱意に絆されるまま紹介に勤しんできました津軽の詩人、一戸謙三ですが、その生涯で一番豪華に造られた限定本の詩集を入手することができました。  版画、装丁ほか制作の全てを地元文芸家の蘭繁之(本名藤田重幸1920-2008)が担ひ、ディレッタントらしい趣向が満載された「緑の笛豆本」初期ラインナップの一冊、『連詩集 椿の宮』です。  特装25部、並装25部、計50部限定の稀覯本。12cm上製52ページ函入りの、「豆本」とはいへないしっかりしたサイズであり、国会

          「信濃追分の立原さん」「のちのおもひに--立原道造の想い出」

           山形酒田の抒情詩人、加藤千晴の詩集( https://shiki-cogito.net/library/ka/katochiharushishu.html )を刊行された齋藤智様より、卒寿の御近況として立原道造の全集を読み返してをられること、そしてその際に発見した現在閲覧の難しい回想文、今井治枝「のちのおもひに--立原道造の想い出」のコピーを頂きました。    今井治枝氏は、著名な箏曲家、今井慶松の次女で、文献には春枝と称されることもあり、また「北麗子」の芸名でSKD(松竹

          「信濃追分の立原さん」「のちのおもひに--立原道造の想い出」

          『春と修羅』初版本の製本のこと

           本日9月21日は宮澤賢治の祥月命日。今年は私にとって詩人のふるさとである花巻への聖地巡礼が叶った記念すべき年でした。  たった半日の時間でしたが、身照寺に墓参りをし、生家や印刷所の跡を訪れて、持参した詩集『春と修羅』に百年ぶりの“里帰り”をさせたことは、詩人に対する私淑とは別に、古本狂ならではの馬鹿馬鹿しい本懐であり、まだひと月前のことですが、汗だくで街を彷徨ひ歩いた酷暑の一日のことを懐かしく思ひ返してゐます。    その『春と修羅』ですが、初版本を手にしてみて初めて気付い

          『春と修羅』初版本の製本のこと

          藤田晴央 著『詩人たちの森』

           2022年8月20日、弘前市立郷土文学館において催された文学対談ですが、その折に頂いた藤田晴央先生の御著書『詩人たちの森』を、涼やかな朝を感じられるやうになったこの頃になって、やうやくのんびりと繙いてをります。  私が現代詩を読まないのは、露悪的かつ大仰な身振りでハッタリをかます文脈や、正義者面を以て告発を事とする態度が嫌で堪らなかったからですが、彼らにせよ、不協和のポーズを善しとして澄ましてゐる訳でなく、世代的な免責のもとにあった戦後詩人に需められた、マスメディア時代な

          新刊『江戸漢詩の情景(岩波新書)』

           揖斐高先生の新刊『江戸漢詩の情景(岩波書店2022.8.19)』を読了。  前の文庫版『江戸漢詩選』上下巻の編集の際に書き留められた、謂ふところコロナ閉居中の産物とのことですが、文庫編集の余録といった域を出で、当時の漢詩人の思考と生活とに分け入っての観察記録、多岐にわたる「情景」が綴られた贅沢なエッセイです。    「江戸時代では40歳を過ぎる頃から老年が意識され始め(略)平均寿命は66歳(略)、ということは江戸時代の漢詩人たちにとって老年期は25年ほどもあったことになる。

          新刊『江戸漢詩の情景(岩波新書)』

          「四季・コギト・詩集ホームぺージ」のこと

           このnoteブログの本宅である「四季・コギト・詩集ホームぺージ( https://shiki-cogito.net/ )」は、大正~昭和初期にかけて青春を送った抒情詩人たちについて、その姿を、彼等が残した「詩集」といふ形見によって振り返りながら、つたない感想を公開してゐる個人ホームページです。1999年に開設し、途中より江戸時代に活動した郷土岐阜県の漢詩人たちの紹介もするやうになりました。  わたしたちの国語が今後情報化の中でどの様な変貌を遂げて行くのか分かりませんが、戦

          「四季・コギト・詩集ホームぺージ」のこと