「四季・コギト・詩集ホームぺージ」ブログ

新刊書店では目にする機会のない戦前抒情詩と江戸漢詩の詩人たちについて、彼らの詩集を回顧…

「四季・コギト・詩集ホームぺージ」ブログ

新刊書店では目にする機会のない戦前抒情詩と江戸漢詩の詩人たちについて、彼らの詩集を回顧するホームページ https://shiki-cogito.net/ を20年にわたって運営してきました。旧「管理者日録」の続きをここに引越して、本宅コンテンツと併用して運用してゐます。

最近の記事

幸田露伴

 陶淵明はこれからも良寛禅師同様、生涯座右の漢詩人となりさうですが、次に「書き込み読書」の対象になったのが、今まで読まず嫌ひで通してきた幸田露伴でした。読書習慣のなかった高校生の頃に(課題図書だった?)手にした「五重塔(明治25年)」に歯が立たず、以来ずっと敬遠したまま。その後江戸時代の郷土詩人に興味を持ち、森鴎外の史伝三部作に親しんだ(漢詩史料として接してきた)折に、幸田露伴もまた鴎外同様の薀蓄の持主であると仄聞したものの素通りしてをりました。  明治の文豪――。夏目漱石に

    • 冨長覚梁先生

       詩人の冨長覚梁先生が4月1日に亡くなられた。新聞(4/3中日新聞朝刊岐阜県版)の訃報を友人から知らせてもらひ吃驚してゐます。89歳で老衰とのことですが、卒寿の大往生とよんで差し支へないでしょうか。  郷土岐阜県詩壇の重鎮でした。わが職場だった大学にも非常勤講師としてお越しになり、当時あった文学部国文学科で詩の講義をしていただきました。豊橋に隠棲した生前の丸山薫を御存知で、慕はれ、交流もあったといふことで、一職員ながらおなじく『四季』の同人だった田中克己を師と仰いでゐる私か

      • その伝記・・・陶淵明をよみくらし。Ⅲ(終)

        承前。 訳詩集の読み比べを了へたあと、吉川幸次郎の『陶淵明伝(新潮文庫・中公文庫)初版1958年』を繙きました。楽しみのため故意に残しておいた本でした。 伝記なので引用の詩句はぶつ切りが多く、語釈もありませんが、碩学ならではの蘊蓄による解説と分析とに富み、作品集として鑑賞するといふより、あらためて陶淵明の詩趣を味はひ直すべき小品といふ読後感にて、なにより誰とも被らぬ自在な訓が振られてゐるのに驚かされました。 冒頭「自祭文:自ら祭る文」から書き起こされてゐます。けだし陶淵明が

        • 「帰去来の辞」陶淵明をよみくらし。Ⅱ

           大河ドラマ「光る君へ 」に陶淵明の「帰去来の辞」の最初のくだりが出てきてびっくりしました。  既に自ら心を以て形の役と為す 奚ぞ惆悵として独り悲しまん  (これまで自ら心を身体のしもべとしてきました。もうくよくよと独り嘆き悲しむものですか。)  已往の諫められざるを悟り 来者の追ふべきを知る  (済んだ事は改めることができません。でもこれからの事は追い求めることができると知ったの!)  實に途に迷ふこと其れ未だ遠からずして 今は是にして昨は非なるを覚る  (まだそんな

          『亀井勝一郎:言葉は精神の脈搏である』

           山本直人氏による亀井勝一郎の評伝『亀井勝一郎:言葉は精神の脈搏である(ミネルヴァ日本評伝選2023.9)』が公共図書館にやうやく登場。  亀井勝一郎といへば高校生の頃に手にとった人生論がなぜかつまらず(単細胞な私は加藤諦三にハマった)、のちには「保田與重郎の大和禮讃を一般に説き直した」といふ言を信じて読みもせずゐたのですが、革命と戦争に翻弄された戦前世代の文学者のなかでも、一番生真面目に状況に対処したといへる批評家の生涯を、思想の偏りなく丁寧になぞった本書は、新資料や周辺情

          『亀井勝一郎:言葉は精神の脈搏である』

          陶淵明をよみくらし。

           年明けて陶淵明をよみくらしてゐる。詩人が亡くなった63を私も迎へ(満だと三月尽に)、また停年前の退休を決めたことで、にはかにこの有名な隠棲詩人が慕はしくなり、手持ちの蔵書に加へて色んな先生方による訳書を机上に並べては読み比べをしてゐるものである。  いったいにこれまでも「漢詩と親しむにはどんな方法がよいのか」考へてきたことだが、ひとつには自分しか知らないやうな地元詩人の詩集を手元に置いてかじりつくことが一番であることに思ひ至り、詩集はもとより機会があれば掛軸の筆跡も集めて

          『感泣亭秋報』終刊号

           昨年の晩秋、『四季』の血統を関西で継いできた同人詩誌『季』が115号をもって尻切れ蜻蛉のやうに廃刊しました。そして一年後の今秋、たうとう『感泣亭秋報』も18年18号の歴史を閉ぢることとなりました。  秋のひとつ星フォーマルハウトのやうに、寥々たる抒情詩文芸界のなかでひときは存在感を放ってゐた年刊雑誌だっただけに、巻を追ふごとにページ数を増やしてゆき、そのさきに終刊を迎へたことも何かしら“星の一生”を見とどけるやうな気持ちがしてなりません。  みなさんから惜しみない讃辞が寄

          『池畔好日』

          今年度より職場大学の専任教員になられた書家の住川英明先生が、今夏銀座鳩居堂画廊(令和5年8月29日~9月3日)で個展を開かれ、カタログを出版されました。 書のよしあしなど分からぬ掛軸コレクターの自分ですが、通常の書展とは異なりこの個展、自作歌が書かれてをり、どれも抒情的でその『四季』『コギト』にも通ずる詩情に共感。“歌集”として大切にいたしたく、ご紹介いたします。 『住川英明 書展 池畔好日』2023.7.19 私家版非売 21×21cm 80p 作品目録 ★は個人的に好

          『杉原一司歌集』

           同人誌『菱』の寄贈を忝くしてをります手皮小四郎様の御縁をもって、鳥取大学の岡村知子先生より『杉原一司歌集』ならびに全集に向けての準備稿となる抜刷を頂きました。 かつて我身をゆさぶりし激情のかへりくる日は虹かかりをれ うろこ雲のびゆく夏の陽ざかりに花はま白く咲くをおそれず 薄いコップの縁に残せる指紋など忘れて夏の陽ざかりを野を 時計など持たないわれは辞典とか地図とかを読み楽しく過す 倒れたるときに掴めるすなくづに何の因縁(えにし)をもとめむとする 霧のふる夜燈が淡く近寄りて

          『詩と思想』2023年7月号「特集:抒情詩の学び」

           『詩と思想』2023年7月号は「抒情詩の学び」とのことで、『四季』に集った伝統派の抒情詩が特集されました。趣旨は「四季派詩人を中心に、今抒情詩をどう学ぶか」。  「学び」とあるやうに、この度は戦後詩史のかなたに水没した「四季派抒情詩の大陸棚」の詩情を、書き手意識から探るべく、令和の実作詩人たちからの考察と感想とが集められてをり、拙サイトからもデータ引用して頂いたやうで感謝です。  最初に掲げられたのは、「四季派抒情詩に学ぶ」ために集まった詩人四者による座談。  謙虚すぎるタ

          『詩と思想』2023年7月号「特集:抒情詩の学び」

          前田英樹著『保田與重郎の文学』

          【紹介文】 前田英樹著『保田與重郎の文学』2023.4 新潮社788ページ  全37章の浩瀚な書物ですが、晩年の萬葉集評釈を導入部として、第1章から9章までは順次、時代を遡りながら書かれてゐます。  敗戦を前に書き遺された「鳥見のひかり」等の文章を保田與重郎が到達した境地を示したものとして、それ以前の、大伴家持、後鳥羽院、芭蕉に関する著作群を通じて探られた「隠者文人の系譜」、そして江戸後期の国学者たちが『万葉集』『古事記』『延喜式祝詞』において“恢弘”した「皇国観」、これ

          小網恵子詩集『不可解な帽子』

          このたび刊行された小網恵子氏の詩集『不可解な帽子』を拝読しました。 前詩集『野のひかり』より7年余。踏襲されたのは清楚な装釘だけでなく、純度を一層増したやうにも感じられる、若々しい抒情詩のもたらす読後感。 巻頭の「春」から続けざまに「水の道」「下山」「バスを待つ」、下って「苺ジャム」の各詩篇の調べに惹かれました。 水の道 山から流れ出て いくつもの橋の下を通り この町にやってきた かつての宿場町は道の中央に水路が走る さわさわと音立てる水に寄り 幼子が二人屈みこんで

          『伊東静雄 ──戦時下の抒情を考える』

           青木由弥子氏の新刊『伊東静雄―戦時下の抒情』を読了しました。【サイト版レビューはこちら。】  伊東静雄──。語り尽されたかのようにみえる詩人ですが、それ故に、これまで多くの研究者が悩んできた難解な詩について、これまでの研究文献を博渉した結果を勘案し、省略・屈折の部分を避けることなく解釈がなされてゐます。  平成以降の研究書は大学の先生方による分析がかった難解な業績論文が多く、敬遠して手にする機会もなかったのですが、久々に大好きな詩人と正対できました。なにより嬉しいのは「知

          『伊東静雄 ──戦時下の抒情を考える』

          『棟方志功 装画本の世界 ──山本コレクションを中心に』

           2013年の「高志の国文学館(富山県)」企画展の図録から十年。このたび現時点で可能な限りの集成といふべき、棟方志功の挿画本の総カタログ『棟方志功 装画本の世界 ──山本コレクションを中心に』が刊行されました。  A4サイズ、296pオールカラーといふ充実の内容を編著されたのは、前回図録『「世界のムナカタ」を育んだ文学と民藝(79p)』と同じく、棟方志功本のコレクターとして知られる「山本コレクション」のあるじ富山考古学会会長の山本正敏氏。私にとっては、懐かしき「稀覯本の世界」

          『棟方志功 装画本の世界 ──山本コレクションを中心に』

          香川児童文化研究會発行『こどもの國』

          田中克己旧蔵書から、四国丸亀の戦後雑誌『こどもの國』を紹介する。 現在ネット上にて、 プランゲ文庫に 5号(1947年6月)-16号(1949年6月) (欠:12,13号) 大阪府立中央図書館国際児童文学館に 4号(1947年5月) の所蔵が確認される。 田中克己が寄稿した創刊号、3号は、地元図書館にも未所蔵の貴重資料であると思はれ、全画像を公開することとした。 『こどもの國』香川児童文化研究會 1号(1946年11月) 『こどもの國』香川児童文化研究會 3号(1947年3

          香川児童文化研究會発行『こどもの國』

          田中克己『瀛涯日記』・薬師寺衞『受胎告知』

           先週、田中克己先生の阿佐谷の実家に、母堂を亡くされた令息を弔問しました。路地の佇まひに懐かしさやまず、案内された書庫には、自著を始め雑誌『四季』等の資料が昔のまま遺されてをりました。お言葉に甘えて段ボール2箱分、戦後の収録雑誌を中心に借用してきましたが、これらを逐次スキャンして「著作総目録」ほかにリンクし、ネット上でみられるようにしてゆく予定です。 【2023.03.12現在公開中】 『興南新聞』『骨』『萩原朔太郎研究會會報』『バルカノン』『くれない』『不二』ほか  な

          田中克己『瀛涯日記』・薬師寺衞『受胎告知』