あれよあれよと、コーヒー屋になってしまった。
東京で生活していたときは、ほとんどコーヒーにこだわりがなかった。
小さなコーヒーメーカーをつかい、スーパーで購入した挽き豆をドリップして、飲む。コーヒー豆が何であるかもよく知らなかったけど、コーヒーを楽しんでいた。
そんな感じだったのに、いまではコーヒー屋をやっている。
東京から那須に来て2年目くらいのとき、料理人歴の長い友人から「コーヒーの焙煎をやってみたら?」といわれた。
なるほど、これまで自分の口に入るものの成り立ちに、意識を向けたことがあまりなかった。自然のなかで育ったものを、人が飲食できるよう加工することが、ほんとに自分にできるのだろうか。
そんな興味から、ほとんど遊びのつもりでコーヒーの生豆を用意した。そしてフライパンを使ってしゃかしゃかと、生豆を火であぶることから初めてみた。
豆を焦がさぬように、完成まで15分くらいフライパンを振りつづけなければならないから、ちょっと飽きてくる。単調な手首の動作に、マラカスをずっと練習している気分になる。
そして15分後、まったくコーヒーとは呼べないものができあがった。
アーモンド色したコーヒー豆は、いまの自分が見たら、よくできた浅煎りのコーヒーと思うかもしれない。
フライパンじゃどうもだめだなーと思って、柄のついた金網状の焙煎道具に変えてみた。ごく初歩的な焙煎道具ではこれを使う人が多い。そしてふたたび、毎日しゃかしゃか。
そんなことをつづけていたら、次第に飲むことができるコーヒーをつくれるようになっていた。曲がりなりにも焼き立てで、スーパーで買ったコーヒーよりも香りがいい。ほんとよちよち歩きのコーヒー。
もっとしっかりコーヒーの勉強をしたい、と意欲がわいてきて、コーヒースクールに通った。そこで品質のよいコーヒーについて学んだ。
そしてちょうどスクールが終わったころ、那須高原で雑貨店を経営しているオーナーの誘いで、店舗の駐車スペースでコーヒースタンドをやることになった。
最初は自家焙煎店のコーヒー豆を仕入れ、ハンドドリップしたコーヒーをお客さんに提供した。さすがによちよち歩きのコーヒー豆をつかうわけにはいかない。
そんな感じで、コーヒー屋になってしまった。なってしまったという言葉がぴったりくる。もともとプロのコーヒーマンを目指してはじめたわけではないのだから。
それから2年が経ち、業務用の焙煎機をつかい、自分でコーヒーをつくるようになった。最初は別の方が焙煎したコーヒー豆をつかっていたけれど、焙煎は、遅かれ早かれ自分でやりたいと思うようになる。
おなじ種類の豆でも、ときには焙煎度を変えたい。いままで焙煎したことのない豆も、少し試したい。「こういうコーヒーを出したい」という基準も、自分のなかで微妙に変化していく。そういうことをほかの人の手にゆだねるのは、なかなか難しい。
また焙煎をしていると、いろんな経験が蓄積として残る。今回の焙煎はどうしておいしく焼けたのか。あるいは、どうしてもっと味が引き出せなかったのか。コーヒーチェリーの種が、どのようにコーヒーになっていくのかを見届けることは、コーヒーを本質的に知ることといえる。
それは焙煎されたコーヒー豆をみているだけではわからない、おいしさの成り立ちを知ること。だから、自家焙煎のコーヒー屋になってはじめて、自分のコーヒーをお客さんに出していると思うことができる。
これまでを振り返れば、東京で飲んでいたときと、コーヒーへの思いがまったくちがう。だけど、かつてのようにお手軽にコーヒーメーカーで淹れるコーヒーもいいものだと思う。
コーヒーは本来、ゆったりとした時間のなかにある飲みもの。
詳しい知識や、プロのような抽出技術がなくても、コーヒーは人を楽しませてくれる。
「那須コーヒーパルキ」
☆コーヒー豆の販売とコーヒースタンドのお店☆
栃木県那須郡那須町豊原丙4140−7(※住所では正確な場所が出ません。Googlemap「那須コーヒーパルキ」と検索してください)
営業日:日・月・火
営業時間:10時〜17時
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