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ご自由にお書きください

と、うっすらと表示された部分に

「ご自由」を書こうと思いましたら

みなさんが、いっせいに立ち上がって

おんなじ歌にこうべを垂れて涙しはじめ

拍手までわいていたものだから、ああこれ

私の苦手なやつだなって直感してしまって

(悪い予感ほど当たるんだってのは本当なんだ)

みなさんがいっせいに立ち上がったその光景を私はスマホ中毒者のふりをして画面を見る素振りをしながらただじっと見ていたのだけれど、魂は嘘の方面を絶対に向くことがなかったから私は立ち上がることは絶対になくて、かわいい奴だなお前は。すぐ横のおばさんは横目でちらっと(忖度しろよ)とばかり私を睨んだけれど、それをどうしたら有意に捉えられるかまでは考え至ることなくプレイボールになったものだから、私はただただ木偶になってdarlingの隣でハイボール片手に声援を送っていました。相対に私はかっこうのdisりの対象なのでしょう。メイクもてきとうでパーマもかけっぱなしのぼさぼさ頭な「仕事」帰りのOLですから。大してマウンティングのし甲斐もないんじゃないですかねー。

そうだ、女神になってしまえ。

私が、微笑めば、勝利するよ。

そんな妄想が心地よくて、darlingが心配して差し出したリスパダール内用液1mg/mLの封を切ることなくカバンにしまって、もっとマシな装丁にできないの? アルコールとの相性はバツのグンだよね☆ドリンクの売り子のお姉さんたちの腕力脚力会話力を消費し続けるピーポーをずーっとどこかで蔑みつつ、それは文化なのだと言い聞かせているどこかの誰かさんがずっと甘い汁に溺れていても、そのあからさまな違和感を吐き出すことの許されない閉鎖空間で、ビジターというよりは完全にアウェーな空間。臆病な私はアウトローを気取ってずっと楽しく逸脱していました。みなさんが信じ切って疑いの余地を一切持たない「正常」からめでたく卒業して、私はずっとニコニコしていました。だって全く風を感じない。

私の横のおばさんと後ろにいたおじさんは、自分の応援しているチームにエールを送るのではなく、ずっと相手チームの悪口を吐いていました。あー、これってスパイラルダウンの典型例だね。ありがとう、わかりやすかった。

でも私、いろいろを受信しすぎてしまったみたいです。感情? 業? 瘴気? 名称は別になんでも良いのですが、とにかく私はそういった類の空気を吸って吐くのに疲れてしまいました。もしdarlingが許可してくれたら呼吸をやめたいくらいでした。

そのような陳腐な許可は下りることなく、果たしてdarlingは私を連れてそこからの脱出に成功したのです。

darlingが珍しく苛立っていました。「カビはカビを、ホコリはホコリを呼ぶ」と。

けれども外へ出ても、空気の味はたいして変わりませんでした。その時、ようやく私は気づきました、悪いのは私のフィルターが歪んでいるせいとされているからだ、と。

結果? 逆転勝ちでしたよ。嬉しかったはずなのに、darlingは少し悲しそうな顔をしていました。私はずっとニコニコしていました。今もたぶん、なんだか機嫌がいいです。

だってなにもおかしなことは起きていません、勝利の女神が微笑んだだけなんですから。

よくぞここまで辿りついてくれた。嬉しいです。