サマーワンダーランド

指を、噛まれた。

 痛かった。なにが起きたかわからなかった。「噛みたくなったから」「噛みたくなることあるよね」彼は続けた。「他の人のを噛んだらいいじゃん。」私は言った。「誰でもいいわけじゃない。」その言葉で彼の特別になったことを少しだけ自覚した。けれど、私がこの気持ちにつける名前を"憧れ"から"好き"に変えるには彼は少し年上すぎた。

 よく考えた。遊ばれてると思った。完結した。憧れの人に遊ばれるなら本望だ。楽しんでやろうじゃないか。そう思った。


 また飲み会があった。今度は前回よりも大人数で。飲み会に行く途中私は1人で転んだ。盛大に転んだ。歩けないと思った。まあ、思っただけで実際は膝を擦りむいただけ。歩けたが、飲み会は遅刻確定だった。彼に連絡をした。すぐに迎えにきた。"二人で遅れて行ってしまったら、私たちの関係がバレてしまうじゃないか!"と思い、なにもばれることはないと思い直し、少し、泣きそうだった。きっと膝が痛かったせいだった。

 彼のおかげで間に合った。飲み会が始まる。その日も隣に座り、当たり前のように手を繋いだ。「帰ったら電話したい。」と言われた。酔っ払いのことだ。きっと寂しさの紛らわせで、なんの意味もない。遊ばれているだけだ。また、いつものように、私は彼の掌で踊っているように見せればいい。そう思った。しかし思い出せば、彼は私の横で私と同じジャスミンティーを飲んでいた。酔ってないじゃないか。まあどちらでもいいか。電話をするのなんかいつものことだ。そう言い聞かせながら、少し、何かが、何かわからない何かを期待していた。
 
 そして、その日、彼が電話越しに言ったのは"私のことが好きだ"という内容のことだ。正直にいえば、あまりにも衝撃的だったため、会話を全く覚えていない。しかし、たしかに彼は、"私のことが好きだ""言うつもりはなかった"という趣旨のことを言い、"私が拒まないのが悪い"とまで言っていた。やめて欲しかった。この私の気持ちには名前はつかないはずだった。好きだと言われて仕舞えば私も認めざるおえない。でも彼はそれだけだった。付き合おうとは言わなかった。付き合ってしまって、離れてしまうのが嫌だと言った。私にはよくわからなかった。でも、私も今のままがよかった。そこはお互い同意していた。それから私たちは、お互いが好きなことを自覚しながら一緒にいない方法を探した。あまりにも無謀だった。だって、伝えたくなってしまうくらいに好きになっていたのだから。そのあと10カ月間同じことで悩み続けた。周りからしたらくだらないことだった。しかし、私たちにとって世界一重要なことだったのだ。

サマーワンダーランド/backnumber

始まってないけれど終わろうなんて気取ったって
酔っ払った帰り道で電話して
なんだか今日は涼しいねなんて笑っちゃって
何やってるんだろなって思ってはいるんだよ

互いの忖度の末に出た曖昧さを
電話に出る君の甘さを
この夏に紛れて どさくさに紛れて

どうせなら大袈裟に波風立てて
ややこしくしたいのだけど
この目眩は君からもらったのに
夏のせいじゃ嫌でしょ

入り口はいつだって華やか みんな手招きして
無傷で帰れた人のいないワンダーランド
恋愛にゃ完成も完璧もくそもないよって
こんなのは何の言い訳にもならないけど

見た後何も残らないアクション映画も
電話をする僕の弱さも
でもほら夏だから まぁせっかくだから

どうせなら大袈裟に波風立てて
ややこしくしたいのだけど
この目眩は君からもらったのに
夏のせいじゃ嫌だよ

割り切れないくせに踏み切れない僕を
わかりやすく説明すれば
ただ君に見とれて 恋に落ちただけで

どうせなら大袈裟に波風立てて
ややこしくしたいのだけど
この目眩は君からもらったのに
夏のせいじゃ嫌でしょ

どうせならどこまで行けるのかだけ
確かめてみませんか
その後に二人で大怪我したら
秋のせいにでもしよう

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