アオ@見世屋ねこ

アオという名前で活動している《 見世屋ねこ》というgallery兼個人サークルの主。 小説、絵を中心に気ままに作ります。第二回空華文学賞受賞、Kindleにて出版!

アオ@見世屋ねこ

アオという名前で活動している《 見世屋ねこ》というgallery兼個人サークルの主。 小説、絵を中心に気ままに作ります。第二回空華文学賞受賞、Kindleにて出版!

    最近の記事

    まだ生きている公園

     人は忘れ去られた時に二度目の死を迎えるという話を聞いたことはないか?   俺はある。  一度目の死は肉体の死。その死を悔やむものがある限り、そのものの存在は記憶の中で生き続ける。という話だ。記憶なんて曖昧なものだ、ビデオデッキと同じで繰り返し再生されれば変質し元とは大きく異なっていく。  ……あぁ、だから死んだ後に『惜しい人を亡くした』『あの人は仏のような人だった』なんて言い出す輩がいるのかな。どんなクソ野郎でも。  そんなことを思いながら、俺は煙を吐き出した。吸わないとや

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      • 小説『バス通勤のとある人』

         夜にバスに乗ると、夜の底に辿り着いたような錯覚を覚える。眩暈に襲われているような感覚がどこか心地よい。  移動している途中なのに、別の世界に着いたようなちぐはぐさが好きだ。特に冬の十八時半頃のバスが良い。仕事や学校から帰る気だるさでぼんやりとした意識の中で見る、藍色の空に包み込まれた橙色の灯は異世界への入り口を照らしているかのようだ。  不安定な色が織りなす空気が、不安を運ぶ。何とも言えぬ心細さが夜を深めていく。それは確かに不安であるが、冬の朝の布団のような心地よさもあ

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        • 猫に口紅

          「うちら、親ガチャ失敗組だね」  朱里はスマホを弄りながら言った。私は公衆トイレの手洗い場の鏡越しにちらりとそちらを見やったが、俯いているため朱里の顔はよく見えなかった。日も暮れて木々の輪郭も曖昧だ。その中で電燈に照らされた朱里だけが、くっきりとした輪郭を保っていた。  朱里は喋り続ける。 「『朱里のせいで生活が苦しい』っつってヒステリー起こして子供に当たってさ。あたしは適応障害だなんて言われるようになったし。子供を気違いにするぐらいなら、最初から産むなって思う。誰も産

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          • ナニ見て跳ねる?

            真っ白なうさぎが道路に飛び出したんだ。 俺はそのうさぎを絶対に捕まえなくてはと思い、必死で右手を伸ばした。そして車に轢かれた。 「打ちどころが良くて、何よりだったね。それに夏休みだから学校休まなくても良いってのが、不幸中の幸い!」 見舞いに来た母は俺の枕元に本を数冊置きながら言った。アブラゼミのがさつな声は閉め切った病室にも届く。窓の隙間から夏の熱気が滲んでいるのと同じように。 俺の頭には包帯が巻かれているものの、擦り傷さえ治ればこれも取れるらしい。鞭打ちも骨折もない。車に

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            宝石の躰

            ※直接的ではありませんが、暴力、残酷、死の描写等あります。15歳以下の方は閲覧をお控えください。  ルイは間違えてこの世に生まれてきたのだと思う。  ルイの指先で温められたチョコレートが、その白玉石のような爪を僅かに汚した。ルイはそれを認めると、すぐにそれを投げ捨て、 「こんなものを食べろっていうの」  ウェッシウッドの皿に盛られたチョコレートを大理石の床に叩き落とした。宝石のように美しく艶々としたチョコレートがコロコロと床を転がっていく。  そして人間の足をイメージして

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            小説『あべこべな場所で』

            「今日、ハンバーグ食べられた……」  私がそう言うと母は入院着に身を包んだ私の背に腕を回して、 「良かった……」  と言いながら抱きしめてくれた。油っ気のない母の黒髪が鼻先にこすれてくすぐったい。 「ずっと食べたいって言ってたもんね」  私は『ハンバーグが食べたい』という言葉は子供みたいで、母にそう言われるのは恥ずかしいと思ったものの思いっきり頷いた。私はずっとハンバーグが食べられなかった。難病に罹ってから。今日食べたのは豆腐ハンバーグだけど、それでもやっぱり嬉しい

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            朗読シナリオ『飲み足りないハーブティー』

            真麻:もうそろそろ寿命だね 斗真:何の寿命? 真麻:精子の寿命 真麻は腹を撫でる。斗真は暫し考え、 斗真:ああ、この前の不妊治療の話? 斗真は読んでいた本を閉じる。 真麻:うん、そう。なかなかうまくいかないなって思って、色々調べてたの。そしたらね出てきたんだ、精子と卵子の寿命について 真麻はハーブティーの入ったカップに口をつける 斗真:へえ。考えたこともなかったな 真麻:最後に病院に行って卵管の近くに人工授精したのが1週間弱たったところだから。まだ生きてるの

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            『主人公』を探して

            私は物語の良い『主人公』になれなかった。 だから代役を探していた。 そしてふさわしい人が見つかったから、『君こそが主人公に相応しい』 そう言って、素敵な笑みを浮かべながら襷をかけてあげた。 私は君に背を向けて、『君ならきっと出来るよ』なんて無責任な言葉を吐き散らかした。 そうして新たな『主人公』を据えて、物語は書き変わる。君は観客の前で一人無邪気に笑っていたが、私は内心不愉快だった。首がすげ変わったのに、何も変わらない。物語は滞りなく進んでいく。 雨に濡れて本のインクが道路に

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            詩『土星のうさぎ』

            羽をもがれた哀れなうさぎ 一羽、二羽と数えてもらえず 忘れられ 月に仲間がいるものの 誰もこちらをみやしない 土星で独り帰れぬ彼は 気づいて欲しくて手を振るが ピョンピョンと宙を掻く手は 決して月には届かない 詩投稿サイトビーレビ初出の作品です

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            詩『感覚と現実』

            小さな白いクラゲがふわふわと宙に浮かんでいた。私は微笑んで耳をすませた。 柔らかな鈴の音が耳の中から聞こえた。私は息を止めて手を伸ばした 。 華やかな茉莉花の香りが鼻の奥から香った。私は静かに目を閉ざした 。 夕闇の色、朝のアスファルトの匂い、雨の気配、誰かの視線、ごわごわとした服の感触。私たちが認識できるのは五感が触れたものだけ。 僕らは確かな情報をふわふわと受け取る愚かな脳の中、小さな窓がついた暗い部屋の住人でしかない。 現代詩創作サイトビーレビ初出の作品です。

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            食べてしまおう

            パンジーの花言葉は「もの思い」「僕を思って」。 黄色のパンジーの花言葉は「つつましい幸せ」「田舎の喜び」。 白のパンジーの花言葉は「温順」。 紫のパンジーの花言葉は「思慮深い」。 カリンの花言葉は「唯一の恋」。 四葉のクローバーの花言葉は「幸運」。 カスミソウの花言葉は「清らかな心」「親切」。 ラナンキュラスの花言葉は「とても魅力的」「華やかな魅力」。 オレンジ色のラナンキュラスの花言葉は「秘密主義」。 「どうしたの。こんなに沢山のパンジー」  僕が家に帰ってからそう尋ねる

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            小説『コペルニクス的転回にチョコレートを』

            コペルニクス的転回にチョコレートを  (登場するイベント会場とチョコレート菓子は実際に存在します。またチョコレート会社とデパートの回し者ではありません。作者の趣味全開となっております)星空ヱトランゼ様主催のアンソロジー、『心に溶ける合同誌【Melt Book】』に収録されていた作品です。  二〇一九年一月関西某所 二三時半頃  日付が変わる直前、狭い部屋で地道(じみち)裕(ゆう)は携帯に喋りかけていた。その画面には流行りのスマホゲーム『明けない夜』が表示されている。内容は

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            樫の木の下で

            「おばあちゃんが魔法使いなのって本当?」 ツツジは布団の中からぴょこんと小さな頭を出して尋ねた。 「そうだよ、おばあちゃんは魔法使いさ」 そう言いながら老女は少女の横の木製の椅子へ腰掛けた。それを聞いた少女は目を輝かせて問うた。 「じゃあ、お空を飛んだり出来るの?」 「いいや、おばあちゃんが出来るのは薬の調合だけだねぇ。それ以外はなーんにもできないよ」 老女は白髪が大分まざった赤髪を手で撫でつけながら言った。 「えー、漫画みたいに杖を振ったり箒に乗って飛んだりしないなんて……

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            小説『毒を食らうぐらいなら』発売中

            第二回空華文学賞受賞の拙著がAmazonにて電子書籍とペーパーバックとして、発売されました。 電子書籍は300円、ペーパーバックは700円です。 …内容は同じものですが、紙の印刷代等で最低価格がペーパーバックの方が高く設定されており、この価格となりました。 以下のページより、試し読みも出来ます。何卒よろしくお願い申し上げます ペーパーバック https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/B09TDW4YGV/ref=tmm_pap_swatch_

            小説『猫がいるから』

            家に帰ったら、大きな黒猫が玄関の前に寝そべっていた。 そして扉を開けろと言わんばかりに、大きな声で鳴いた。こんな大きな声で鳴く、大きな猫は見たことがない。うちで飼っている猫より大きい。 しかしこの猫は、僕の家の飼い猫ではない。なんなら初対面である。まあまあ大きな日本家屋を背に、ゴロリと寝そべるこの猫も中々に大きいので様になっている。洋猫の血が入っているのだろうか。 「あ、坊ちゃんお帰りなさいませ」  お手伝いの志筑が箒を片手に頭に紅葉をつけたまま、バタバタと走ってきた。砂利が

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            小説『この瞼を愛している』

             この瞼を愛している。  私はいつもそう思いながら、丁寧にアイシャドウを引く。流行りの色を瞼に塗って、私が現在をこの顔で生きていることを実感する。右目が奥二重、左目が一重の歪な顔はそれでも愛おしい。 大嫌いな元母似の右目、それなりに好きな父似の左目。昔はこの瞼が大嫌いだった。でも左右非対称の歪な瞼が、大学生になった今は私らしいと思えるようになった。 色々なことを思い出すと同時に、瞼に歩んできた今までの道が凝縮されているような気がするからだ。そんなことをつらつらと考えていたら、

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