『主人公』を探して

私は物語の良い『主人公』になれなかった。
だから代役を探していた。
そしてふさわしい人が見つかったから、『君こそが主人公に相応しい』 そう言って、素敵な笑みを浮かべながら襷をかけてあげた。
私は君に背を向けて、『君ならきっと出来るよ』なんて無責任な言葉を吐き散らかした。
そうして新たな『主人公』を据えて、物語は書き変わる。君は観客の前で一人無邪気に笑っていたが、私は内心不愉快だった。首がすげ変わったのに、何も変わらない。物語は滞りなく進んでいく。
雨に濡れて本のインクが道路に溶け出してしまうように、私は全てから忘れられたくなった。空が青いままだなんて耐えられない。
だって私はキャストが一人しかいない舞台で、もう『主人公』じゃない。私はもうこの舞台から降りなくてはならない。

折角、全てがうまくいき始めたというのに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?