妥協案で部長になった私
高校時代の部活動は何に入るかとても悩んだのを覚えている。
文武両道を掲げる自称進学校に入学したため、「皆さん部活に入りましょう!」という生徒会からの圧がすごかったのが印象的だ。
中学時代は一瞬だけバレーボール部に入部した。
でもキツくて一瞬でやめた。
ということで自動的に文化部に入ることは決定していたのだが、家庭科部、書道部、吹奏楽部……どれもいまいちピンとこない。
そんな時見つけた部活が、茶華道部だった。
茶道と華道を両立して学ぶことのできる部活だ。
週3回のお稽古でお菓子を食べながらゆるゆると過ごせると判断して、速攻入部届を出した。
今思えばこの決断は私を大きく変えたと思う。
ゆるいけど何か部活に入っているというステータスが欲しかっただけかもしれない。いや、浴衣を着て文化祭に出ることができるので、モテたかっただけかもしれない。
そんな感じで動機はかなり不純。茶道華道を極める気なんてさらさらなかった。
なのに、2年目のある日私は部長になった。いや、なってしまった。
部長が指名制だった。そして拒否権がないので受け入れるしかない。
何故こうなってしまったのかは、明快だ。
他になれるメンバーがいないからだ。
私だから、ではない。
生徒会所属の人間は部長になれないというルールが存在した。(何じゃそら)
同期で部長候補メンバーは全員生徒会所属だった。
「おめでとう!」「頑張ってね!」
祝福を受けるも背景が分かっているもんだから何とも複雑である。
でも、どんな理由であっても、その日から私は〝部長〟になった。
部長の自覚なんてなかったもんだから、よく顧問に怒られたのが懐かしい。
テキトーにゆるーく部活ができれば良いやと思っていた。
でも、そんな私に部長の自覚が芽生えたエピソードがある。
和室を1人で大掃除大作戦だ。
たまたま休日に学校に来ていた私は、誰もいないはずの部室にこっそりと入った。何故入ったのかは分からない。でも、行きたいと思った。
案の定誰もおらず、静かな和室。
いつもは賑やかだから、しんとした空間は新鮮な感覚。
そして思い立った。掃除をしようと。
ずっと使っているこの部室は、一応掃除の時間が決まっていて掃除をするのだが、そんな手の込んだものではなかった。
ガッツリ畳や柱を拭きたい衝動に駆られた。
その瞬間に私は布を手にしていた。
「何をしているんだろう」と本気で思った。
でも、私の体は和室の清掃に励んでいた。
小一時間かけてみっちり掃除をした。
とても清々しい気持ちと共に、和室への感謝の気持ちが芽生えた。
その時に気づいたのだ。私はこの部活が大好きで、部長になれて嬉しくて、この和室の雰囲気が大事なんだということに。
「何してるの!」
いつの間にか和室で大の字になっていた私は、まさかの顧問の登場で現実に引き戻された。嘘やろ休みの日やで。
「和室の戸が開いてたから来てみたら…あなただったのね」
いつも私のことを怒る優しい英語教師顧問。
とりあえず掃除をしていたことを弁明として提示した。
「ふふ、部長だからってそこまで頑張らなくて良いのよ」
彼女には私の掃除が〝頑張っていること〟として映ったらしい。
突発的な衝動に駆られただけなんだけれども、まぁ好都合だ。
この掃除のエピソードは誰にも話さなかった。自慢することでもないし、顧問だけが知る内緒話にした。
ただm毎回の部活がある度に、「私はこの和室を1人できれいにしたんだ」という気持ちを裏に忍ばせた。
するとちょっと優越感に浸れるのである。
えらいだろう、ふふん、みたいな鼻の高い気持ちになれた。
そして自覚した。
私って仕方なしに部長になったけど、部活の日以外も部活のこと考えられる素敵な部長やん……。
ただの自画自賛。でも正しいはずだ。
だって1人で掃除できるくらい、部活に遣っている人間になっちゃったんだから。
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