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なんてことはまるでない、はずだ。伊坂幸太郎さんの『砂漠』を読んだ感想

こんばんは!ねむるこです。
最近またいろいろと好き作品に出会ったのでぼちぼち紹介していこうと思います。

今回紹介する作品は伊坂幸太郎さんの『砂漠』という作品です。
パート先の方に本を貸していただいて読みました。サムネの写真は鳥取砂漠に行った時のものです。笑

伊坂幸太郎さんの作品は映像化されていることが多いので知ってはいましたが本格的に作品を読み始めたのは『逆ソクラテス』が初めてです。
そして今回の『砂漠』が2作目となります。

簡単なあらすじは以下の通り。

入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決……。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれを成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。

新潮文庫『砂漠』 背表紙あらすじ引用

きっと多くの人はあらすじを読んだだけでは「どんな話?」となってしまうでしょう。(笑)
私も首をひねりながら読み進めましたが、読み始めたら止まらない。癖になりそうな作品だったので是非ご紹介させてください。


読後感は爽快!

逆ソクラテスを読み終わった後もそうでしたが、読み終わった後に爽やかな風を感じられるような作品となっています。

主要な登場人物達のキャラが良く、バランスがいい。みんなそれぞれ自分を持っていて好感がもてました。
ダラダラつるんでるわけではなく、お互いを信頼しあって理解しあっている。

けっして依存してるわけではないのに5人の友情に熱くなります。

中でも西嶋というキャラクターが強烈でした。
プレジデントマンという、通り魔のことを評価するような変わった思考の持ち主です。

たぶん、現実にいたら確実に引いてしまうタイプの人間なのに小説を読み進めれば読み進めるほど愛着がわいてくるから不思議なんです。
容姿がいいわけでもなく性格がいいわけでもないのに、本作の登場人物である美女、東堂同様に彼の魅力に惹かれていきます。

きっと読者のだれもが西嶋のとりこになるはず!

私は東堂というキャラクターも好きです。
自分が美人であることに胡坐をかくわけでもなく、他人を蹴落とすでもなく淡々と使いこなしている感じが格好いいと思いました。
そして媚びない!(笑)惚れてしまう!

また、メンバーの盛り上げ役である鳥井が、空き巣のメンバーとの抗争で左腕を失ってしまう場面には言葉を失いました。

鳥井がいないだけでいつものメンバーの明るさが消えてしまう。

その場面は見ているこっちも「どうすればいいんだろう」と途方に暮れてしまいます。
そんな中でも突破口を開くのが……西嶋です!
健気に本を読んで、鳥井との接し方に考え込む彼はとても可愛らしいと思いました。

タイトルにもなってる砂漠って一体何だろうと思ったら、社会の比喩でした。

確かに……砂漠は社会みたいなものかもしれません。

からっからで、どこに向かえばいいのか分からない。生き物が生きていくには最悪の環境。

それでも誰かと一緒に「この砂漠しんどくね?」とかいいながら面白おかしく進んでいる人が側に居るなら心強い。
あるいは自分が考えもしないことを言って楽しませてくれる人がいたのならもう少し歩けるかもしれない。

どんなに厳しい「砂漠」のような社会であったとしても、そんな人たちの出会いがあったら歩けるかもしれないよね!という思いにさせてくれる小説だったのだと思います。

そんな砂漠に「雪を降らせるんです!」と豪語する西嶋。
「砂漠に雪を降らせる」のが青春であり、人の可能性なのだと本作を読み終わった後でしみじみと感じました。

そして主人公の北村。
いい意味で大学生特有のスレ感。達観していて、要領よく生きていくタイプのキャラクターで、俯瞰方の人間である彼はこの小説の主人公に相応しいと思いました。

初めは冷めていて、理屈っぽくて……何だか気に入らない。
感情で動かないつまらないタイプの人間だと思っていましたが、個性的なメンバーに囲まれて彼の心も変わっていきます。

最終的には誰よりもこのメンバーのこと好きじゃん!となるので面白い。
それでもすれてる、素直じゃない北村にも愛着が湧いてきます。

大学時代のあの、何とも言えない倦怠感とぬるま湯につかったような日常がリアルに感じられる本作。
平凡な日常と思わせておきながら、超能力に空き巣犯、多額の金を賭けたボーリングに麻雀……メンバーの恋愛事情と色々盛りだくさんな物語となっているので一度読みだすと止まらなくなります。

平凡だと思っていたあの日々も他の人にとっては「面白い日々」になるのかもしれません。

最後に北村は、「これから社会に出て働きはじめればこのメンバーで会うことは無くなるだろう。なんてことはまるでない、はずだ」と、いうような趣旨のことを言って締めくくっていますがそれが何とも言えず切ない。

彼自身、メンバーに愛着を持っていて離れがたいと思っているんだろうなと感じられて心が温かくなると同時に、疎遠になっていくメンバーを想像して切なくなりました。
実際、学生時代の友人って疎遠になっていきますからね……。

本作では北村の「なんてことはまるでない、はずだ」というフレーズが所々に登場し、読者に印象付けるかのような働きをしています。
このフレーズは北村のスレた感情を表しているものだと思っていましたがそれだけではありません。

青春には終わりが来る。ずっと同じままではいられない無常観を表現しているように思えました。

最後の北村の言葉とフレーズが心に沁みます。

このように、人生で誰もが通るような道を描きながらも、彼らにしか過ごすことのできない青春の日々が見事に描かれています!

爽やかな読後感を求めている人、意外な展開が待ち受けている物語が読みたい人におすすめです。

気になった方は是非読んでみてくださいね。

以上、『砂漠』を読んだ感想でした。
本日も最後までお読み頂きありがとうございます。



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