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ゆたかに満たせばまた光る

夏の気配すらする週末。転がるように季節が変わってゆく。あなたのところはどうですか、同じく真っ青な空でしょうか。少し駅まで駆けただけで背中がじんわりと火照る、そんな日々がまた巡る。

性格も好きなものも見た目もそれ以外も概ね異なっていながら、感性がぴたりと合う親友がいる。心をじゅわっとさせたいときの相手はお互いしかあり得ない。私たちは胸震わせる体験がだいすき。ここ2年、ありとあらゆるお楽しみを先延ばしにしてきたけれど、潤いを取り戻し始めることにした。手始めには打ってつけ、劇団四季を観に行った。

鳥肌が止まらなくて息が詰まる。こういう感動いつぶりだったのかな。見渡す限り人だらけ、でもどの客席へもまちがいなくストレートに抜けてゆく衝撃がある。芸術って、その世界観に没入する瞬間と、自身のあれやこれやが脳内に引き摺り出される瞬間とがある。集中力は途切れないままに、主体性と客観性が入り混じる。物語が届く、とはこういうことなんだよなと思い出す。

その日は「やらなきゃいけない」を隅に置いておくことを自分に許し、とにかくただやりたいことをして過ごした。友だちと私は辛くて美味しいランチを食べながら、どうでもいいことと、大切なこととの両方を少しずつ、良い温度で話した。出会って15年、最も隠し事のない関係だと私は思っている。何もかもをさらけ出しているだとか、話せないことがないというのとはちょっと違う。「胸の裡を外側へ出したいと思った時、勇気のいらない間柄」、そういうつながりが私たちにはある。話したくないことは話さなくていい、でも口にすれば重たくも軽くもなく受け止めてくれる信頼感が、2人の間で座っている。

ハイブランドコスメの香るフロアを斜めに横切って、トレンドのスニーカーを眺めて、外国の石がついた小さな指輪を欲しがって、きゃーきゃー笑う自分たちの姿に私の心はきらきらした。これは舞台を観る前の時間、お楽しみがまだ後に控えている。

特別な感動と、当たり前に続く大切な関係と、日々を楽しむ心地よさとが一気に手元に戻ってきた感覚があった。勉強も子どもや地域との関わりも仕事も、どれもやりたくて取り組んでいることだ、この先もぶれたりはしないと思う。けれど、私がこれまで一途に愛してきたのは「自分の感受性を豊かに保つ」ことだった。形容しようのない、身体の中がきらめいていく感覚をとにかく慈しんでいた。目と鼻の先にある現実を追ううちに、心の栄養を進んでとらなくなっていたかも知れないな。帰りの電車で静かに思った。

天秤座のくせに、片方の皿が深く下がっていることに無自覚だった。きらめきに浸って瑞々しくなれば、美しいバランスを取り戻せる。かなしくなったり不甲斐なく思ったり、いろんなことがあるけれど、陽気な彩りを補充しながら生きていこうね。渇けば満たすをありったけ繰り返そうね。そんな約束を自分とした。初夏に手の届きそうな夜に。

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