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ユーザーの声に耳を傾け、自ら考えるためのデザインの思想・原則をつくる(前編)━デザインエバンジェリスト 有馬トモユキ×デザインエンジニア clngn

クラスター社はデザインの方針や戦略をより明確にし、デザインチームの組織拡大を進めるべく、有馬トモユキ氏をデザインエバンジェリストとして迎えました
就任に併せて行ったCEO加藤との対談では、clusterのデザインの方針について有馬さんがjoinしたきっかけからお話いただきました。
今回は、有馬さんとデザインチームのclngnさんに、より具体的なお話を聞きます。
前編では実際にどのようにデザインの思想や原則に落とし込んでいったのか、後編ではその展開として行われたWebリニューアルプロジェクトについてメインで担当したclngnさんにお話を聞きます。

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clusterはデザインの思想をつくる

━━今日はよろしくお願いします。
下記の画像は有馬さんがjoinした当初につくったスライドです。このスライドはクラスター社のビジョンを、具体的なデザインの方針に落とし込むために言葉にしたものです。
まずはこのスライドに至るまでの話をお聞きできればと思います。

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有馬 
まずクラスター社のビジョンについて改めて説明した方がよさそうですね。
加藤さんとの対談でクラスター社の魅力は「VRとは何か?」を模索し続けていることだと言いました。それは言い換えれば、「VRという現象に冷静」だということです。

クラスター社は一見、一本道で突き進んでいるように見えます。ですが、実は「チャレンジ」をバリューのひとつとして掲げており、リリースしてすぐ閉じてしまったサービスも多くあります。試行錯誤を繰り返しているということですね。
つまり、仮説をつくってそれをプロダクトやサービスに落とし込んで、それがダメだったら、また仮説まで戻るを繰り返しているんです。

それは前後左右にソナーを当てながら、模索しながら進んでいるようなもの。こうしたソナー型の仮説を立てられる企業は、おそらく何かに取り掛かる前に細かいことを決めない方がよいと思います。

クラスター社のビジョンは「100億ポリゴンが動くMMORPG」といった具体的なものではなく「人類の創造力を加速する」というある種、抽象的なものになっています。抽象的だからこそ与えるインスピレーションの幅が広がるのだと思います。
そして、同時に誰でも分かるようなビジョンになっているのも魅力的ですよね。

clngn 
汎用性のあるキーワードですよね。
一方で、こういった表現は汎用的にしすぎると無難に寄ってしまいがちですが、汎用的でありながら無難でもないという絶妙なバランスが取れたよいビジョンだなと思っています。

有馬
そして、私なりにこのビジョンを解釈した時に出てきたのが「かつて紙が発明されることによって刺激された創造力に匹敵するものをつくる」という言葉でした。これは紙の展覧会である竹尾ペーパーショウで宣言された序文をヒントにしています。

また、汎用性があるということは読む人によって捉え方が多様になるとも言えます。
clusterはバーチャル空間という新しい世界をつくるのですから、ひとつのイメージに固定されないものがいいはずです。

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有馬
クラスター社にはビジョンもカルチャーもありましたが、それを共有可能なデザインの思想や原則、手法に翻訳することができていませんでした。

クラスター社には私がjoinする前からclngnさん含めた3人のデザイナーがいて、個々でデザインしており、細かいデザインのルールなどはありました。ただ、それが何に根ざしているかは明解ではありませんでした。
それは悪いことではありません。おそらくその時には、違和感がない、つまり実利主義的で透明なデザインが目指されていたのでしょう。

しかし、僕はデザインを考える時に実利ではない部分に理想を設定しないと、新しい段階に行けないだろうと考えています。
そこで、クラスター社という企業自体のデザインの思想や原則をつくる必要があると考えました。

企業はデザインの思想を持って、それを人間がきちんと運用していく必要がある。

clusterのロゴはなぜああいう形なのかを説明する前に、clusterはこういうのが好きでこういうことをやっていきたいということを、デザイン側から見える状態にしないとclusterらしさを掴んでもらうことはできないと思います。

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そのためにまずはデザインのための思想や原則をつくることにしました。
原則は思想をより共有しやすいものに翻訳したものであり、どちらも存在することがデザイナーの行動指針にもなりますし、デザインする動機がはっきりしていると、今のメンバーにも、これから入ってくるメンバーにもよいと思いました。

clngn
確かに有馬さんがjoinされて原則がつくられたことにより、何か考える時や迷った時なんかに「clusterとは何なのか」という見るべきリファレンスができて、すごくやりやすくなったなというのは感じましたね。


ユーザーの創造力を加速するための新しい道具をつくる

━━実際にデザインの思想や原則を考える時にはどのようなことを考えたのでしょうか?

有馬
まずはクラスター社が持つビジョン・ミッション・バリューをデザインの思想に落とし込んだのがこの図です。

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「人類の創造力を加速する」というところでclusterが行うのはみんなが使える「道具を与える」ことです。
そしてclusterが考える「理想の道具のあり方」、つまりデザインの原則として示したのが下記の3つです。

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VRは「実質現実」とも呼ばれるように、目指すのは「次の現実をつくる」ことです。
ただ、今の現実の解像度は素晴らしく高い。その現実を新しくつくるとするのならば、今の現実で何が楽しくて、何が辛いのかを検証しなおすことは必要だと思います。

ただ現実では、ビジョンとものの間にいろんな障壁があります。
たとえば僕の指はネジを回すのに向いていません。その仲立ちとして「ドライバー」という道具がある。
このようにいろいろな道具を人間はつくってきました。その仲立ちをロスだと考えてみると、もっと最適な道具や、もっと最適な身体があってもいいわけです。VRではそのロスを取り払うことができる可能性があります。

その実現のためには、まずはストレスがないこと、そしてユーザーの行動を誘発するためのデザイン、ユーザビリティを考える必要があると思います。そして、その時に必要なのが「他者と自分への尊敬」だと思います。

もうひとつ重要なのが、シンプルに楽しく触れるものであることです。なので、インターフェースやデザインにおいて、これに触れたら気持ちいいだろうなという曲線が生まれました。

それが「Cluster Round」ですね。
これが丸みを帯びているのは、尖っていてはいけなかったというか、投げられても痛くないかたちにしたかった。
それはclusterはシンプルに楽しく触れるものであってほしいという願いからきているからです。

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Cluster Round はclusterロゴの「c」からインスピレーションを受けたスーパー楕円で、clusterのデザイン原則に基づいた「人間が好ましく感じる手触り」の表現のひとつ


新しい世界をつくることの責任

有馬
同じく重要なのが思想のところに書かれている「経済圏」です。

これは僕個人の経験から説明した方がいいかもしれません。
僕のような30代半ば以上の人間は1995年にインターネットが一般的に普及した時代をリアルタイムに享受しています。そこでは、どこまでも自由で何の情報でも無限にアクセスできて、基本的に知識はみんなのものであるというコンセンサスがある程度取れていたと思うんです。

インターネットはきわめて純粋なインフラで、そこに経済を噛ませてはいけないのではとすら個人的には考えていました。僕はWikipediaが無料のデータベースなのはその名残だと考えています。

僕は人間の善意でインターネットは成立すると考えていたんです。若かったですね。
そして、インターネットをいろいろな人が使うようになって、今までのユーザーも無邪気なだけでもいられなくなってしまった。皆さんもいろいろなことが思い当たると思うんです。

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つまり、自由なことには責任が伴うのです。
90年代のインターネットにいた人たちは誰もが自由であることの責任や危うさも、ある程度共有できていたと思います。
しかし、いろいろな人や価値観が入ってきた時に自由と責任のバランスが取れていたか?というと、疑問が残ります。

だからこそ、これから新しい世界をつくるぞ、という人たちが無邪気でありすぎてはいけないと思っています。
きっとインターネットのかたちは誰かが決めたものでもなければ、誰かが決めるものでもないのでしょう。ですが、かつてのインターネットの黎明期に起きた教訓とは向き合ったほうがよいと思っています。

つまり、clusterはこれからのインターネットはどういうかたちなんだろうということを考えたい。
その時には、そこでクリエイティブであることや、社会生活を充実させること、経済的に自立することも、自然に選べるようにしたいと考えています。


デザインが伝搬していく組織のあり方

──こうしたデザインの思想や原則は組織においてどの部分まで浸透していくものなのでしょうか?

有馬
理想は外に出るものすべてですね。

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ただ、これはデザインを厳密にコントロールしたいという話ではありません。
組織にいるすべての人がどんな風に発信してもclusterらしさが自然に出るようになるのが理想であり、そのために必要なのが思想だと考えているんです。

僕は思想はミームのようなものだと思っています。
思想があってはじめて、人は影響されていくと思っているんです。MicrosoftっぽさやAppleっぽさって確実にありますよね。やはりそこには思想があるからそうなっているのだと思います。

たとえばSonyは設立趣意書でこんな言葉を残しています。

「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html

これが今のSonyらしさをかたちづくる、ひとつの要因なのではないかと思うんです。

これを実現するためには、ある意味で合議でデザインを決めない。
思想の浸透のためには、ビジョンを使うことが必要なんです。ビジョンが壁に貼ってある標語ではなく、普段、会話などで使う言葉に落ちている必要がある。
そのためにはビジョンからかたちへ落とし込む一連の流れを組織が共有している状態が必要になるでしょう。

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最終的にはデザインチーム以外の別の部署がかたちに対する判断をみずからしている状態、つまり権限の委譲ができるようになることがひとつの目標になると思います。

たとえば、LAMYという文房具の会社はペンのことを「Thinking Tools」と呼んでいます。

このように自社のプロダクトについて思想を持つ企業を紹介することで、それを持つ重要性をクラスター社に浸透させようとしています。またこの時にもうひとつ重要なのは、なるべく自分たちの文化圏の外から事例を持ってくることです。
「次の現実」をつくるからこそ、何かに偏るのではなくさまざまな価値観に触れることが重要だと思うからです。

そのために僕がする役割が「デザインエバンジェリスト」であり、この行為はまさにclusterというプラットフォームが目指している「創発」を目指しています。
「創発」とは、つまり、個人個人のさまざまなクリエイティビティが集まることで全体として総和に留まらない、とてつもない創造性を発揮できている状態を指します。


clusterは最小限のデザイン手法しか決めない

──なるほど。もはや組織に属するひとりひとりがデザインについて最善の判断を下せるようになることで、クラスター社という組織としても「創発」が起こるような企業にしたいということですね。

有馬
そうですね。
その時にもうひとつ重要なのは細かいデザイン手法をつくらないことだと考えています。
これまで言ってきたことと矛盾しているようにも聞こえると思いますが...(笑)

簡単に言うと、まだclusterは細かいデザイン手法を……読むのも、実行するのも大変なものをやる段階ではないと思うからです。
デザインに関する決め事は多すぎると見ないし、それがないと忘れてしまいます。一方で、それが便利すぎると、みんなそれに慣れてしまい、自分で考えることをしなくなってしまうように思います。

言うなれば、万能ねじ回しに頼りすぎると、ある時、プラスとマイナスのどちらのドライバーを使えばいいか分からなくなってしまうということですね。

そのためにこれまでの思想の重要性を語ってきたのです。
つまり、デザインの手法を共有することではなく、考え方を共有することが重要なのです。そうすることでそれぞれが自分で考えて動く創発的な組織に近づくのではないかと思います。

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──なるほど。手法をしっかりつくってしまうと思考停止に繋がる危険性があるということですね。最初にお話いただいた汎用性のあるビジョンという話とも共通しますね。

有馬
そこで最小限のデザイン手法として決めたのがCluster Roundとアイコンと色ですね(厳密には書体もですが)。

ただ、ここでは最小限のデザイン手法を定めていますが、思想が共有されていて、そのロジックに沿っているならば、従う必要もないんです。

たとえば、先日のWebリニューアルではclngnさんが「Cluster Round」を独自に解釈したからこそ、ワールドやイベントを表示するカードのデザインにおいて大きめの角のRが生まれました。このように想定外が出てくる状態の方が理想に近いんです。
ただ、その時に思想なりビジョンが共有されていないと、ズレたものが出てきてしまう。

また、clusterの色の考え方をclngnさんが担当して決めてもらいましたが、色を決めると共に役割を設定しています。これもガイドであり、何か厳密なルールを決めるものではありません。

clngn
色については色相に対して、アクションが結びついているような決め方をしました。
こうすることで、この色を使わなければいけない、とするのではなく、必要とされるアクションに対してはどういう色味を使うとよりよいのか?と考えるきっかけになるのではないかと考えました。

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有馬
clusterのワールドには個性がありますよね。それは他にはないプラットフォームの特徴と言えると思います。

たとえば、降り立った時にあの人のワールドだと分かるのは、単一の造形のルールというよりは廊下の広さとか明るさとか、言葉にできないさまざまな要素が組み合わされて現れたものなのだと思います。
そうした、あらゆるトーンやマナーを尊重するプラットフォームを展開している会社が、clusterのデザインはこうだと決めつけてはいけないと思います。

clngn
私たちがやっていることは世の中のデザインシステムとは逆の方向にいっている感じがありますよね。

デザインシステムの役割のひとつは、つくる人が変わっても結果に再現性があることだと思うので。それを否定している感じがあります(笑)

有馬
クラスター社は面白い会社でありたいから、デザインの効率を最優先にしていません、と言ってもいいかもしれません(笑)

ただ、まだデザイナーが5人なので、それができる時期なのかもしれません。
最終的には、新しく入ったデザイナーが今までこういうビジョンや思想があったというのが一目で分かる状態にしたいと思っています。
そこではこれはやっていい、やってはだめの明確な前例があるだけ。
そこまでいければclusterのデザインの思想ができていると言えると思います。


会社員である前にデザイナーである

──何かのものや表現に落とし込むデザイナーのイメージとはかなり異なりますね。考える範囲が多岐に渡り、大変そうです。

clngn
確かにこうしなさいと決まっていた方が楽な部分もありますよね。

有馬
ただそれが行き過ぎると、結局はよくないことになると思います。
耳を傾けすぎて、デザインが実現しなければならないことを忘れてしまう。

デザイナーは表現者なので、一人一人のアイデンティティが重要だと考えています。
だからこそ「会社員である前にデザイナーたれ」ということを言っていますね。

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clngn
「自分の中でそれがなぜいいのか、理由を持って説明する」
論理性を持って客観的に説明できるのはたしかに大事なことですが、それ以上に自分の感性でこれが美しいと言えることが重要なんだと思います。主観的に自分がよいと思うことを大切にするというか。

有馬
僕も自分がよいと思ったもの、学んできたこと、それを開示できるのが大事だと思っています。
自分はこれが好き、グッとくるが共有されている状態ですね。

その人の思想や嗜好がブラックボックスだと、何かの仕事をアサインするにしても、この人にはこれが向いているということが分からないですよね。各々がいま考えていることが共有されていれば、ミスディレクションをすぐ検出できることもできるのです。

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clngn
さらに思考の変遷まで共有されていたら、ほかの人から見たら突飛な行動に見えたとしても自然に理解できる可能性は高まりますよね。

デザインチームのオンライン定例ミーティングでは、画面共有で各々の作業画面を見せ合うことがよくあるのですが、それは思考や、その変遷を見せているとも言えそうです。
Webリニューアルを進めている時も、とりあえず画面共有してから話し始めることが多かったのですが、それは自分の思考の変遷を見せるような感じでしたね。

有馬
僕らがデザイナーなのは言葉以外のインターフェースを信じているからだと思います。
デザインという道具は言葉以外の手段も使おうとすることなのかもしれません。究極的にはスケッチで会話をしたいですよね(笑)


ユーザーの声に耳を傾け、自ら考える組織

──clusterでデザインをすることは思想をつくること。それを目指すためにはこれから何を考えていくのでしょうか?

有馬
clusterはユーザーがいい人たちだからこんなに成長したという言い方もできて、運営もいい人であるべきだなと思っています。
いい人というのは裏切らないとかではなく、耳を傾けられるということです。耳を傾けて、自分で考えられる。
つまり、これまでの思想の話もここに行き着きます。すべてにおいて効率最優先ではない企業を目指すということですね。

デザインチームで言えば、自分たちはこれからもずっとFigmaをデザインに使用し続けてよいものだろうか?という話を最近よくしています。
Figmaはよくできたプロダクトですが、ツールによって制限されている思考もあるはずだからです。自分たちが何に依存しているのかには自覚的であるべきです。これもまた思考停止に繋がってしまいます。

cluster自体が創発を生み出すプラットフォームなので、組織自体を創発のためのものにしなければいけない。
そのためには、思考停止をせず、ユーザーに対して耳を傾けられるサービスであり、アップデートし続ける企業を目指したいと思います。

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クラスター社はデザインの方針や戦略をより明確にし、デザインチームの組織拡大を進めています。
本記事では、クラスター社がどのようにデザインの方針や戦略を考えているか具体的な部分を紹介してもらいました。
後編ではより具体的な成果としてWebリニューアルプロジェクトについてclngnさんにお話を伺いました。こちらもぜひご覧ください!


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