守り抜いた卵巣、守り抜くこの子の生涯〜歌姫に憧れて〜

自分の歌声が好きで
毎日聴いているけど

何度聴いても
どれほど聴いても
これが自分自身であるとは
到底思えない

どこか他人のようだからこそ
『この子すげぇな』
『ほんとうに天才なのでは』
とか自画自賛できちゃう
わけなのだが。

♡♡

思えば、
わたしの半生記は
卵巣を『摘出手術から守る』もので。

こんな話、
信じてもらう必要は
まったくないのだが。

子どもの頃から
そこにあるそれが
熱心に『絶対に摘出手術しないでほしい』と訴えかけてきて、
だいいち、摘出手術って言葉を知らないくらいの年齢だよ？？
とにかく、そこにそれがあることがバレたら摘出手術だから、絶対にその存在がバレないようにしてほしい。
『わたしを守り抜いてほしい』
そんなふうに懇願されて、
そこにあるそれ、
つまり
卵巣を守り抜く人生だった。

一方そんな
あたし自身は
子どもの頃から
生きているのがイヤだったし、
未来への期待なんて無かったし、
はやく死にたかったはずなのに。

かといって卵巣を死なせるのは
イヤだったから。

卵巣に『守って』と懇願されて
卵巣を守り抜く人生だった。

よく考えてみるとさ、

卵巣は『生きたかった』わけだよね。
『死にたい』あたしは、
『生きたい』卵巣にせっつかれて、
いっしょに生き延びてきてしまった。

性自認は生まれつき女で、
なのに男の子に生まれてしまったことに関して
わたし自身は性転換なんて知らなかったし、性同一性障害なんて概念も知らなかったし、
それより何より、
性別よりも生死のほうが
あたしには重要で。

『思い切って』
女の子として生きてゆく決断をするくらいなら、
たぶん、
『思い切って』
死ぬ。

こんなふうに、
わたし自身は常に強い希死念慮に取り憑かれていて、そこからしか(希死念慮を基本前提にしてしか)自分自身について考えられないわけですよ。
なのに、
卵巣が、
生きたいって言うから、
生き延びてきてしまった。

♡♡

参考までに、
両性具有者の一般的な人生航路から想定すると、
わたし自身が『生きたい』と願って
自分の身体について
医師に相談した場合。

まちがいなく、
『男性ホルモン投与』と
『子宮と卵巣の摘出』を
提案されたことでしょう。

だって男の子ですからね！
そのとき、
自分で自分を
女の子だと主張できていたとは
到底思えない。

そんなふうに、
『男の子として』
医師の提案に従っていた場合、

いまのこの歌声は、

この世に存在していない。

♡♡

自分で自分の歌声を聴いていて、
到底これが自分自身とは思えない
のだが。

だからこそ
思い切って、
これはわたしではなく
『別人である』。

わたしではない誰かが、
わたしの身体を借り受けて
わたしに『憑依して』歌っているのだ、
と想定した場合。

いや、
そっちのほうが、
話の辻褄は合うんだよ。

つまりさ、

この子は生きたいんだよね。
この子は歌いたかったし、
歌いたくてこの世に生まれてきた。

正規の出生ルートとは
大幅に異なるかもしれないけど、
とにかく、どうにかして、
歌うことのできる身体と、
歌うことのできる境遇を、
手に入れた。

そうして、
そんな彼女の歌声を聴いては
あたしは毎日毎晩、感動している。

♡♡

相変わらずあたしは死にたくて。
生きているのはひどく苦痛だけれど。
この子は歌いたいのだし、
この子は歌いたくてこの世にいる。

だからさ、
それでいいんだよ。

『死にたい』あたしは
『生きたい』この子の
面倒を見るだけの生涯でいい。

かつて、
あたし自身は死にたかったのに、
死にたくない卵巣を死なせないために
奮闘することで生き残ってきた。

同じようにいま、
あたし自身は死にたいままだけど、
そんなことに構うのはやめて、
歌いたいこの子に歌いたいだけ歌いたいように歌わせる。
そんな人生でいい。

報償はもちろんこの子の歌声。
あたしがいちばん身近で聴けるんだ。
一心同体で身体を共有する、
身近すぎるわが子だもんね。

♡♡

守り抜いた卵巣は
天性の才能を与えられた、
生まれながらの歌姫だった。
あたしの生涯は
彼女を見守るだけのもの。

自殺願望はきっと無くならないけど
彼女をずっと身近で
見守りたいから、
あたしは死なない。

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#この歌声で生きてゆく
#この歌声を捧げる
#この声で生きてゆく
#卵巣
#卵巣を摘出手術から守る人生