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【医療コラム】 医師、アプリ開発者となる。  発達障害そして注意欠如多動症ADHD

■思ったことはすぐに行動に移す若者


今まで私は頭がいいと思う人には何回も出会っています。だが、とりわけ彼は特別と言っていいでしょう。

私が彼と出会ったのは、私が指導医、彼が小児科をスーパーローテートで来ていたときです。彼は数字のことに関して、とてつもなく頭が良かった。
「先生、先生、ADHD(注意欠陥多動性障害)って落ち着きがないじゃないですか。待合室とか診察室にカメラをつけて、落ち着きがなかったら、そういう診断にすることはできませんか?」
と聞かれました。

突飛な発言だなと思ったものの、私は客観的な意見を彼に返しました。
「いや、勝手にカメラで撮るなんて出来ないからさ。無理だよ」
「そっかー」
それで終わったのかと思ったのですが、彼はSONYの PDA(personal digital assistant:携帯情報端末)であるCLIEを使って、子どもの落ち着きのなさを分析するソフトを試作してきたのでした。

「どうですか?」
自慢げな彼。ですが私は彼のことが理解できません。なぜ、そんなものを作ってきたのかということと、この前もそれはダメだと伝えた後だったからです。
「いや、ADHDの多動衝動性は主に刺激の多い学校だったり、動きだけではなくて、人の話が最後まで聞けないとか、もっと気になるって言うか…当てはまるところが、これもあるし、これもあるからって診断基準を満たすと診断がつくんだよ。落ち着きがないだけの子どもなんて山ほどいるだろ?」
「なんだ。じゃあ早く言ってくださいよー」
「それより何でこんなもの考えたんだい?」
「いやー。小児神経外来ってめちゃくちゃ混むじゃないですか。こういうのあったら患者さんも医者も助かるんじゃないかって思いました」
今でも覚えている彼との会話です。

■病院中の人に一目置かれる存在に


そんな彼のことがすごいなと思ったのは、数字を覚える能力でした。小児科は入退院が多く、子どもは変化が大きいので、血液検査を始め検査は多くなりがちですが、彼はそのすべてをカルテを見ただけで覚えてしまうのです。

私はそんな彼に興味を持ちました。麻酔科をローテートしたときにも、血圧、脈拍、呼吸数、血液検査値、ありとあらゆる数値を記憶して、周りも度肝を抜かれたそうです。
「なんか覚えてしまうんですよ」
と笑顔で話す彼は、所属の内科に戻ると治験のデータを即座にExcelと Filemakerで管理して分析して見せたそうです。

数字を覚える能力だけでなく、分析ができる。そんな逸材を放って置くわけがありません。やがて病院中で知られるぐらいの存在となりました。しかし、あっという間に彼は研修医の2年間を終えると、別の病院に移動になり会うこともなくなったのでした。

■彼が目指していたものを理解した瞬間に、ストンと落ちたこと


それから何年かが過ぎ、誰も彼のことを忘れてしまった頃。偶然、TVで彼の名前を見ました。残念ながらTVでは名前を見ただけ、どこで何をしているのかまではわかりません。思い出した頃には、TVの内容が変わっていたからです。そこで私は、何となく彼の名前でネット検索をしました。
「へー」
彼は、ある会社の取締役になっていました。医療と連携したアプリを作りたくて、会社を作っては潰してようやく軌道に乗ってきたようです。オンライン診療や血圧管理アプリを使って、診療に行く時間を減らしたり効率化を追求する。

それを見て、私はようやく彼がしたかったことが理解できました。頭がいいと言うのは、単に数字に強いと言うだけでなく、分析ができる、応用ができるからなんだ。そんなこと思いつく医師はいないし、いたとしてもできないものです。

「小児神経外来なんとかしないといけないですよ!」「初診7カ月待ちが平均っておかしいですよ」と彼は言っていました。私は目の前の小児神経外来に来た子どもたちに、じっくり向き合って診療するのが当然だと思っていましたが、ああいう画期的なアイデアが浮かぶし実行できる。いくつも才能が備わった人材こそが、私が彼を頭いいと思える理由です。
まるでADHDの診断基準みたいですよね。

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