見出し画像

■親からの重圧で医師を目指す子どもたち


医学生となって早々に、みなさんも医学部は医師になりなくて大学に入学してきた人の集まりだと実感したのではないでしょうか? もちろん、そういった志を持っていなければ、受験をすることもないでしょう。滑り止めで医学部を受ける、なんて人はよほどの天才ではない限りあり得ません。
ただ、医師になりたいからという理由の中にも、親が医師だから医師になるしか道がないために、追い込まれて医学部に入ったという人も一定数います。まさに私がそうでした。代々続く医師家系。父も母も祖父もそして曽祖父も叔父も叔母も兄弟も。親族にも医師が多数いる。
そういう親たちの意思によってほぼほぼ我が子を医師にしようとしているのに、いつの間にか我が子が自分から医師になりたいと言っていたと記憶をすり替えて、親が勝手に思うようになることもあります。私なんかは親に、こんな風に何度も怒られたものです。

「お前が医師になりたいと言ったから、これまで私立の学費の高い中学高校に行かせてやったのに、何、勉強サボってんだよ!!」

確かに幼稚園や小学校の卒業文集とかに、「医師になりたい」と書いていましたが、ただ何となくという気持ちでした。だから、つい勉強は疎かになり、徹夜でスーパーファミコンのドラクエ、パソコンの「信長の野望」や「三国志」にのめりこみ、私の中学校の成績は、中高一貫校なのに、高等部に進学できないほど落ち込みました。中学3年生のゴールデンウィーク明けには、担任に授業に出ないで図書室で高校受験の勉強をしてくださいと、親を呼び出されて言われたほどでした。

小テストで間違えるとケツバット。間違えたら、カラーバットや竹刀で先生にお尻をフルスイング。見せしめにそんなことされていた劣等生の代表でしたが、最終的に図書室で自習しているうちにコツを掴んで成績が上がり、医学部に合格することができました。医師になりたい、医学部に入りたい気持ちは一応あったのですが、親からのプレッシャーが半端なく、一浪していたときには、母やお手伝いさんが15分おきに私の部屋を巡回していました。それほど私は、家族から信用されていなかったということです。

■医師友人からの相談事


医師の友人から、私が現在児童精神科医をしていることから、子育て相談を受けることがあります。
もちろん、友だちとしての相談ということで、お金を取ることはできません。
「うちのチビがさぁ、成績全然上がらないわけよ。どうしたらいい?」とか、「うちの子さあ。やる気スイッチないんじゃないかと思うんだけど」といったことを、気軽に相談してきます。
あんたらがこれまで色々やってみたのに、うまくいかなかったらわからんよ。と言うのが正直なところですが、まぁそれなりにマニュアル的な事を答えます。
「スモールステップで出来たら褒めるんだよ。褒められる。できるから頑張るって内的動機づけをするんだよ」
マニュアル通りだし、私も経験もあるので、それなりに重みのある言葉です。

でも、たまにあるのが、「直接うちの子に話してくんないかな」と言う場合です。実際にマニュアル通りの話をして、親に任せるのと、子ども本人に会って話すのは別物です。
それはもうどんなに頑張っても、仕事の範囲です。けれど相手は友人として気軽に言ってくるわけです。それはどうなんだろうと思いつつも、私は会うことになるわけですが……。
これは今、話題のスキル搾取でしょう。でも、私が児童精神科医になったのはこういった子どもたちの相談をするためだから仕方がないのです。
というよりも友人も私にここまで食い下がって相談してくるからには、単純に医師の子育て相談というよりは裏には代々続く医師家系の重圧がある場合がほとんどです。

■子どもの心を開くのには緊張する


実際に家に行って子どもたちから言われるのは、「うちは代々医師家系だから、医師にならないといけないから勉強しているけど、無理そうなんだよね。成績ビミョーだし。第一、医師になりたいかどうかすらわからないんだ」
ということを、よく聞きます。私はこういう、子どもたちからの本心を聞くと胸がキュンとしめつけられます。切ないほどに核心を突いた言葉なのです。もちろん、こんな言葉は余程信頼してもらえなければ言ってもらえません。だから私は、この言葉を引き出すために家に通うのです。これまでの会話などから、「自信はないよね。医師って大変な仕事だから。でも、君は医師に向いているよ。なりたい気持ちもあればなりたくない気持ちもある。悩んで決めたものにしかわからない思いが医師になるには必要なんだよ」など気持ちに寄り添って心を動かすということをしています。

医師になるしかないと、ただひたすらに親からカチコミかけられていた私とは全く違います。医学部合格したら、速攻辞めてやる。親はガッカリするだろうなぁ。でもそれが目的なのさ。などと、歪んだ考えを持ったりしていた私とは大違いです。何しろ医学部に入学してから医師になりたい気持ちが確定したのですから。

何代も続く医師家系の重圧。ある友人は、「医師家系に生まれた子どもが医師にならなかったら、親のしつけが悪いって言われるのさ。奥さんも子どもに不自由かけてんじゃないの?って周りから言われるのさ」と言っていました。

でもさ、一番辛いのは子どもだよ。だって私がそうだったから。医師になるかならないかは、子どもの意思を尊重すべきでしょう。だってその子の人生なのだから。
ただ医師家系の重圧は、親にも子どもにも多大な影響を与えてしまうんです。

それを知っているから、医師家系の子育て相談は親の相談だけではなくて、当事者である子どもの気持ちに寄り添わなくてはなりません。
だから、こんな相談の連絡が来た時には、つい緊張してしまうんです。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?