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【医療コラム】【恋愛コラム】 今の流行りはYSK  医師の恋愛

■新医師臨床研修医制度がなかった頃のお話


医師派遣会社、そして新医師臨床研修医制度のおかげでしょう。以前は医師の就職といえば、知り合いのツテを辿ったり、医学雑誌の求人欄から探したり、もしくは飛び込みで電話して面接するしかありませんでした。

病院側にとっては、大学病院医局やコネで採用する方が、素性の知れた医師を採用できるというメリットがあります。また大学病院医局と繋がっていれば、急に医師が辞めたり、休んだりする場合も、代診医の派遣があれば非常にメリットがあることが想像できます。

これからお話しするのは、ネットも黎明期、医師派遣会社もなければ新医師臨床研修医制度もなかった頃のことです。

私は小児神経科医を目指して大学医局を飛び出し、国立小児病院で研修をしていました。給与は微々たるもので、当直バイトをしなければ生活などできません。研修、バイトそして勉強と、あまりの過酷さに長続きもせず情けないことに辞めてしまいました。

国立小児病院の同僚から紹介してもらったバイト先からは、「バイト辞めたら困るでしょ? いいよ続けなよ」と言われました。本当は「月30日バイトしたいです」と喉まで出かかっていましたが、私がバイトしている間は他の医師がバイトできないわけですから、言わずに飲みこみました。そのバイトは泣く泣く辞めました。収入がゼロになったわけです。

■都内で仕事先を探す日々


病院を辞めて、のんびりとできるかといえば、そういうわけにもいきません。東京都世田谷区のアパートですので、家賃だけでもみるみる貯金は減っていきます。真っ白なスケジュール帳と、結婚間もない21歳の奥さん。私が働かなくては、奥さんと生活ができませんし、貯金が尽きれば家もなくなります。

私は当時金沢から出てきて、東京に来ていたので、何のツテもありません。電話帳を見て病院に片っ端から電話です。予防医学協会に「検診バイトがないか?」、医師会には「医師募集している病院はないか?」と、節操もなく飛び込み営業の如く電話をしていると、私のような者を憐れんでくれる人がいました。

「うちでバイトをしなよ」と言われ、営業活動を始めた翌月からは、少しずつスケジュール帳が埋まってきました。そうしてスポット勤務をするうちに、「先生、患者さんの話よく聞いて熱心だね。どこに勤めているの?」と聞いてくれる人が現れたのです。

事情を話すと、「君みたいな先生が欲しいと思っている病院があるよ」と名刺を渡され、その場で面接を取りつけてくれました。天にも昇る気持ちです。自宅からもほど近い病院でした。喜んで面接に行くと、紹介ですから即採用。しかし、再来月までスケジュール帳がすでに埋まっていたので、すぐの常勤採用は保留で、週2日の非常勤勤務になりました。

■派閥。そして価値観の違い


都内の名だたる病院。幸いにも年齢が近い先輩もいたので、新規一転、頑張ろうと思いました。ただ勤務を初めて気づいたのは、周りの先生の優秀さと、セレブさ。そして通院している患者さんもセレブばかりです。

そうです。都内の名だたる病院ですから、大学派閥があったのです。そしてそこは立地条件のいい有名私立大学の関連病院。地方私立医大出身の私ですから、学費も高いので、私も周りも学生時代は裕福な家庭に育ったと思っていました。しかし、ここは別世界です。知識も財力も、これがフツーだよと何度も何度も言われましたが、「何がフツーなんだよ?」と思うぐらいでした。都内の一等地の職員駐車場にズラ―っと並ぶ高級車。眺めのいい職員食堂でみんなと食べる食事代すらなくて医局でコソコソ奥さんの握ったおにぎりをガッツいていた私は、結局のところ中々溶けこめず。常勤契約は結びませんでした。何度も言いますが、別世界でした。今ならネットで情報があるので、面接にすら行かなかったでしょう。何せ、なんと言っても周りのみなさんは私服も、着ているワイシャツもビシッとノリが効いているし、素材もブランドも私の物とは雲泥の差でしたから。

それから非常勤医師としていろいろな病院を巡り巡って勤務しているうちに、産婦人科開業医をしていた父のツテで誘われて、ある総合病院小児科医となりました。そして学会発表のときに目をかけてくださった教授に誘われて、今度は大学医局に所属することになったのです。自分に合っている居心地のよい病院を探すには誘われるのが一番です。情報もないから思えば遠回りをしたものでした。

昔は結婚相手に求めるものは、1990年代には3高(高身長、高収入、高学歴)、バブル崩壊後には、3C(「comfortable(十分な給料)」「communicative(価値観が一緒)」「cooperative(協調的)」)、そして今は、「YSK」(「優しさ・思いやり」「自然体でいられる」「価値観の一致」)と言うそうです。

今も派閥のある病院はありますが、職場でもYSKは大事です。優秀さと人間性は一致しないですからね。

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