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昔取ったドラムスティック~私の腐れ縁の「泥田坊」~ [ジョージ・ウィンストンのBGMとともにお届けする]

さて先日、私が若き頃に吹いていたテナーサックスという楽器について書いた。

自分の楽器に対する思い出について書くうち、もう1つエピソードを思い出した。

今回は、私の話でなく、私の高校時代からの「腐れ縁」の男について書こうと思う。

「腐れ」に因んで、こいつのことを「泥田坊」と呼ぶことにする。

泥田坊とは、高校時代に同じクラスだった。

こいつは稀に見る阿呆であり、会うたびに私を色々と腹立たせる。

こいつは昔、なかなか結婚できず、悩んでいた時期があった。

そんなこいつが結婚すると聞いたとき、あまりの衝撃に深夜1時頃まで2人で飲みまくって泥酔し、居酒屋の便所で2人でゲーゲー吐きまくって、やや暫く出て来れなくなったことがあった。

その日は2人でタクシーを拾って、「オエッ、気持ちわりー」とか言いながらサウナに直行した。

普通の友人や知人が結婚すると言っても、さほど衝撃はなかったと思うが、こいつの結婚はさすがに衝撃度合いが強過ぎ、泥酔するまで飲む羽目になったのだ。

吐きそうになりながらサウナに泊まる羽目になったのは、すべて泥田坊のせいである。

腹立つ。


その次は、こいつに子供が生まれると聞いたときだ。

都内で飲んでいたのだが、この日も飲み過ぎて終電を逃した。」

結果、私はタクシー代4,000円を払って家に帰ったのだが、泥田坊は終電に間に合ったらしい!

何で、こいつにめでたいことがあったのに、こちらだけ思わぬ出費をしなければならないのだ。

腹立つ。


実は、このGW前にも泥田坊と飲んだばかりなのだが、私は未だに「あのときのタクシー代は全部お前のせいだ。4,000円返せ」と至極まっとうな請求を続けているが、泥田坊は稀に見る阿呆なので「絶対払わねー!」と理不尽なことを言い続けている。

私も終いには「よし、ここの6,000円はオレが奢ってやるから、お前は早くオレに4,000円返せ!」とか、訳の分からない交渉をしているが、泥田坊は私に借金を返さない。

腹立つ。


以前、私が海外で弁護士資格を取得したとき、裁判所でセレモニーを行い、その後、現地の店の一画を貸し切りにしてパーティーを主催した。

現地のクラスメートや友人たちが、お祝いに来てくれたが、泥田坊は私以外に知り合いもいないのに、単身、日本から飛行機に乗り、現地まで祝福に来やがった。

稀に見る阿呆のクセにガッツ見せやがって。

腹立つ。


仕返しに、こいつの結婚式と披露宴、私はこいつ以外に知り合いもいないのに、海外から帰国し、参加してやった。

オレだって、阿呆のお前くらいのガッツはあるぞ。
借りは返してやった。


さて、高校生の当時、私は既にサックスを吹いており、R&Bやジャズが好きだったが、泥田坊はハードロック好きで、「軽音部」というのに所属し、ドラムが校内で1番上手かった。

もう1つ言うと、幼少時代からピアノも習っており、ピアノも滅茶滅茶上手かった。

ところで、ジョージ・ウィンストンというピアニストがいて、この人の「あこがれ/愛」という有名な曲があるのだが、私は高校時代に泥田坊が音楽室でこの曲を弾いてるのを聴いて「なまらかっけえ~」と思い、無理やり「サビの部分だけ」を教えてもらった。

そして、一時期(サックスの練習もサボり)懸命に練習した結果、数年の間、「あこがれ/愛のサビだけ」は結構上手く弾けるようになり、周りに「おぉ~っ、すげー!」とか言われるようになったりした(今は全く弾けない)。

そう言えば、そんな高校時代、そのジョージ・ウィンストンぱいせんがまさかの札幌にリサイタルに来た!ので、泥田坊と一緒に聴きに行ったのも思い出した。

そのときジョージぱいせんは、"THE MUSIC OF VINCE GUARALDI"というアニメ『スヌーピー』の楽曲をフィーチャーしたアルバムをリリースした直後であり、リサイタルでは同アルバムの曲を中心に演奏していた。

リサイタル当日の間抜けなエピソードがあるのだが、当時、私も泥田坊もジョージ・ウィンストンがどんな風貌かよく知らなかった。

今のようにネットがない時代の話であるので、ご容赦いただきたい。

リサイタルの直前、スーツをパリッと着こなしたお洒落なブロンド美人がステージに登場した。

我々は「おぉ~!ジョージ・ウィンストン!やっぱり洗練された感じだ!」と感激した。。。


そう、我々2人とも、ジョージぱいせんが男か女かも、よく知らなかったのである!

そして、その女性はアシスタントさんのようであり、すぐに引っ込んでしまった。

、、、そして、その後、野暮ったい感じのおっさんが、スウェットシャツとジーンズで緩い感じでニヤニヤしながら、(靴も履かず)靴下のままで「やぁ~、みんな元気?」みたいに登場した。

私と泥田坊は「何だ、いきなりこのおっさん?!、、、んっ?まさか、、、?」みたいにヒソヒソ囁き合った。

そう、既にお気付きのとおり、ジョージぱいせんである!

ホントにかなり気取らない感じの方であり、演奏の合間に少しお喋りしたりするのだが、通訳任せにせず、たまに懐から「英和辞典」を「ポパポパン♬」とドラえもんばりに出して、日本語で「ジショ~(辞書)」とか言ったりするお茶目な方であった。

私と泥田坊は、すぐに「逆に、なまらかっけえ~」みたいにジョージぱいせんに心を奪われた。

2人して阿呆且つ単純な限りである。

ジョージぱいせんは、ピアノだけでなく、アコースティックギター(2~3曲?)やブルースハープ(確か1曲?)も披露してくれた(当然、めっちゃ上手い)。

私もリサイタルの後、レコードショップに直行し、"THE MUSIC OF VINCE GUARALDI"を即買いし、聴きまくった。

かなりいいアルバムである。

当時、家で大音量でこのアルバムを聴いていて、私のお気に入りの"The Maked Marvel"でノリまくっていたときに、私の親父に「お前、、、かなりセンスのいい音楽を聴くようになったな!」と言われた。

親父は、私にブルース・ブラザーズエルヴィスを仕込んだ張本人であるため、根本的なところで音楽の好みもやっぱり似ていた。。。

Youtubeで同アルバムのオフィシャルの音源が見付かったので、私の好きな"The Masked Marvel"を貼っておく。

[警告]

体が揺れるので、ご注意!



さて、ドラムのことを書こうと思ったのだが、ジョージ・ウィンストンのことを思い出して、すっかりピアノの話に脱線してしまった。

そんなこんなで、高校時代、私のサックスは、いわゆる「ターヘー」であったため、同じく音楽を極めたいという若き日の私にとって、泥田坊はホントに憎たらしい奴であった。

私と泥田坊は、その他のクラスメートと一緒にそれなりに受験勉強を一緒に頑張り、ともに大学に進学したのだが、泥田坊は大学1年の時点で早くも「オレ、やっぱりプロのミュージシャン目指すわ」と言って、大学を中退し、故郷を離れて東京に行った。

何か、そのときは「冷静に考えなおしたらどうだい?」みたいな、ごく常識的な毒にも薬にもならないことを言ったような記憶があるが、ポカ~ンと唖然としてしまって、暫くお互いに交わりのない人生を歩むこととなった。

私みたいに趣味で音楽を続けて満足というレベルではなく、泥田坊は(同じ楽器ではないので、単純な比較はできないことを差し引いて考えたとしても)私なんかより、かなり実力が上だったので、若くもあり、当時は無限と思われた可能性(私だって、可能性は無限だと思っていたし、望めば何にだってなれると思っていた)を試したくなったのであろう。

いつぞや泥田坊が一時期的に帰省したとき、地元で飲んだことがあるが、私はまだ地元からもほとんど出たことがない大学生であったため(その後で急に海外に行って10年以上も帰って来ないという極端な人生を歩むことになるだが)、泥田坊が東京の生活を色々と話すのを聞いて、「何か、随分と1人で大人になりやがって、、、」みたいに気後れしたのを今でも覚えている。

まあ、結果的に私はその数年後、海外に飛び出してゆき、泥田坊は色々とトライしたが、結局、プロのミュージシャンにはならなかった(なれなかった)。

この間の話は、完全に本記事とは別物な話になるので、いずれ機会があれば。。。


現在、泥田坊はすっかり楽器をやめてしまっている。

私は「オレとは違い、お前はほかにいい所がないが、ピアノとドラムの腕だけはあったのだから、また再開したらどうだね?」などと余計なことを言うが、泥田坊の中では楽器は既に決別した存在なのかもしれない。

私の帰国後、たびたび腐れ縁の泥田坊と飲んだりしているが、冒頭に述べたとおり、会うたびに色々と腹立たしいことをしやがる。

数年前、2人ですっかり酔っ払いになった挙句、繁華街を散歩した。

そして、ゲーセンを見付けたので、私は泥田坊に「オイ、お前、ドラマーの血が騒がねえか?『太鼓の達人』やろうぜ。200円で2ゲームらしいから、オレが出してやるよ」と言って、2人で「対戦モード」に挑戦した。

念のため、『太鼓の達人』とはゲームセンターにあるリズム系のゲームである。

2本のバチを両手に持って、音楽とスクリーン上の表示に合わせて、ちょうどよいタイミングで目の前の和太鼓の中心や縁を「ドンドンドン! カッカッ!」と叩くのだ。

ちょうどいいタイミングで太鼓を叩くことができれば、その都度、スコアが加算されるし、リズムが崩れる(タイミングがずれる)とスコアが入らないというルールである。

さあ、1曲目(何の曲を選んだか、すっかり忘れた!)、私と泥田坊の勝負!

私は結構ノリノリでいい気分になり、「あっ、それドンドンドン カッカッカッ!」と叩いていたが、泥田坊は既に相当酔っ払っているのか、随分と手間取って、リズムも明らかにずれている。

そして、叩きながら「ん?あれっ?ルールがよくわかんねーな、、、」とブツブツ言い訳している。

1曲目終了~

採点は?

ダラララララララ~ッ(ドラムロール)

ジャジャ~ン!


明らかに私の勝ちであった。

酔っ払いの泥田坊は未だに「ん?ルールが、、、どうだっけ?」と酔っ払いモードである。

何か少し哀れにもなり、この時点で解放してやりたくなったが、200円で2ゲームなので、もう1ゲーム残っている。

私は「お前も酔っ払ってるようだから、最後にオレらの好きな『ルパン三世のテーマ』でも好きに叩いて終わろうぜ!」と言って、曲を選択した。

2曲目!

私と泥田坊の再度の勝負!


「ドン ドンドン! カッ カッカッ!」

たとえるなら〜空をかける〜♪
ひと筋の〜流れ星〜♫
Lupin the Third 〜!

さすがに私の好きな曲である。
さっきの1曲目より、明らかにリズムに乗れている。

一方、泥田坊は、、、
、、、少しは酔いが醒めたかと思ったが、未だにリズムはズレッズレである。

私は心の中で「こいつ、ホント、あのドラムの上手かった泥田坊かよ、、、」と何か、切ない気分になった。

「お前、オレらと一緒に苦労して勉強して入った大学を中退してまで、プロのミュージシャン目指してたんだよな?せめて、『太鼓の達人』でくらい、オレを明らかに凌駕してくれよ、、、」

私の心の叫びとは裏腹に、泥田坊は全くリズムに乗れていない。

、、、ちょっと悲しい気分になったまま、2曲目が終わった。。。

泥田坊をガッカリさせたくないので、私は「もういいよ、行こう」と言おうと思ったのだが、泥田坊はすっかり酔っ払った様子で「よし!やっとルール思い出した!今のは、オレ結構いけたぜ!」とほざいている。

私は心の中で「どこがだよ!明らかにズレまくってんじゃねーか、、、」と毒付きながら、ヤレヤレ、、、と思ってスコアが出てくるのを待った。

、、、結果、、、

スコアは明らかに泥田坊の圧勝であった!


「?!☆ うっ、ウエツ?オワッ!ゴワッ!おまおまおま、お前、めっちゃズレてたんじゃねーのか?」

泥田坊は冷静に「いや、全然! 今のは普通にかなり上手くいった手応えあったぜ」と涼しい顔である。

すげー!

ビックリした!

ズレてたと思ったのだが、ドラマーからすると、そのリズムがむしろ合ってたらしく、スコアが段違いに開いていた。

数分前に『太鼓の達人』でくらい、オレを明らかに凌駕してくれよ、、、」と思った私であったが、、、

実際に明らかに凌駕された。。。

、、、

やっぱり、こいつ、、、

腹立つ!


(完)

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