プリン ア・ラ・モード
コラム : 中央線芸術祭実行委員会 田中麻美
そういえば、吉祥寺をゆっくり好きに歩くのはいつぶりかなぁ。
集合場所に向かいながらそんなことを考えていた。
東京に来たばかりの頃は、初めてのこの街を楽しみながら歩いたりしていたのだけれど、最近は何か用事があって来ることが多くなってしまっている。
最後に遊びにきたのはいつだったかな。。。
記憶はコロナが流行る前に遡っていった。
いつものように集合場所で地図を受け取り、解散。
皆がそれぞれの方向に向かうのを眺めながら、さてどうしようか。
足が向かったのは、もう何度も通った中道通りの「マジェルカ」へと続く道。
アトレの中にある本屋さんの横を通り抜け、エスカレーターを降りて、お肉やお魚が並んでいるのを横目に見ながら、出口に方に歩いてゆく。
ガード下、うどん屋さんの黄色い看板が目に飛び込んでくる。
今日もお店の前に警察官がいる。
これまでにも何度か警察官がいることがあって、その度に「何事??」と思っては、うどんを受け取る姿に心を和ませてもらっている。そして今日も。
うどん屋を横切り、高架下を抜けてお気に入りの道に。
抜けてすぐのこの通りの風景がとても好きだ。
この通りには「一日」という本屋さんがあって、いつも慌ただしく通り過ぎてしまっていたのだけれど、今日はそっとドアを開く。
古本のセールをしていて、お店を出る時には袋に入れてもらった5冊の本を右手に持っていた。
始まったばかりの私の街歩きは5冊の本と一緒にここから続く。
本屋さんを後に、去年の芸術祭でお世話になった「マジェルカギャラリー」に向かう道へ。去年は会期中ということもあり、一直線に会場を目指して歩いていたので、今日はゆっくりのんびり歩いてみる。
通りを歩きながら、去年歩いていた時よりも、すれ違う人の数が多い気がした。人が笑いながら歩いている街の姿ってやっぱりいいなぁと思う。
楽しそうに道を歩く姿。楽しそうにお店で食事する姿。
楽しいが溢れる時間をそこかしこに見れるのは、良いなぁ。
そんなことを思いながら歩いているうちに、目的の「マジェルカ」に到着。
お店の地下ギャラリーで行われていた展示を見させてもらい、その後1階のお店の方に。
「マジェルカ」の店内はいつもカラフルな商品であふれていて、見ているとワクワクしてくる。訪れた日は、Tシャツフェアが行われていて、入り口入ってすぐの場所にいろいろなデザインのTシャツが並んでいた。
そして、Tシャツの上にはいろいろなデザインの手拭いがひらひらと並べられている。
白地にピンクの苺柄の手拭いにも惹かれたけれど、最初に惹かれた赤い手拭いを購入。(この時の街歩きでは予想できていなかったけれど、その後いきなり猛暑の毎日が続き、この時に買った手拭いが大活躍。)
その後も、昨年の芸術祭で通い慣れた道を歩く。
みんなが楽しそうに道を歩いていることが、不思議な感じがする。
知っている道の全く違う表情を見ているよう。大人も子供も楽しそうで、こちらまで嬉しくなる。
吉祥寺に立ち寄った時に、何度か行ったことのある「にじ画廊」の前を通りかかると展示が行われていた。
さいとうみささんという写真家の方の展示。
見えないものをそっと景色と一緒に掬い取ったような一枚一枚に、街歩きで火照った身体が、落ち着いてゆく。
薄い薄い氷を噛むような心地よさと、聞こえてくる外の音が少し遠くなってゆく感覚。作家ご本人が在廊されていたので、少しお話させていただくことができて、すごく嬉しかった。次もまたどこかで出会いたい作品の数々。
画廊を出て大通りに出ると、たくさんの人が歩いていた。
この街は様々な楽しさで溢れている。
「誰にでも」ではなく、「誰かの」楽しさが詰まった街。
嬉しくなるものがたくさん集まったプリン ア・ラ・モードみたいな街。
そんなことを思いながら、みんなとの再集合前に空いたお腹を満たしにゆく。買い物客であふれる商店街を抜け、お酒を飲みながら楽しそうに食事をしている人たちがいるハモニカ横丁を横目に歩きながら、スッと横路地に入る。黄色い看板の「ホープ軒」今日はここに決めた。
中は満席で呼ばれるまでお店の外で少し待つ。
中に入ると、私も含めてほとんどが一人客。近くに住んでいる雰囲気の初老の男性、吉祥寺での買い物帰りかなという男性客。ここにも「誰か」の楽しみを見つけて嬉しくなる。
ラーメンを食べて再び人が溢れる商店街に戻り、皆との再集合場所に向かう。
向かう途中にもたくさんの人がいる。そして、みんなが楽しそう。
プリンだけじゃない、フルーツもクリームも、一つ一つお皿一面に並べられたプリン ア・ラ・モード。
人気の街の姿が初めて見えた気がした一日。
次はいつ吉祥寺に行こう。
Center line art festival Tokyo 中央線芸術祭【ClafT】は街と人とアートを繋ぐ回遊型アートフェスティバルとして2021年にスタートしました。
フェスティバルを通して「人・地域・世代を繋ぐ、芸術・文化の創造と発信のプラットフォーム」 として、東京の中心から西へ向けて文化領域を拡大してゆくとともに、都市から自然への文化のグラデーション化を図り、緩やかに繋げてゆくことを目指しています。
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