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300°を切り裂いて 〜短歌をつけたエッセイ〜

案の定ビリのバトンで風を裂く
300°でも希望が勝つ日


私とは正反対に足が速い子供は、ずっとビリだった運動会の選抜リレーの練習に、試行錯誤し苦しんでいた。

順番を入れ替え、バトンの練習。
それでも変わらぬ状況に、諦めの空気が漂い、何年も個人では学年トップの速さを誇ってきたチームメイトは、ついに泣いたという。

どうしよう。
そう聞いてきたから、一緒にいろいろ考えた。
バトンパス、走行順、それから各自の練習。
YouTubeで研究してた。

それでもダメだった。最後の練習までは。
もう、どこかの失格か、転倒がないと無理だと意気消沈していた。

私に言えるのは、わかっているだろうけど、誰かの不幸で勝つのは嫌だよね。
ということと、チームメイトにももう少し練習してくれと言っていいんだという強気発言。

しかし、うちの子供は相手を論破するほど口がうまくない。

考えていた。毎日疲れた顔をしながらも。


当日、子供は決意していた。

波風を立てる可能性よりも、自分のレベルをあげてきた。
まず初めて、タイム順徒競走で学年一位を獲った。
今日は、何かが違うと気付いたら、あの子は。
懸念していたリレーで。
誰もが勝負あったと思っていたビリのアンカーで。

グングンと、風に背を押されるのではなく、
風を切り裂いた。
神がかっていた。モーゼのように。
三位の選手まで、ぐるっと300度はある距離をあれよあれよて縮めていった。
まっすぐ、何の迷いもなく。

「あの子、まさか抜くんじゃないの⁈」
カメラを構える私の後ろで喋っていた母親達がどよめく。

「行け!頑張れ!」
前に誰もいなかったから、マスク越しに私は叫んだ。
カメラは、もう連写モードだった。

ゴールまであと胸の差くらいだったろう。

あの子は、競り勝った。
チームメイトの思いも全部背負って。


親バカだろうが、他の子も頑張ったのもわかっている。
ただ今日は、言わせて欲しい。
あの泣き虫で、話し下手で、手のかかる子が。
自分が自分を越える選択をして、掴んだ結果を誰が何と言おうと、誇りに思ってほしい。

元々足が速い?元々頭がいい?
私は知っている。努力ができる君が、一番強い。

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