見出し画像

移民の子どもたちの過酷な現実を描いた映画「トリとロキタ」に”今”を見る

ベルギーでは、18歳未満の保護者のいない移民の子どもたちに無条件で滞在許可が得られる

しかし、18歳になったら難民として認定されない限り国外に追放されてしまう。この映画は、ロキタがビザ取得のために、面接を受けているところから始まるのだった。

監督は、カンヌ映画祭アカデミー賞などの数々の賞を受賞しているジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。BGMなし、手持ちカメラでの撮影など、ドキュメンタリー風なフィクションを撮り続けている。

ヨーロッパに来た移民のうち、保護者のいない未成年者の消息が数百人単位でわからなくなっていて、その多くが犯罪組織に流れているという新聞記事から、インスピレーションを得て企画した映画だという。

移民で、しかも子どもとなると、一番弱い存在だ。法律にも、国にも守られず、失踪してしまったら、生きているのか死んでいるのかもわからない。
リュック氏は、移民の子どもたちはベルギーを通って、最終的にはイギリスを目指すわけだが、辿り着くのは20%くらい。それ以外の若者がどうなっているかは想像することしかできないという。

移民問題を考えるとき、その背景にあるのは、戦争経済格差に他ならない。世界経済が発展し、地球が狭くなっていくグローバル社会、富める国も、貧しき国も「移民問題」と無関係ではなくなった。
そしてウクライナの戦争難民問題はさらにその深刻さに追い打ちをかけるだろう。

日本よりはるかに進んだ人権意識をもって、移民政策をとっているヨーロッパの国々であるが、そのしわ寄せが子どもたちにいく不条理を鮮やかに切って見せた映画であった。
しかしまた、監督たちは来日してみて、日本で生まれたコンゴの移民の子どもたちがビザをとれない現状を聞いて改めて驚いたようだ。
先進国と言われながら、人権問題に関する国連勧告は無視してもヘイチャラな態度をとり続けている日本は彼らにどう映っているのだろうか。

この映画を見た後、過酷な現実を前に、「見て見ぬふり」はいつまでもできない、といった制作陣の良心の清々しさを感じると同時に、悲劇的な辛い結末になんともいえない憤りが込み上げてきた。

  ※新宿の武蔵野館で観てきました。
 いつもながら、私好みの面白そうな映画がいっぱいでした。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?