KPOPの楽曲リリースは一大イベント!ティザーやMVを活用した巧みな広報戦略
KPOPアイドルの中では、楽曲のリリース時にティザーやMVの公開、音楽番組への出演などを高頻度で行い、それ以外の期間はあまり表に出ず制作やパフォーマンスの練習にあてるという活動スタイルが一般的です。この楽曲リリースに合わせた一連の流れはカムバック(カムバ)と呼ばれています。
今回は、カムバ期間にリリースされる様々なコンテンツのうち、特にSNSに投稿されるティザーやMVに注目し、その特徴を深堀りしていきます。
対談参加者
片瀬:文化社会学を勉強中のボカロP。音楽は好きだが、アイドルとは無縁の生活を送ってきた。
夕:片瀬がKPOPについてわからないことがある度に質問攻めにされているオタク。最愛のグループはDKB。
リリース前からファンを引き付けるための告知戦略
片瀬「KPOPは曲をリリースした時、ミュージックビデオをポンって出すだけじゃなくて10秒20秒とかのティザー映像をいっぱい出すよね」
夕「写真も出すしね」
夕「特徴的なのでいうと、Stray Kidsっていう自作曲を出すアイドルがいるんだけど、メンバーが作曲するとマッシュアップビデオっていうトレーラーが毎回出るんですよ。アルバム内の全楽曲をマッシュアップして1つの曲に仕上げたビデオがね」
片瀬「すごいねそれ」
夕「タイトル曲のMVティザーが出る前に出るんだけど、めちゃめちゃアレンジされまくってるからなんのこっちゃわからないっていうのがあるあるなのよ(笑)。それはStray Kidsの名物ですね」
夕「あとよくあるのは、オフィシャルフォトっていうメンバーの団体写真と個別の写真がでてくるんだけど、ただポンって出すんじゃなくてタイトルがちゃんとつけられてる」
片瀬「写真にってこと?」
夕「写真のコンセプト自体だね。NCT127の『Fact Check』が出たときだったら、「불가사의(Mystery) in Seoul」っていうコンセプトでメンバーが街角でかっこよく写ってる様子を撮ったショートフィルムと写真が3日間にわたって公開されたりとか」
片瀬「1つのコンセプトで短い映像と写真みたいなコンテンツをたくさん作って、順番に出していくんだね」
夕「面白かったのはaespaの『Drama』が出た時なんだけど、いつ何が出るか書かれたスケジューラーの中に「The Giant Clip & Image」って書いてあって。ファンはこれを見て何が出るんだろうって思ってたら巨大化したメンバーが街を闊歩したり車つまんだりする画像だったっていう」
片瀬「そのまんまだったんだ(笑)」
夕「あと結構個性が出るのは、デビュー時のメンバー公開もだね。例えばEXOだったら「惑星を旅する」みたいなコンセプトでメンバー一人ひとりに超能力があるみたいな設定を与えてそのストーリーを100日間にわたって公開していって」
片瀬「そんなワニの話があったような……」
夕「本当にその流れ(笑)。あとは今月の少女(LOONA)ってグループは名前のとおり1月はこのメンバーのソロ曲、2月はこのメンバーのソロ曲っていうように毎月担当のメンバーと曲を出していって。1年経ってようやくデビューしてそのアルバムがいきなりiTunesのグローバルランキングでいい成績をとったり。デビュー前からファンを引き付ける戦略がすごいできてたなって」
片瀬「12ヶ月かけていっぱい曲出してるけど全部デビューに向けての告知だったんだ」
KPOPのティザー文化は日本から輸入された?
片瀬「日本だとCMとかタイアップとかで耳に残らせてから発売みたいな形態が多いよね」
夕「確かにドラマで先に聴いちゃってるっていうパターンはかなり多いね」
夕「でもどうやらKPOPのティザー文化はAvexが2000年代中盤にやってた音源発売の1ヶ月前からCMをバンバン流す方法をYGエンターテイメントがプロモーションに取り入れたのがはじまりらしいのよ(*1)。当時の韓国では発売前に音楽が聴けることって一般的じゃなかったみたいで。SNS上でティザーという形で音源を先行公開させたところからはじまってる」
片瀬「日本ではテレビにCMを流すっていう形でやってたのをインターネット上で再現したというか、手法として取り入れたら今みたいな形になったってことなんだね」
夕「韓国ではティザーひとつひとつも作品で、グループの世界観を構築するものとしての役割も大きいね」
片瀬「以前話したとおり、韓国は早くからインターネットが発達していて2000年代前半には既にサブスク型の音楽サービスが存在するくらいだった(*2)から広告も自然とインターネットでやっていこうってことになったと思うんだけど」
夕「そうだね」
片瀬「インターネットって基本的にプル型のメディアだからコンテンツがストックされるって性質があるじゃない。後々にも残って検索されるから、作品としてしっかり作ろうっていう動きに繋がったのかもしれないね」
推しの様々な魅力が見られるMVのバリエーション
片瀬「MVが出た後にも、Dance Practiceバージョンみたいなのが何種類か出るよね。あれは何の違いがあるの?」
夕「よくあるやつでいうと、Dance PerformanceバージョンはMVと一緒でがっつりスタイリングされた状態で踊っていてカットの切り替わりもあるんだけど、Dance Practiceバージョンは定点カメラで練習着姿のメンバーが踊るんだよね。最低限練習してる様子を撮ったっていう」
片瀬「なるほど。Dance PerformanceはMVがストーリーものだったりすると一部しか使われないダンスシーンを全部撮ってたからダンスバージョンとしても公開するみたいなことになってるのかな」
夕「そういうことです」
片瀬「最近は日本の男性アイドルも取り入れはじめてて、BE:FIRSTは毎回「-Dance Practice-」を出してるし、SixTonesもMV再生数が1億超えて話題になってた『こっから』で「-Dance Performance Only ver.-」出してたよね」
夕「そうなんだ」
片瀬「ファンはDance Practiceのどこを見てるのかが気になるんだけど、やっぱりアイドルの裏側がみれるようなコンテンツとして楽しんでるってことなのかな」
夕「そうだね。あとは事務所の練習室なんかもファンの中では有名だったりする。例えばJYPのStray Kidsがよく使う練習室は上のライトが星型になってるとか」
片瀬「「このグループはここの練習室使いがち」、みたいなのもファンの中ではあるあるネタとして定着してるんだ」
夕「P NATIONっていう事務所の練習室の壁にはPSYさんが考えた文章が書いてあって名物になってたり」
片瀬「他にはTikTokとか踊ってみたをやりたい人、ダンスやってる人なんかが参考にしてるのかなと思ってたんだけど、そういうところ見てたんだ」
夕「確かに、踊ってみたの人みんな練習着っぽいよね。メンバーがこの時のDance Practiceで着てたのと同じスタイリングでやるとかもよくある」
片瀬「なるほど、そこに注目するのか」
夕「そうそう。この人すごいよく見てるなって思うし、公式のインスタでストーリーに引用されることもあるね」
今回は、ティザーやMVを題材にKPOPの広報戦略をみてきました。どのグループもMVから告知の写真まで、アイドルらしい魅力的な容姿や力の入ったスタイリング、持ち前のダンスパフォーマンス能力を活かしたビジュアルコンテンツを大量に制作し、ひとつのコンセプトにまとめあげることでSNS社会に適用しています。また、練習の様子など完成されたコンテンツでない部分も公開することで、ファン同士のコミュニケーションや二次創作を誘発しおり、持っているリソースを余す所なく数字に変える努力をみることができます。
「#韓ドルオタクとボカロP」というシリーズで、KPOPの産業構造やファン文化に着目した全5回の対談を掲載していきますので、興味を持った方はぜひマガジンをチェックしてみてください。
*1)『KPOPはなぜ世界を熱くするのか』(田中:2021) より
*2)中央日報(2011)の記事で、韓国最大の音楽配信サービスである「MelOn」を当時運営していたロエンエンターテイメントの代表であるシン・ウォンスがサービス立ち上げの経緯について語っている。当時はiTunesが既に存在し、1曲1ドルほどでDL販売を行っていた。1曲600ウォンで販売する同様のサービスを想定して市場調査を行うと、購入意向率は2%ほどで事業性がないと判断したものの、1ヶ月5000ウォンで聴き放題というシステムにしたところ購入意向率は25%まで上昇し、事業化に踏み切ったとのこと。
なお、MelOnのサービス開始は2004年である。ロエンエンターテイメントはその後カカオに買収され、現在の運営会社はカカオエンターテイメントとなっている。
参考文献
田中絵里奈,2021,『KPOPはなぜ世界を熱くするのか』,朝日出版社
中央日報, 2011, "신원수…국내 최대 음원 서비스 ‘멜론’ 로엔엔터테인먼트 대표 (シン・ウォンス 韓国最大の音源サービス「メロン」ロエンエンターテイメント代表) ,URL:https://web.archive.org/web/20131213044251/http://life.joins.com/news/article/article.asp?Total_ID=6812198&ctg=12&sid=5899#,2024年3月26日閲覧
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