#42【劇評・絶賛】中村長三郎さんのすごさ伝われ 猿若祭二月大歌舞伎・連獅子
…いやー……、ちょっともうねえ……絶句ですね。
長三郎さんの連獅子の千穐楽が素晴らしすぎた。
千穐楽は「野崎村」「猿若江戸の初櫓」「いがみの権太」「連獅子」を観まして、どれも本当に素晴らしかったのですけれど。
連 獅 子 が す ご か っ た ぁ ぁ あ ぁ ぁ !
( ↑ 元SEO担当にあるまじき空白使い)
長三郎さんの踊り
前半、狂言師左近として踊ります。
リズムよくしっかりと打点を打つ、勢いがあってキレのいい踊り。
所作台もよく鳴って気持ちがいいです。
のびのびとエネルギーに溢れた動き。
一瞬も「私」の時がない、迷うときがない。舞台に立つ人としては当たり前かもしれませんが、まだ10歳です。すごいことだと思う。
見得を切るときに指先までピンと張った左手が、中指と薬指の間があいちゃうことや、大きな振りのときに袖からちらりとのぞく赤がたいへんかわちい。
長三郎さんが主役だけど、勘九郎さんも魅せてくださいます。
勘九郎さんといえば前半の狂言師右近役で、右手にはめた獅子頭の扱いが素晴らしかったです。お二人とも鈴と長い毛の付いた獅子頭を振って踊るのですが、勘九郎さんがシャン!という鈴の音とともに動きを止めた時には獅子頭の毛が後ろや脇へ流れて、しっかり獅子頭のお顔が見えるのです。長三郎さんの獅子頭は毛で顔が隠れていることが多かったので、勘九郎さんのような獅子頭の扱いはかなり難易度の高いことなのだと思います。
そして何より、最後の毛振り。
後半の獅子の拵えは、ほとんどお能からとってきたままなのだそうです。
重いかつらの豊かな毛を振りながら舞います。動くたびにふさふさ動く豊かな毛は本物の長毛の獣を思わせ、そのたふたふとおおらかで軽やかな動きが本当に魅力的です。
そして何より、最後の毛振り。
花道七三の巴の型の毛振りはほとんど見えなかったのですが、本舞台上での勘九郎さんと揃いの毛振りは本当に素晴らしかった。
ゆっくりから徐々に速くなっていき、最後結構速いまま長いこといくのに、完全に勘九郎さんとシンクロ率100%。
最後の少しの間だけ勘九郎さんがギュインと一気にスピードを上げて、速く激しい毛振りで置き去りにして、「バン!」と足を鳴らしてこれを合図に両者が止まる。この「バン!」も痺れるほどかっこよかったぁ……!!
最後の見得で号泣
最後の見得、オペラグラスの視界は大変狭いので長三郎さんしか見えませんでしたが、ピンと指先までしっかり伸ばした右腕を、じわじわじっくり身体の前で回して、突然速く動き、ぱん!と決まる。
首の見得を切り、豊かな獅子の毛がふわっと浮いて収まる。
おおおおお、一か月にも及ぶ初役の大役がここに立派に収まりました。
歌舞伎役者・中村長三郎がここに誕生したと言ってもいい。
素晴らしすぎて思わず見得の途中から「おおおお」と声を上げて号泣です。
オペラグラスを握る手もぷるぷるしちゃいました。
大丈夫です、周りも舞台のことしか見てないし、会場じゅう拍手だの大向こうだの指笛だの大騒ぎでしたから。
歌舞伎で初めてカーテンコールを見た
幕が切れても拍手が鳴り止まなくて、みんな帰る気配がありませんでした。
わかるー!拍手やめたくないよね。この素晴らしい時間が少しでも長く続けばいい、この空間に一秒でも長くいたい、という気持ち。
中村屋さんだもの、ぜったいもう一度緞帳を上げてくれる。
と、しばらくして緞帳が静かに上がりました。
くらたは歌舞伎で初めてカーテンコールを見た。
あとでネットで調べたら、千穐楽ではまれにあるみたいですね。新作歌舞伎ではあるのですけれど、新作ではない歌舞伎では初めて見ました。
緞帳が上がると、舞台中央ツラ側、勘九郎さんと長三郎さんが連獅子姿のまま二人で立っていらっしゃって、じっくりと一礼。
おおおおおおお…感動……!
観客のみなさんは続々とスタンディングオベーションしていました。
ミュージカルってこれが当たり前だったりするのですが、ストレートプレイなどを観に行くと「意地でもスタンディングなんてきざなことはするものか(たぶん照れくさいから)」みたいな空気がある場合もあります。その場その場で観客側の観劇文化の成熟度みたいなものが試されるなあと思っているのですが、まさか歌舞伎座でこの光景を見られるとは。舞台が好きな方々がジャンルを超えて交錯して、そういうふるまいをてらいなくできる人が増えてきたのかもしれませんね。もちろん無理してやる必要はないですけど、胸アツでくらたは好きです。
三歳で初舞台で十歳でこれだもの……。
これだけのパフォーマンスをして、これだけの喝采を一身に浴びる。
歌舞伎の家の英才教育は他の追随を許さないですよね。
中村屋のこれからが、もはやおそろしい
オーホホホホホ……おそろしい子!(『ガラスの仮面』1巻56ページから)
超蛇足ですが、この『ガラスの仮面』の引用、原書にあたるまでは「マヤ、おそろしい子!」って姫川亜弓の台詞だと思っていました。本当は月影先生の台詞で、しかも「おそろしい子!」だけなのですね。びっくり。
勘九郎さん・七之助さんはますます円熟期に入ってゆくし、鶴松さんも真面目にひたむきに二人を追いかけ、勘太郎さん・長三郎さんは切磋琢磨して育ってゆくでしょう。兄弟の競争心ってあるよねきっと。長三郎さんの仔獅子がこれだけ素晴らしかったから、お兄さんも気が抜けませんよね。
これからの中村屋がおそろしく楽しみです。
血筋……鬼籍に入った名優とのよすが
再聴したイヤホンガイドで印象に残ったのは、七之助さんが「勘太郎の目にお父さん(故・勘三郎さん)を見た」と言っていたことです。勘太郎さん・長三郎さん兄弟は前田愛さん似だなあと思っていたのですが、「猿若江戸の初櫓」の勘太郎さんは勘九郎さんそっくりでした。
血筋はもちろん芸の継承もありますが、それ以前に純粋に顔かたちが似ているということもあります。鬼籍に入ってしまった名優を直接的に思い起こさせてくれる子々孫々が芸を継承し磨いてくれることを、本当にありがたく思います。彼らを見ることでわたしたちは、亡き名優の在りし日を思い起こすこと、さらには、江戸の昔の芸能に思いをはせることができます。
歌舞伎は、「落ちるは一瞬ハマれば一生」と言われているそうです。頷きすぎて首がもげそうです。
くらたは勘九郎さん七之助さんと同世代ですから、勘太郎さん、長三郎さんの行く末見守りょうと思ったらもうわたしの寿命では確実に足りません。
今回は、過去に思いをはせながら未来への希望に打ち震えた、ほんとうにしあわせな観劇体験でした!
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