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FP&Aが「つまらない」は本当?|【連載】データ分析のログハウス(第3回)

~旬刊経理情報連載
「データ分析の森」ガイドマップ 番外編~

こんにちは。中央経済社「旬刊経理情報」編集部です。
本誌では『「データ分析の森」ガイドマップ』を連載中。DXやリスキリングなどで注目される「データ分析」について、その具体的な中身や取り組み方などをやさしく丁寧に解説していただいています。
このnote連載では、本誌連載では書ききれなかった、主にデータ分析に関わるキャリアや事業について、ざっくばらんにひもといていただきます。
第3回は「FP&Aはつまらない」(!?)という噂を分析していきます。

みなさん、こんにちは。
遠藤武(えんどう・たける)です(著者紹介はこちら)。
おや、おたんさん、今日は何やら険しい顔をしています。

おたん(データ分析に興味がある悩める大学生):
(ウェブ検索をしながら)
うーん、あの、根本的な疑問です。
FP&Aでウェブ検索したら、「FP&A つまらない」という予測変換が出てきます。これ、なぜなんでしょう? 
たしかに統計モデルを作っても、データを集めて整えるのに、全体の時間でいえば、8割以上を費やしますが……。

なるほど、核心をつく疑問ですね。実際にウェブ検索してみると、確かに「FP&A つまらない」という候補が出てきます。

今日は、この事実を分析してみましょうか。

データ分析とは、事業に〇〇〇〇〇を与えるしくみ

【問1】上記の〇〇〇〇〇には何が入るでしょう?

本連載第1回の最後を思い返しましょう。

「面白き 事もなき業(わざ) 面白く」と書き、「妄想と行動が大切である」と言い切りました。そのこころは、「一歩踏み出して、事業を面白くしていく」という意味です。

とはいえ、データ分析には、モデリングや分析を行う前にする、地味で退屈な一歩一歩の作業が数多くあります。データそのものを集めたり、データそのものを分類・検証・前処理したりと、雑務が数限りなく出てきます。データそのものの理解も必須です。

この雑務の過程はものすごく地味ですし、正直いってすごくすごく面倒な作業です。

とはいえ、実のところ、「面倒ごとと向き合う」ことは、データ分析の価値の本質なんです。

もしかしたら、次の言葉を聞いたことがあるかもしれません。
ポール・グレアムというプログラマーでありベンチャー投資家が、こう述べています。

"One of the many things we do at Y Combinator is teach hackers about the inevitability of schleps. No, you can't start a startup by just writing code."
−われわれがY Combinator(ポール・グレアムが立ち上げたベンチャー投資機関)でやっていることのひとつは、ハッカーたちに面倒ごとは避けられないと教えることだ。単にプログラムのコードを書くだけでは、スタートアップ企業を始めることはできない。

http://paulgraham.com/schlep.htmlより引用。和訳は筆者による。

さらに、ポール・グレアムは、「面倒ごととは、単に避けられないものではなく、ビジネスを構成する要素の大半を占めている」そして、「その会社がどれだけの面倒ごとを引き受けるかが、ビジネスの価値に影響する」と指摘しています。

先ほど、「面倒ごとと向き合う」ことこそがデータ分析の本質であるとお伝えしましたが、それは、「面倒ごとの中にこそ売れる要素がある」からなのです。

商品やサービスが売れるとは、お客様の面倒ごとやお悩みが一掃され、「これだ!」「ほしい!」とピン!とくることにあります。

ピン!とくるような、インパクトを与えることが、ビジネスにおいて重要になるということです。
そして、その「インパクト」を作り出すこと、それによってビジネスに影響を与えていくことこそが、データ分析という仕事の面白さに、通じているのではないでしょうか。

【問1の答え】
データ分析とは、事業に「インパクト」を与えるしくみ。

FP&Aが面白くなるためには、〇〇〇〇が必要

【問2】上記の〇〇〇〇には何が入るでしょう?

おたん
なるほど!  データ分析そのものは手段でしかなく、面倒ごとを乗り越え、妥協せずに価値を出してインパクトを与えるからこそ、面白いのですね!
とすると、FP&Aが面白くなるためには何が必要なんですか?

さすが! おたんさん、理解が早い!

売上予測やコスト予測も、キャッシュ・フロー(CF)予測も、組織にまるごとインパクトを与えます。
そして、洞察をブラッシュアップし、事業に反映させていく過程こそが、FP&Aの面白さです。
データ分析に基づく予測や洞察を共有することで、会社に一歩踏み出させるための影響を与えることができます。
売上予測やコスト予測に基づいた行動の結果、利益やCFが生まれ、事業を成長にいざなうのです。

つまり、「データ分析=事業推進役」と断言してかまいません。
場合によっては、事業立ち上げ役と断言してもよいでしょう。

仕事とは、組織に属していようと、独立していようと、自分の権限やポジションを軸とした行動で進めることになります。
集計作業のみを行うポジションにいる場合は、収集したデータを使った予測を行うことまでは求められていないため、事業に影響を与えるにはいたりません。
もし、あなたがFP&Aを担うにもかかわらず、収集したデータの活用方法を検討する権限が与えられていない場合は、退屈してしまって当然でしょう。

私の経験からストレートに申し上げると、FP&Aをはじめとするデータ分析のポジションにいる人が「退屈だ」と感じている場合、それは組織や事業のあり方が退屈だと言い切るしかありません。

仮に、データ分析を行うための権限が付与されないなら、そもそもその組織や事業のポジショニングがデータ分析や洞察なしでも困らないということであって、停滞を疑います。

ここで、データ分析のポジションと、それらに求められている役割を、私の経験から、整理したいと思います。

  • リサーチアナリスト=市場関係者に影響を及ぼす

  • FP&A=CF(ケースによって売上含む)と経営の舵取りに影響を及ぼす

  • マーケティング=売上(ケースによって営業利益含む)と経営の舵取りに影響を及ぼす

いずれも自分の両足で立ち上がり事業に影響を与える、屋台骨のポジションでした。

たとえば、企業の内部で「ビジネスモデルを変えよう!」という機運があった場合、データ分析に基づいた成功するモデルの洞察があったとしても、組織からそれを発言する権限が与えられていなければ、どうすることもできませんね。
関与していく「権限」があることで、FP&Aの仕事は面白くなっていくと考えています。

【問2の答え】
FP&Aが面白くなるためには、「権限」が必要。

両輪を回すと、面白くなる。

おたん
みえてきました!
ということは、「インパクト」と「権限」がデータ分析の両輪なんですね。
この両輪がないと、新たな発見もなく、指示待ち人間になっちゃいますね。
そんな生活じゃ、確かにつまらないです!

おたんさん、核心を突いてきますね。
そのとおりです。

FP&Aがつまらない場合は、耳の痛いことをいってしまうと、単にデータ集計代行をしているのだろうと思います。
「FP&Aは集計するだけで退屈……」というなら、「データから△△といえる。では〇〇を重視して行動しよう」というように、本連載第1回で述べた「妄想と行動」で動くことができるポジションや組織に移ることを検討したほうがよいでしょう。

FP&Aにデータを分析・活用させようとする組織は、成長分野であるか、あるいはデータを分析して「事業立上げ」をしたいという視点があるからに他なりません。また、データ分析を活用できる組織であるためには、成長のために多様な視点を聞き入れる「仕組み(カルチャーと制度)」が必要です。そして、聞き入れる「仕組み」のある組織においては、FP&Aの活躍の場がたくさん出てくるということになります。

データ分析とは「妄想や計画の実現に向かう行動指針を作るために、物事を切り分け、精度高く重ねていく」作業です。
その過程には、「面倒ごと」もあるかもしれませんが、
「こんな前提を立てて、こうやって動いたら、この企画やビジネスはこのようにインパクトを与えて、面白くなります!」
分析からそう主張できるポジションは、控えめにいって最強ですし、最高に面白いです。

データ分析にまつわる素朴な疑問でもよいですし、他の「こんなことが気になる!」でも、ついつい湧き出る妄想でも構いません。
すべては、何かを始めるためにうってつけの理由です。

それでも「やっぱり不安だな……」と思うことがあれば、
お気軽にログハウスのドアをノックしてくださいね。


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「データ分析のログハウス」は、旬刊『経理情報』2022年7月10日号からスタートした連載「「データ分析の森」ガイドマップ」との連動記事です。
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バックナンバー
第1回 ログハウスができたよ!
第2回 「データ分析の人材市場」を分析したよ!(※属性つき)


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