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中国の労働実態 996の意外な事実

日々のニュースや新聞で、労働問題を目にする機会は多いと思います。

労働にまつわる問題や取り組みは、私たちの生活に直結するものも多く、注目されています。中でも、労働時間や環境に関連するものは関心度が高く、近年働き方改革の影響もあり、多くの企業で取り組まれていることでしょう。

そもそも働き方改革が成立、施行された背景には長時間労働による根深い問題があります。

今回は、長時間労働に着目し中国の事情を考察していきましょう。



その前に日本の状況を簡単に確認しておきましょう。

経団連の報告によると、一般労働者(パートタイム労働者を除く)の年間総実労働時間は以下のようになります。

全体平均を見ると、年間2000時間となり年間休日120日とすれば、1日約8時間の労働となります。

年々減少傾向もあり、経団連の調査対象となる大企業では労働時間縮小の動きが見られるようです。

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一方で、こんな調査もあります。

デロイト トーマツ グループが継続実施している調査では、以下のように報告されています。

働き方改革による労働環境の改善を推進、実施している企業は9割にのぼるが、効果を実感しているのは約半数である

実施は進んでいるが、効果がないというのは有効な形では実施されていない、形だけの働き方改革になってしまっているともいえます。

また、日本は約99%が中小企業といわれています。多くの調査の対象とはならない中小企業の労働環境はなかなか見えてきません。資本も人材も少ない中小企業が働き方改革を進めていくのは簡単ではないため、多くの中小企業にとって難しい課題となっているのが現状です。



次に、中国の事情をご紹介します。

経済成長がめざましい中国でも、日本同様労働問題がしばしば話題になっているようです。その中のひとつ、”996問題”について考察してみたいと思います。

996というのは、「朝9時から夜9時まで週6日」働く勤務体制のことを指します。

中国も日本と同様に、労働基準法で1日8時間週40時間という定めがありますが、この996という働き方は基準法をオーバーした働き方です。


実はこの996、長時間労働であるにもかかわらず支持する人が一定数存在します。

アリババグループの、ジャック・マー(馬雲)や、中国のEコマース第2位の京東(JD)の創業者、劉強東らがその代表格です。

彼らは、自分たちの”若い頃死に物狂いで働いたことによって成功を手にした”という経験を元に、成功したければ長時間労働もすべきだと主張しています。ジャック・マー氏は長時間労働を奨励する意図はなく、長時間働く従業員に敬意を表したかったと弁明していますが、誰もが自分のライフスタイルを選ぶ権利はあるとしながらも、働く時間が短い人には

「一生懸命働いて得られる幸福感や見返りは得られない」

と話しています。

つまり、長時間働かなければ社会的な成功や地位は手に入らないという主張です。


これに対し、中国国内からは

「いくら若くても体力に限界はある、996のような働き方を続けたら家庭が壊れる」と非難の声が殺到しました。確かに、いくら成功のためとはいえ長時間過酷な労働を続けることは現実的に難しいでしょう。


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しかし・・・

過酷だと知りながらも、入社・・・?


実はそのような過酷な労働を課している企業だと理解した上で、入社している人も多く存在するのも事実です。

国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の初任給は月約40万円。日本の初任給の倍近くの金額です。様々な手当ても含めると年収は約1000万円近くになるといいます。20代から30代前半の年収と考えると、日本人にとってはなかなか考えられない金額ではないでしょうか。

ファーウェイを例に取ると、性別や年齢を問わず996、時にはそれ以上の長時間労働の実態があるようです。

しかしきちんと残業代が支払われていたり、深夜手当て等も充実しています。中国では休日に勤務した分は通常の2倍支払わなければならないと定められている為、働いた分だけ見返りがあります。

決して996文化が広がることに関して賛成はしないが、大企業で働く人にとって996は、安定とお金の面での保証があるため、ある程度納得しているようです。

長時間労働でも将来への希望が見出せたバブル期の日本のように、大企業の996労働者は希望を見いだせているからこそ耐えることが出来ているのかもしれません。


996の問題点

もちろん996の問題はいくつもあります。そのひとつは、

996という勤務形態だけが広まってしまい、一部の中小企業では手当てや保証もないまま過酷な労働を強いられているケースです。

経済成長と共に長時間労働が増加した上に、カリスマ経営者たちが996を支持しているという空気が広がり、声もあげられないままタダ働きさせられているという現実です。中国版Twitterと言われる微博で、「没有 加班费」(残業代が出ない)と検索すると、残業代が出ないことを呟いているユーザーがいくつも見つかります。

見返りのないまま長時間働き続けるのは、肉体的にも精神的にも過酷です。

日本で”ブラック企業””社畜”などと言う言葉がありますが、中国でも会社に消費されてしまっている労働者は多く存在します。



996.ICU

また、IT企業にも996が広まっており、中には抗議の声をあげる人もいます。2019年3月、「996.ICU」という名前のプロジェクトがGitHubに現れました。GitHubというのはソフトウェア開発のプラットフォームです。

この「996.ICU」という名前は、”996を続けていたら、ICU(集中治療室)行きになる”という意味で、996は違法であると呼びかけこの慣習を改善することを目的としています。

同様の環境で同じ思いを抱えている人は多く、IT業界を越えて世間でも話題になり、賛同する人も多く現れました。このプロジェクトは20万人を超える人に支持され、有志によって長時間労働を強いている”ブラック企業リスト”が作成されました。





企業や環境によって勤務形態は異なり、複雑で外部から見えにくい部分でもあります。仮に自ら希望し入社したとしても、健康を犠牲にした長時間労働の結果過労死してしまった例もあります。

労働問題は日中問わず身近で深刻な問題です。

中国市場を知る際には、背景にある労働環境や実態を把握することも手がかりの一つとなると思います。是非、注目してみて下さい。



本日は中国の労働について調査しました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみに。

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