【公演レビュー】2022年11月27日/岩見玲奈マリンバリサイタル

「源流」に始まり「神籬」でゾクゾク

~曲目~
一柳 慧:独奏マリンバのための「源流」(1990)
権代敦彦:マリンバのためのローズウッド霊歌(委嘱作品・世界初演)
石井眞木:マリムバ〔表記のまま〕独奏のための「飛天生動Ⅲ」(1987)
薮田翔一:マリンバのためのローツェ(委嘱作品・世界初演)
-休憩-
クリストス・ハツィス:ファティリティ・ライツ~マリンバとデジタルオーディオのための~(1997)
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調より「シャコンヌ」
西村 朗:神籬-マリンバと打楽器のための(委嘱作品・世界初演)※
共演:柴原 誠(打楽器)

過去と現在の日本楽壇の重要作曲家5人の作品が揃い、しかも現役の3人はいずれも奏者委嘱作品の世界初演と充実を通り越して大変そうなプログラム。
岩見玲奈は終始高い技量と集中力を注入して各作品に対峙した。

10月7日に逝去した一柳慧の30年ほど前の作品は透明で音構造が空間に位置づくさまが見て取れる音楽。やや旋律的要素もあり、「前衛の旗手」の自然かつ巧みな変容を感じた。聴いていて岩城宏之との「題名のない音楽会」におけるやり取りなども瞼に浮かぶ。合掌。

権代敦彦の新作は小さい要素をしつこく重ねて、ある種の音曼荼羅というか、内的到達性に至る作曲家の特徴がぎっしり刻印される。ポンと解放される体の終わり方も面白い。

生前の活動の旺盛さからすると没後20年を前にやや忘れられ気味な石井眞木の曲は、いかにもというしつこめのガムラン風喧騒のある展開ながら、進んでいくと割合あっさりした質感に帰着する。正直過渡期調の音楽の多いひとで作曲外活動と合わさって目立った点が、死後名前が上がらなくなった理由だろうがいい作品は聴かれてほしい。

中堅世代で際立つ存在の薮田翔一。若干粘液質の推移による音の間から湧き出るエネルギーが豊かな音楽。しかも全体は研ぎ澄まされた骨格を維持する。締め括りもきれい。変な言い方だが作曲が上手く、音楽視座のしっかりした作曲家。

神職の端くれなので西村朗の作品タイトル「神籬」には目を見張った。
序盤、共演者の柴原誠の大太鼓に始まり、マリンバの重いざわめきと続くところは祭祀の始まりと警蹕を想起させる。続く強靭で緊迫した両者の響き合いは原始の鼓動に静謐さも流れるもので背筋がゾーっとする。終盤は冒頭との連続性のある動きで緻密に導かれ、深い余韻。重鎮の新鮮な底力。

前回の投稿で記した音楽に比して出来ばえの差は歴然。
名前の知られる、名前の残っている作曲家にはちゃんと理由があるという当たり前の事実を改めて認識した。

※文中敬称略


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