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あきら
2023年10月6日 14:56
夢だと自覚する夢は何度かみたことがあった。夢でなければいいのにと思う夢は、初めてだった。 名前も知らない色の空だ。 紺と紫の夜の裾と、オレンジと赤の朝の気配が、遠い山の稜線の程近くで滲んでいる。すぐ近くで星や月がずいぶんと穏やかに光っていて、その輝きはまるで水の底に落ちた硝子のようだった。 ぼんやりとしながら自分のすぐ脇を見ると、白い塗装がざらざらと剥げた木の縁がある。そこへそろりと手を
2022年9月7日 11:19
それはある日突然だった。目の前のよく見知った人物の肌に、きらめく "鱗" が現れる。そんな現象が、世界全土で突然始まったのだ。鱗が生えた本人も見ていた他人もみんな、狼狽えた。性別、人種、年齢、病歴、それらなんの規則性もなく、たくさんの人々の"変化"がはじまった。割と早い段階でその現象はウイルスや感染といったものとは無関係であることが証明され、「いつ自分も発症するか分からない恐怖」という点に
2021年9月9日 10:12
街に心優しい王子の銅像が立っていました。王子はつばめにたのんで彼の金箔や宝石を貧しい者たちへ配りました。そうして。銅像の王子は薄汚れた灰色の像になり、両目を失います。つばめは、「わたしはどこへも行かず、ここであなたの目になります」と言いました。_____冬が訪れ雪が降り出し、寒さに弱いつばめは、王子に別れを告げると足元に 落ちて力つきました。その悲しみから王子の心臓もはじけてしまいました。王子の
2021年8月19日 20:29
おまえはどうして、そんなに透明なんだろうなあ肌が透き通るようだとか透明感があるだとか、そんな褒め言葉なんかじゃないとすぐに分かった。至極真面目にそう呟いた男の顔は、別段興味もないくせに可笑しいものでも見るみたいな、なんだか、無性に苛立たしくて腹が立って悔しくて涙が出てしまいそうになるような、そんな顔だった。なんの返事もせずに、なるだけ緩慢な動きで顔を逸らした。迫るほどに重たい鉛色の雲が空
2021年8月12日 12:36
蝉が、遠くで止むことなく鳴いている。生成色の壁に反響しながら、何処か責める様な静けさで部屋の中に沈殿していく。心なしか足下は、ひやりとした予感に満たされているような気がした。その予感は日々、緩慢なスピードで密度を増していく。僕は気づかないふりが上手くなった。都合の良いことだけ、苦しくないものだけを見る様にすることにも慣れた。こうして立ち尽くして壁に向かいながら、今だって悲しみの気配に気づかな
2021年8月2日 12:18
震える指で星の間を縫ったステッチは、見えないオリオン座を結んだ。その指と吐き出される息は白い。蓄光したみたいにぼんやり光りながら、夜に存在していた。君も私も見えない。まるで始めから居なかったみたいに。辛うじて形を持つのは、何かを探ろうと躍起になる、君の震える指だけだ。「このまま夏の星座まで辿るよ。だから」少年は怯えているようだった。かちかちと歯が鳴る音が、耳鳴りと一緒に風に乗る。寒さか