[小説] リサコのために|066|十三、再戦 (6)
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リサコぉぉぉおおおおぉ!!!!!
《ヤギ》がバカでかい声で言った。その波動でリサコやオブシウスたちは後ろの方まですっ飛んでしまった。
刀がリサコの手から離れて遠くの方へと転がった。
もう少しで自分を切ってしまうところだった。
「わかった、行くよ!そっちに行くから、お願い、お願い黙って!」
リサコは念のため、これまで訓練して来たとおりの段取りで台詞を言った。
言いながら落とした刀に向かって走り拾う。
お前らぁ 誰だぁ?
オブシウスたちを視認したのか《ヤギ》が言った。
「もっと小さい声で喋ってくれる?」
オブシウスが言った。
誰だぁ?
言いながら《ヤギ》は床をドンと拳で叩いた。
「98だ」
タケルが言った。ここまで、この《ヤギ》はリサコたちが体に染みつくほどに訓練してきたシミュレーションから外れない動きをしていた。
問題は巨大なだけだ。デカいだけ。これならやれるかもしれない。
「あたしたち武器持ってないけど…」
「なんとかしよう」
アイスとオブシウスが会話しながら No.98 のフォーメンションを取る。
タケルがリサコの後ろにつく。
《ヤギ》の口からこん棒のような舌が伸びて、アイスを攻撃してきた。
アイスはそれをサッと避ける。
ここまでリサコもよく知る No.98 の動作の通り…。
と、そう思った瞬間。
リサコぉをちょぅぅぅだぁぁぁあいいい!!!
《ヤギ》が最大ボリュームで叫んだ。音圧が壁のようにリサコたちに激突する。
リサコはまた後方まで吹っ飛ばされてしまった。
咄嗟に刀から手を離し自分を守った。
リサコとぉせぇぇっくすがぁぁあしたあぁぁいい!!
再び《ヤギ》が叫んだ。リサコたちは吹き飛ばされないように床にしがみついた。
「何言ってるんだあいつ??」
戦闘に参加しないために一番後ろにいたガイスが言った。
リサコがぁうまれるぅううとこみたぁぁああいい!!!
鼓膜が破壊されそうだった。リサコは両手で耳を抑えた。
「うるせぇ! クソヤギがっ!!!」
アイスが立ち上がって《ヤギ》の方へと走って行った。
オブシウスが彼女の名を呼び引き留めようとしたが無駄だった。
アイスは弾丸のように走って《ヤギ》の足元まで行くと、胡坐をかいている膝に向かって思い切り蹴りを入れた。
ぐがぁぁっぁあああ!!!
《ヤギ》は恐ろしい声で吠えると膝を抑えて痛がった。
いたぁぁあぁいいい!!
「こいつ、物理攻撃が効くぞ」
《ヤギ》の声で吹っ飛ばされて戻って来たアイスが嬉しそうに言った。
彼女はニヤニヤと笑みを浮かべていて、どうやらゾーンに入ってしまったらしい表情をしていた。
「アイス、無茶しないで」
オブシウスが言うと同時に、今度はタケルが《ヤギ》に向かって走って行った。
「曜子! リサコをたのむ!」
言いながらタケルは《ヤギ》の右側へと走り、続いてアイスが左側へと走った。
オブシウスはため息をつきながら「まったく…曜子って呼ばないでよね」と呟きながら立ち上がると、リサコの手を取った。
「リサコ、私があなたを持ち上げるから、《ヤギ》の首を狙って」
リサコは頷いて刀を拾うと、オブシウスについて走った。
彼女がバレーボールのレシーブのようなポーズをしたので、その両手に足をかけ、リサコは飛んだ。
事前に融合していたアイスリーとエルの身体能力が効果を発揮し、リサコは高く飛んだ。
タケルとアイスに膝を蹴られ、その痛みに一瞬動きが止まっている《ヤギ》の顔が真下に見えた。
今! ここ!
リサコは思い切って刀を振り下ろした。
さすがに剣術をそこまで鍛えてなかったので、空中で横に切ることはできず、リサコは《ヤギ》の額を縦にぶった斬った。
ドバァと額から体液が噴き出し、リサコは《ヤギ》の血を思い切り浴びてしまった。
気色悪い血。リサコは以前にもこの血を浴びてしまったことを思い出した。
吐き気が襲ってきたが、リサコはぐっとこらえた。
「リサコ! 首を斬れ!」
タケルが叫んだ。《ヤギ》を見上げると、ゆっくりとこちらに向かって倒れてくるところだった。
リサコは《ヤギ》の体をよけ、横に回ると、ちょうど目の高さまで傾いて来た《ヤギ》の首を、まるで大木を切るかのように刀を振り下ろして切った。
巨大な《ヤギ》の首は一度は切り落とせなかったので、リサコは何度も刀を振り下ろし肉を切った。
《ヤギ》はAIの一種なのでは? なぜこんなに肉々しいのか…リサコは自分の体から解離しはじめた思考でそう思った。
それから、《ヤギ》を切っても終わりでないことも思い出した。
倒れ込んだ《ヤギ》のお腹あたりをかき分けて、リサコはあれを見つけた。
不気味なおかっぱ頭の日本人形。どういう構造なのか不明だが、本体はこっちなのだ。
そいつは、《ヤギ》のごわごわの毛の中に隠れていた。
まるで腹話術の人形のように口をパクパクさせて「くそぉ~ボクのむーたんにぃぃいいいい!」と言っていた。
リサコは自分でも驚くほどに冷静に、それの首をすっぱり斬り落とした。
(つづく)
[小説] リサコのために|067|十四、再構築 (1) →
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