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リーディングシアターvol.3「RAMPO in the DARK」6/23公演(佐藤拓也、正木郁、茅原実里)を観てきました!

RAMPO=乱歩です。そう、我が国における推理小説の先駆け的な存在である江戸川乱歩。その独特な怪奇世界を豪華声優陣が表現する朗読劇企画、それが「RAMPO in the DARK」です。

江戸川乱歩の魅力とは

先ほど推理小説の先駆け的な存在と書きましたが、乱歩作品の凄さはそれが独特のおどろおどろしさで彩られているところにあると思います。

誰しもが心の何処かに抱いている闇の領域をことさらに覗き込むかのような心理描写。疑心暗鬼がさらなる疑心暗鬼を呼び覚まし、なにが本当でなにが虚偽か分からなくなる倒錯の合わせ鏡。そんな怪奇幻想の中に潜む恐るべき真実。そしてラストは霧が晴れるかのように事件の謎が解き明かされていくカタルシス。後に残るはなんとも言えない残り香のような余韻。

…といった感じで、乱歩の作品はとかく「怖さ」「不気味さ」「異様さ」をベースに語り手の精神を揺さぶり、読み手をその勢いで語り手の精神世界に引きずり込んでしまうのです。だから面白い。だけど怖い。怖くてもページをめくる手は止まらない。この独特の「怖いもの見たさを誘発する」演出が江戸川乱歩作品の魅力なのだろうなと思います。

読んでから観るか、観てから読むか

さて、今回のリーディングシアターvol.3「RAMPO in the DARK」で声優陣が演じたのは、乱歩の作品より「疑惑」「陰獣」です。それぞれどのようなお話しなのか、まずはチラシの記述をなぞってみましょう。

酒癖が悪く、家族への傍若無人な振る舞いが絶えなかった父親の命が自宅の庭先にて何者かによって奪われる。母、兄、おれ、妹…家族同士がそれぞれを疑い合う地獄のような日々を描いた「疑惑」

探偵小説家の「私」は愛読者である美貌の若妻・小山田静子から奇妙な相談を持ちかけられる。静子の元恋人であり文壇を騒がす探偵小説家・大江春泥から、夫婦生活が克明に描かれた脅迫状を受け取り執拗なストーカー行為を受けているという。静子に惹かれる思いと、春泥への興味から事件を追う「私」。大江春泥とは、陰獣とは何者なのか…巧みな心理描写と息をもつかせぬ展開で魅せる「陰獣」

いかかでしょうか?まだ読んだことがない貴方も、どんな物語なのか興味を惹かれたのではないでしょうか。

実はこの二篇、インターネットが見られる方であればネット上の青空文庫でいますぐにでも読むことが可能なのです。

私も乱歩氏の小説は「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」「パノラマ島奇談」などを読んだことがあるのですが、「疑惑」と「陰獣」は未読だったのです。

読んでから観るか、観てから読むか。私は後者を選択しました。声優(特に私の場合は茅原実里ちはらみのりさん)の演技を見に来たのだとはいえ、やはり乱歩氏の作品は語り手と同じ目線でその世界観に怖れおののきつつ謎解きに挑みたいという思いがあったので。結果的に言えばそれで大正解だったわけですが。

声優たちの “怪演” に息を飲む

私が観に行ったのは6月23日。この日登場した佐藤拓也、正木郁、茅原実里(敬称略)のお三方はいずれも声優という枠を遥かに超えた“怪演”を魅せてくださりました。

やっぱりベテランの声優さんっていうのは凄いよね。
いまさらなに言ってんだって感じでしょうけれども。

プロなんだから役に対して気持ちを入れて熱演するのは当たり前。ですが、乱歩の世界はそこに「狂気」というエッセンスが加わるのです。

ここで難しいのは、それぞれの人物は初めから狂っているわけではないってこと。最初はまともだった者が事件に深入りしていけばいくほど異様な精神世界に引き込まれていくように、最初は遠慮がちだった関係が親密になっていけばいくほど狂気の度合いを増していくように、声が、態度が、目つきが変わっていく…。その有り様を見せつけることが「RAMPO in the DARK」における声優の演技であり、それは熱演を超えた“怪演”と呼ぶに相応しいものであったと私は感じています。さすが「in the DARK」って言うだけのことはありますね。

そういう意味では今回の企画、「朗読劇」と銘打たれてはいますが、声の演技というよりもはるかに芝居寄りの方向性であったように思います。乱歩的世界の在り方が声優諸氏に対してそのような役付けを図らずともさせしめたといったところなのかも知れませんが。

みのりんのみどころ~妖艶の魔女

我らがみのりんこと茅原実里さんは後半のお話し「陰獣」より登場します。

役名は小山田静子。実業家である小山田六郎の妻であり、この物語における事件捜査の依頼人として登場します。

依頼を受けるのは物語の語り手であり、探偵小説家を生業としてる「私」こと寒川(本作における事実上の探偵役)。静子が言うには「かつて付き合っていた男に脅迫されている。しかも知らぬ間にストーカー行為までされているらしい」と。脅迫しているという男の名は大江春泥。寒川と同業の探偵小説家であるものの、その素性は謎に包まれているという。謎と言えば気になるのが、静子のうなじからおそらくは背中に至るまで「赤黒い毛糸を這わせたように見える」みみずばれの跡。あれはいったいなんなのか?

ともあれ事の真相を突き止めるべく知人の外交記者に聞きこんだり奮闘する寒川ではありましたが、その甲斐もなく春泥から届いた脅迫状の予告通り静子の夫である六郎は殺害されてしまうことに。そして時は過ぎ、故人の命日に起こったとある出来事が発端となり、とうとう寒川と静子は男と女の関係になってしまうのですが…。

このとき、観ている私の呼吸が一瞬止まりました。

作品ではこのシーンはこう描かれています。

廊下には庭に面して、幾つかのガラス窓が開(あ)いていたが、私達がその一つの前を通りかかった時、静子は突然恐ろしい叫び声を立てて私にしがみついて来たのである。

茅原実里さんの演ずる静子から発せられたその声?は喉の更に奥から出てきたような、声とも吐息とも説明のつかない一瞬の悲鳴でありました。それがあまりにも唐突で、凄過ぎて…。

なんなんですかあれ。

人間誰しも不意に後ろから触れられたりしたら声にならない声が出たりするじゃないですか。でも、じゃあ、自分で狙ってその声が出せる人いますか?

あらためて思う。このお方は魔性だ。
絡めとられたら逃れられなくなってしまう。

現に寒川はこのことがきっかけで静子を抱き寄せ、口づけを交わしてしまうのですから。これまで人妻と言う立場で色っぽくも貞淑さを崩さぬ振る舞いをしてきた静子ですが、未亡人となり果てたこと幸いと言わぬばかりの勢いでその本性を表していくのです。激しくて、淫らで、情熱的で、艶めかしい肉体を晒しながら自らの性癖を満足させしめんと追い求める、獣のようなその姿を…。

その妖艶の魔女たる演技…目線、表情、仕草…それらすべてが大袈裟ではなく息を飲むほどのもので、文字通り目が釘で打ち付けられたかの如く、視線を逸らすことができなくなってしまうのです。繰り返し申し上げますがこれは誇張ではありません。これを書いているいまもあのときの情景を思い出すと鼓動が高まり、息が苦しくなってしまうのですから。

とは言え、まだまだ謎が隠されたこの「陰獣」のお話しについて触れるのはここまでにしたいと思います。やはりこの話は皆様にも読んでほしいと思うので。「陰獣」とはいったい誰のことなのか?そして六郎殺害の真相とは?最後は江戸川乱歩の小説らしく、あっと驚く展開が待っています。その謎を解明するシーンもまた「RAMPO in the DARK」の見どころなのです。佐藤拓也さん頑張りました!続きはぜひ原作を観てみてくださいませ。「RAMPO in the DARK」の配信チケットも販売されているそうなので(各公演LIVE当日を含め7日後の21:00迄とのこと)、声優諸氏の演技に興味ある方はこちらもぜひチェックしてみてください!


会場である神田明神ホール前でみのりんファン同志たちと合流(終演後はもうすっかり陽が落ちておりました)。皆様と感想を取り交わしたのですが、口々に言われたのが、

「あんなみのりん初めて見た」


ということ。

これまで声優のみならず演劇の経歴もあったというみのりんですが、それらを見てきた歴代ファンの皆様ですらそうなのです。いったいこのお方はどれほどの引き出しをご自身の奥底に隠し持っていらっしゃるのかと。

何度も繰り返すようで恐縮ですが。
今回の演技は声優と言う域を超えたものであったと思うのです。

それだけにこれからのご活躍にも目が離せません。

次はどのような世界を魅せてくださるのか。それは演ずる作品次第でもあると思います。私的にはまた江戸川乱歩で見てみたい気がしますが、谷崎潤一郎とか田山花袋もいいなぁ…。あぁどうしてもそっち方面に妄想してしまういけない私をどうか赦してみのりんっ!!

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