見出し画像

わたしが“わたし”でなくなる瞬間、だれかの「創作物」の一部になること

メディアでエッセイやコラムを書くとき、わたしは基本的にプロフィール写真をこのnoteと同じアイコン――友人に描いてもらった似顔絵に設定して頂いている。しかしながら「顔写真で」と指定があったり、顔写真の方が有利だったりする媒体(美容やファッション系など)もあるわけで、ここ最近のまともな写真が結婚式とハネムーンのときのものくらいしかないわたしは、思い切ってInstagramでいわゆる「被写体募集」をやっているカメラマンさんにDMを送ることにした。

大学生くらいのときに、実は何回か被写体モデルやサロンモデル(もどき)をやっていたことがある。まあサロンモデルのほうは好きな髪型にできないという理由ですぐにやめちゃったんだけど、被写体はお声がけ頂く機会が数回ほどあったので続けた。単純に報酬に釣られたというのもある。

最初に「被写体」を始めたきっかけは、あまり覚えていない。たしか渋谷で声をかけられたかなんかだった気がする。そのときのわたしは、ちょうど「“女の子”にならなければいけない」と強く思い込んでいた時期だったので、今よりもいささか“女の子”らしい服装に身を包み、髪型も肩につかないくらいのボブに整えていた。

でも、写真の中のわたしには、そんなわたしのぐちゃぐちゃとこねくりまわした内側は存在しない。カメラマンさんの撮るわたしは、カメラマンさんがシャッターを切る瞬間に「わたし」ではなくなるのだ。わたしはその瞬間、たしかに“個”を失う。独立した「個人」ではなくなり、写真を構成する一要素に過ぎなくなる。

人前に出ることがそこまで得意でないわりに、被写体をするのだけは好きだった。自分の容姿はあいかわらず嫌いなままだけど、写真の中の“わたし”には、そんなこと関係なかったから。わたしの趣味嗜好、好悪や思考、感情、なにもかもがその場ではゼロになる。その感覚が心地よかったのだ。とはいえ、本格的にアカウントを作成したりしてやる勇気はなかったので、あくまでお声を頂いたときにだけに機会は限られていたのだけれど。

言ってしまえば「容姿が整ってもいないのにモデルもどきみたいなことをやるなんておこがましい」という気恥ずかしさがあった。腹のうちは思春期のころから15年近く世間に垂れ流し続けているくせに、何を今更という話ではあるのだが。

普段わたしは、いうまでもなく「創作をする側」だ。しかし写真では、わたしはだれかの創作物の“要素”になる。その真逆の感覚も好きだった。出来上がった写真を手にしてモデルさん気分を味わうのももちろん非日常的で楽しいのだけれど、わたしはシャッターを切られているときのほうをより楽しんでいる気がする。だれかが創るものの登場人物になるという体験は、ちょっと他では味えない。

今回約5年ぶりに(必要に駆られたからとはいえ)他人の創作物の一要素になったのだけれど、やっぱり楽しかった。夫もカメラが好きだから夫に撮ってもらうことも考えなくはなかったのだけれど、それじゃ単なる日常の一部になってしまう。そこに映るわたしは普段のわたしだし、腹の中まで丸見えだし、なにより照れてヘラヘラと笑ってしまうため仕事のプロフィール写真としては使いものにならない。もちろんこれは夫の腕の問題ではなく、わたしの問題だ。

物語を創る人間として、リフレッシュもできた。これからも機会があれば、定期的にだれかの「創作物」の一部になれたらいいなあと思う。でもInstagramを更新しなさ過るせいで不審なアカウントみたいになってしまい、カメラマンさんにDMをしても既読すらつけてもらえないことが多いんだけど。怪しい人間じゃないんで、ほんと。(オメーなんか撮りたかねーやって意志表示だったら、それはまあ、スミマセン。)

ちなみに、今回撮影していただいた写真をカメラマンさんがInstagramに投稿してくださった。

このpostでもうすでに、わたしが“わたし”ではなくなっていることが感じられてぞくぞくした。撮影していただいたカメラマンさんはとっても素敵な写真を撮られる方なので、ぜひアカウントを覗いてみて欲しい。まだ全部のデータは受け取っていないのだけれど、今から見るのが楽しみである。

―――――

ひとつ、この場を借りてお知らせ。
今まで小説以外でマガジンをあえて作ってこなかったのだけれど、さすがに先日バチェロレッテのレビューを書いたあたりからカオスを極めだしたので、ひとつだけエッセイのマガジンを設けることにした。

マガジンのタイトルは「午前2時のハニー・パイ」という、なんというか気取ったものなのだけれど、これは深夜に甘いものを貪り食いたいとかそういうわけじゃなくて、わたしが主にここでつらつらと書いている辛気臭いエッセイは深夜の2時に更新することが多いからこれに決めた。ハニー・パイはビートルズのホワイト・アルバムに収録されている曲から。別れた恋人への未練タラタラな歌詞が、わたしの辛気臭いエッセイと重なる気がしたので。

もちろん、辛気臭いもの以外もこれまで通り書いていく。そちらについては特にジャンル分けしないけど。とりあえず以上。

読んでくださってありがとうございます。サポートは今後の発信のための勉強と、乳房縮小手術(胸オペ)費用の返済に使わせていただきます。