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東欧の独裁国家ベラルーシ、地政学的要因から人権侵害が放置され続ける国-3

・インフレし続けるベラルーシ・ルーブル

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(ベラルーシ・ルーブルと米ドルの為替レート。ちょうど20年前の2001年10月と比べると米ドルに対して価値が約24分の1になっている)

E:ベラルーシのインフレ率は結構高いみたいだけど、体感的にどう?

A:そりゃ酷いわよ、5年前にはデノミ(Wikipedia:デノミネーション)でゼロが4桁削られたもの。
一晩で10000ルーブルが1ルーブルになったの。

今の公式レートは1ドルが2.5ベラルーシ・ルーブルくらいだけど、もちろんこんなのフェイクで、すごいスピードでインフレしてくわ。

E:じゃあ実際のレートはどれくらいなの?
イランとかだと公式レートと実際に両替できるレートが全然違うらしいんだけど。

A:エコノミストならベラルーシ・ルーブルの本当の実力を知ってるんだろうと思うけど、銀行に行けば1ドル2.5ルーブルで両替できるし、基本的に銀行以外で両替は出来ないわ。
最近、私の周りでは仮想通貨に替える人がどんどん増えてるわね、私自身もそうしてるし。
とは言ってもベラルーシ全体の中ではまだ少数派だと思う。
ベラルーシではそもそも、その日、その月に必要な額以上に稼いで貯金できる人が少ないんだけど、でもベラルーシ人は貯金をするとなったらルーブルで貯金することは絶対にない。米ドルやユーロで貯金するわ。
今の物価だと2.5ルーブルでパン一個か牛乳2本が買えるわね。
ポーランドに住んでた時、これ米ドルだといくらって聞いても、みんな変な顔するのね。
「なんでわざわざドルでいくらか知ってる必要があるの?」って。
そのうち、ポーランド人にはズロティ(ポーランドの通貨)での値段が分かればそれで十分なんだって気づいた。
ベラルーシ人は食べ物の値段以外は全部、米ドルならいくらかって考えてるのに。
うん、そう、実際ポーランド国境に近い、ベラルーシの西に方に住んでる人の中にはドルやユーロじゃなくてズロティに替える人もいるのよ。
だって彼らはポーランドで働いてたりするし、何よりズロティは結構強い通貨だから。

E:ポーランドには5、6回行ったことあるけど、だいたいいつもユーロの4分の1くらいで安定してるよね。

ベラルーシ、デノミで硬貨が登場 (https://jp.sputniknews.com/world/201607012403804/

・物価に対して安すぎる賃金 

E:例えば俺がベラルーシに引っ越したとして、英語だけで仕事見つかる?

A:もちろん無理よ。
英語が喋れたらプラスにはなりはするけど、ロシア語がしゃべれないと。
だってここはベラルーシで、ソ連人が住んでるんだから。

レジ係でもエンジニアでもほとんどロシア語しか喋れないわ。
表記は全てロシア語かベラルーシ語か、たまに中国語でしかされてないから。
ほら、中国の商品はすごくハイテクなのに安いでしょ。

E:ベラルーシには中国人が沢山住んでるの?

A:そんな多くはないけど、留学生のための特別なプログラムがあって、その中には卒業後もベラルーシに残る人がいるわね。
だってベラルーシは彼らにとってはすごく安くて、豪遊出来るじゃない。

E:スーパーで1時間働いたら、どれくらい稼げるの?

A:普通は日給で、1時間でいくらって感じじゃないのよ。
でも12時間働いて15ドルくらいね。
レジ係の平均的な月給は週5で働いて300ドルくらいよ。

週2で働いたりも出来るわ。
政府によって、それぞれの職種で月にいくら稼げるか決められていて、スーパーの店員だと、上限が約300ドルってこと。 
小さい町で働いてる私の友達は週5で働いて、もうその仕事5年やってるけど月に250ドル(約27000円)しか稼げない。
もちろんIT関係で働いてる人は今でも色々買ったりクラブに行ったり出来るけどね。
例えば私は英語も、それなりのポーランド語も喋れるけど、今、働いてない、普通の仕事が見つからないから。
食べ物を買えるように小さな仕事でもいいから欲しいと思ってるけどね。

E:250ドルは十分な額なの?

A:全然足りないわよ。
例えばミンスクで生活するには最低でも500ユーロ(約65000円)はいる、最低でもよ。
更に酷いことに、物価がどんどん上がっていってるの。
ガソリンを買おうと思ったら、いつも先週よりも一枚コインを多く払わないといけない。
食料品の値段も、ベラルーシの給料水準からだと高すぎるのよ。

・ソ連時代は宗教が禁止されていたが、現代のベラルーシ人は信心深いのか?

A:すごく信心深いよ。
ウクライナ人はもしかしたらそこまでではないかもしれないけど、ロシア人とベラルーシ人はとても信心深いと思う。
みんな東方正教会かカトリックの文化の中で育ってるから。 
歴史的にも宗教とは切り離せないし。

E:でも宗教が違法だったソ連時代に信心深い人たちはどうしてたの?

A:もちろん無宗教の唯物論者になった人も一部にはいたけど、多くの人は隠れて、それこそ地下室とか地下のトンネルの中とかでこっそりと礼拝したり洗礼を施したりしてたの。  

E:じゃあある意味、今日でのパンクコンサートみたいなものだったわけ?

A:うん、まさにそんな感じかもね。

・ロシアとヨーロッパの緩衝地帯としてのベラルーシ

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(去年、ベルリンのPotsdamer Platz駅の前で偶然撮影した、赤白赤の旗を身にまとってルカシェンコ政権に抗議する人々。この#FREEDOMBELARUSと書かれた石は2021年10月現在、まだ同じ場所にある)

E:実際、どういう人たちがルカシェンコを支持しているの?ベラルーシの大金持ちとか、ロシア政府とか?

A:まずロシア政府は支持してるわね。
それに大金持ちじゃないごく普通の人や、最下層の労働者とかも支持してるわ。

E:プロパガンダを真に受けてる人とか?

A:うーんと、多くは右寄りで信心深くて、実際何が起こってるのか把握出来てない人たちね。
若者たちは自棄になってて、恐喝したり人を殺したり、酒やドラッグに溺れたり売春に走ったりしてる。

E:ベラルーシでは若者の可能性は限られてるってこと?

A:私が思うには……もう私たちに出来ることはないわ。
状況を変えられるタイミングを逃してしまったから。

E:どういうこと?

A:だからタイミングを逃しちゃったのよ。
革命を訴えて通りに繰り出すようなタイプの人はすでに逮捕されているか、殺されてるか、自分や家族を守るためにベラルーシを出ているから。
今でもベラルーシに残ってる人は政府のやってることに怯えている。
そして政府の残虐行為を本気で止めようとする外国の政府もいない。
内政不干渉みたいな国際法もあるじゃない?
もしもルカシェンコが暗殺されたりしたとしても、ロシアのエージェントが次の大統領になるわ。
ベラルーシ人は実力行使で政治を変えようとするメンタリティじゃないと思うし、武器を持ってないから武装して立ち上がることもない。家族だっているし。
第二次世界大戦の頃と違って、今の人は暴力に慣れてないし、状況を変える力はないと思うわ。
それにヨーロッパはベラルーシ人を助けたいとは思ってない。

E:いずれにせよ、ルカシェンコが辞めるなり死ぬなりしても、ロシアの傀儡政権が出来ると思ってるわけだね?

A:そう思ってるわ。
その過程でもしかしたら民衆が決起して政治家を全員処刑したりするかもしれない。
でもそれの可能性はかなり例外的だと思う。

E:ベラルーシに友好的な国はないの?

A:ないわ。
EUとかどこかの国際機関とかがチェルノブイリからの保養を提供してくれたり、たまにベラルーシ人に支援金みたいなのをくれたりすることはあるけど、結局のところベラルーシ人は奴隷なのよ。
EUはロシアと直接国境を接しないことに最大の関心があって、ベラルーシに住んでる人の人権とか生活は二の次、三の次なの。
悲しいけど、出口はないわ。
私たちは誰かや何かやどこかの国に依存していて自由な民じゃない。 
同じ東欧の元共産主義国で革命を起こしたルーマニア人みたいなメンタリティじゃないのね。

(テレビで生中継されたルーマニア革命の様子)

ベラルーシはロシアの属州みたいなものだけど、西側はベラルーシ人が完全にロシアに併合されることを好まないし、ロシアはベラルーシが西側につくのを好まない。
要は、ロシアもヨーロッパもお互い直接国境を接したくないのよ。
ベラルーシ人がずっと夢見続けているのは、本当の意味での国家主権を持つことよ。
けど実際は、ヨーロッパとロシアという大国に挟まれたベラルーシは両方にとっての緩衝地帯であり続けることが求められてるの。
西側と東側の間にあるという地理的な条件に翻弄され続けている訳ね。



ベラルーシでの実際の生活がどのようなものかよく分かる本。


2015年ノーベル文学賞受賞作。

















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