見出し画像

冬の用意を着実に進める渋谷ハチ公。


夏模様で冬準備。

冬装備の参考にmen's NON-NOを買いに本屋に向かう。昨日までの雨が嘘だったかのように太陽が顔を出している。

日中は20°Cをゆうに超え、半袖でちょうど良い。夏が忘れ物をしたかのように戻ってきた。Tシャツ一枚をタンスの奥から引っ張り出して、一定のペースで自転車を漕ぐ。

目的がはっきりとしていたし、普段の本屋巡回ルートも軽く済ませて、men's NON-NOとダ・ヴィンチの2冊をレジに運び、会計に進む。特にイレギュラーもなく、本屋での買い物を済ませた。

アイスコーヒーと人の目。

行きつけのカフェに入る。割と店内は空いていたが、入り口のすぐ横で、ガラス越しに外からたくさん見られる席に案内されてしまう。どうしてそこに通されたのかは分からず、居た堪れなくなってしまい、コーヒーの注文と同時に席の移動をお願いしてみた。

「一度相談してみますので少々お待ち下さい。」
そう言い残して立ち去った。

私が色々と注文した店員はホール全般を担当していて、オーダーを受けた直後にレジに追われていた。頼んだコーヒーが違う店員から届いたとき、数人が次々と入店してきたのもあり、移動は厳しいかと思った。無理なお願いをして仕事を増やしてしまった自分を少し責めながら、コーヒーフレッシュを淹れる。

コーヒーが届いてから5分ほど経過した頃、諦めてスマホをいじり出したときに、先ほどの店員が戻ってきた。

「お待たせしました、違う席にご案内します。」

テーブルにあったコーヒーをトレーに乗せながら、私を先導してくれた。
RPGのように後ろにぴっちりついて、店員を追った。

案内してくれたのは、この店の中で最も人の目から除外されていそうな、一番奥の席に通された。
極端な例で笑いそうになったが、とにかく落ち着けそうな席に変わったことに精一杯の感謝を伝える。

本日の目的はただ一つ、読書に耽りたかった。


先ほど購入した雑誌類ではない。それは家で読めばいい。雑誌は割と気軽に読めるから空気感の違うカフェでなくても読める。

Ground Yのトートバッグから取り出したのは、自宅からこの為に鞄に入れてきていた、単行本版の「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」だ。

読む目処もついていないのに本を買っていた時期に、単行本を購入していた。

しかし、読書のモチベーションと(この波がなかったらもっと効率よく進んでいるはずなのだが、難しいねぇ)、そのときに読みたい順に合わせて読書していたことで、ずっと読まず終いになっていた。

そして今年9月になり、文庫本としてまた発売されると話題になっていた。内容も一部加筆され、また強くなって帰ってくると盛り上がっていた。

この話題性に、自分も乗り遅れたくなかった。半強制的に読まなかったら次のステップに進まないと焦り、義務感半分でカフェに到着した。

離陸する。

まだ読み始めたとも言えないほどだった。キューバ旅行のエッセイ集なのに日本を飛び立っていなかった。目次と冒頭の写真を眺めたことまでしか記憶になかった。
読み終わるまでは店を出ないと決めて、本をメインに集中しつつ、途中でスマホをいじり、SNS散策をしつつ、LINEでやり取りしながら時間は過ぎていった。

隣の席に座っていた親子は、パソコンと向き合っているサラリーマンに変わっていた。紆余曲折あって4時間で完結した。

著者が、旅の模様を事細かに覚えているのか、その都度メモをしていたのか、記憶が鮮明なうちに書き上げたのかは、数年後に書籍化されてから認知した私にはわからなかった。ただ、情景がとても頭に浮かんだ。

合間合間に写真が挟まっているのもあるが、そこで出会った人の特徴や、現地ならではの文化や人々の考え方と接し方、名所、経験が想像しやすい。


例えば、観光の名所として最初に訪れていた革命博物館では、キューバという国を率いたリーダー、ゲバラに焦点が当たる。

飾られている展示物や写真から感じ取ったのは、革命を起こすという、命を懸ける戦いに挑む、「目」だった。

私たちは幸運なことに、争いがない時代に生きている。そんな私たちが人生単位で願うことといえば、平均より良い生活をしたい、長生きしたい、お金を稼ぎたいといったように、長い期間で命を捉えた考え方を持っているが、ゲバラは全く違った。

この地、キューバを良くするためにそのときに全てを懸ける。命はそのために使う。その瞬間に注ぎ込む。それがゲバラだ。
私欲以上のなにかを勝ち取りにいくという「目」は私たちとは輝きが違う。

命を使って、勝ち取りにいく。それだけの熱量が人を動かし、民を率いて、国を前に進めていった。
その姿を感じ取った著者は、この本に文字をしたためて、読者一人を動かしたのだ。私はこの一連の流れに興奮して、闘志が燃え滾った。


私はキューバに足を運んだことがないので、所謂固有名詞には親しみがあまりない。
故に横文字の羅列には弱いのだが、タイトルのオシャレさと名所の名前とは裏腹に、目線がずっと固定されている。

過剰な広げ方をしているわけでもないし、真面目に淡々と事実を述べているわけでもない。ただ、著者本人がその場で見たものや会った人、感じたことを過去の自分を入れながら進んでいく。

日本という国では見えてこないものが、キューバだったら見えてくる。そして何か忘れても許される。逃げるように出国した日本は、明るかった。

カバーニャ要塞の野良犬。

どうしてキューバという国にわざわざ、しかも一人で旅しようと思ったのか?

キューバは社会主義の国で、、、アメリカとの国交が正常化したから、、、
治安は比較的良いらしい、、、

それらしい理由はあるけれど、もとを辿れば強烈なエネルギー源がそこにあった。

資本主義で先進的な日本という国から離れ、社会主義のキューバに向かう姿に、私は心を強く打たれた。

日本にずっといることでなんとなく生まれた疑問を解消できずにいた自分を、認めてあげても良いと思えた。
そして、読み終えた頃には、目に映る景色が、世界が少しずつ変わり始めていた。



席を変えてもらい、人の目から遠ざかった一番奥の席に座っていたが、本を読みながら危うく涙を流すところだった。家だったら良かったけど、奥の席でも泣かれたら目立つ。必死に堪えた。

いつか海外旅行に行きたい、できれば一人で。そう決意した。

あとがき。

辺りはとっくに日が沈み、太陽の恩恵もなく、秋の涼しさに戻っている。半袖Tシャツで過ごしていた日中とは何もかもが違う。
カフェ内のエアコンが寒いと少し感じたのは気のせいだと流したが、退店してもなお寒い。季節の変化に敏感になりながらも、満足感のおかげで体内は暑さを保っている。

文庫本が発売されたタイミングで単行本を読み終えた。確かな満足とポカポカした心に相談して、決めた。


文庫本を買った。

単行本の発売から3年の月日が経って、文庫として発売されている。

「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」の一大ムーブメントは確かなものだと今頃知った。文庫本コーナーでこの本だけ明らかに買われている痕跡がある。数が少なくなっている。

明日には加筆された部分を読むつもりだ。最高潮に高まっている勢いのままにゴールテープを切りたい。走るのもスタートを切るのも遅いけど、腕を振っている以上は止まりたくない。

海外に旅行できるようになったら、どこに行こうか、いつ行こうか、そんな空想ですらももはや楽しくなってくる。

「世界の歩き方」だけを過信せずに、色々調べてから此処を発とう。私が生まれた日本という国を。



ここまでお読みいただき有り難うございました。

この記事が参加している募集

読書感想文

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。